モノやサービス、そしてライフスタイルも― UX視点のデザインには終わりがない

2016/10/26 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 製品/サービスが世に出てからもデザインは続く
  • 組織づくりにも活用されるUXの視点
  • 個人のワークスタイルに応用するとしたら
モノやサービス、そしてライフスタイルも― UX視点のデザインには終わりがない

ユーザーが本当に喜ぶもの、サービスを提供していくためには、「UX(User Experience ユーザー体験)」が重要なファクターになる。ユーザー体験のありようを考えることは、モノづくりの現場が直面する課題を考えることでもあるのだ。

 

UXを前提とした思考、デザインを活用して新たなビジネスモデルを作るためには、時代に即したビジネスモデルや組織を作っていくためには、どんな視点が必要なのか。そこにもUXへの視座が求められるのではないだろうか。

 

UXデザインを巡る対談の後編では、千葉工業大学先進工学部知能メディア工学科山崎和彦教授と、東芝インダストリアルICTソリューション社土肥匡晴氏が、UXを重視したデザイン思考の未来像を語り合い、その視点がもたらす新しいビジネス、組織づくりの在り方を照らし出す。(UXデザイン対談前編はこちら)

千葉工業大学 教授・博士 スマイルエクスペリエンスデザイン研究室 山崎和彦氏

千葉工業大学 教授・博士 スマイルエクスペリエンスデザイン研究室 山崎和彦氏

UXからEX、SXへ――組織そのものもデザインしていこう

千葉工業大学 山崎和彦教授(以下 山崎) 従来のモノづくりでデザイナーが関与するのは企画・開発段階のみでした。しかし、現在ヒットしているモノ、サービスの多くは、ビジネスとして軌道に乗るまで、またそれ以降もデザイン的な観点で考え、進められています。

 

そこに気付いた経営者が成功している、という現実があるのです。そのような成功体験を重ねたリーダーに聞いて印象的だったのは「サービスのデザインには終わりがない」というフレーズでした。

 

株式会社東芝インダストリアルICTソリューション社 土肥匡晴氏(以下 土肥) モノを発売し、サービスをスタートさせた後も柔軟に仕様を変えていく。そこがユーザーの満足度に反映されるんですね。すごく大事な視点だと思います。

 

高所からではなく、自戒を込めて言いますが、リリースしてなお、機能を向上させ、ユーザー満足度を高める行為は組織として続けていかなければなりません。

 

その中で、お客さまも、そして社会も変わり続けていきます。タイムリーにキャッチアップしていく姿勢も重要になってくると思いますね。モノづくりの現場、組織のありようもデザインしていかなければ、という山崎先生の意見には深く共感します。そこでお聞きしたいのですが、UX視点で組織をデザインしていくためには、まず何が求められるのでしょうか。

株式会社東芝インダストリアルICTソリューション社 IoT&メディアインテリジェンス事業開発室 IoTコンサルティング&事業開発部 IoTビジネスコンサルティング担当 参事 土肥匡晴氏

株式会社東芝インダストリアルICTソリューション社 IoT&メディアインテリジェンス事業開発室 IoTコンサルティング&事業開発部 IoTビジネスコンサルティング担当 参事 土肥匡晴氏

山崎 組織の場合はUXではなく「Employee Experience(従業員体験)」、つまりEXになりますね。私が好例として挙げたいのは、サイバーエージェント社の柔軟な組織づくりです。

 

人事担当が新しい制度、仕組みを導入した時のキャッチコピー、ネーミングを熟考し、社員のモチベーションに直結するモノを考えています。社員のパフォーマンスを最大限に発揮できる環境を整える。これがEX的な観点ですね。

 

EX的な観点と言っても、特段難しいことではありません。ユーザーの体験を考え、想定していくというUXをそのまま敷衍(ふえん)すればよいのです。たとえばですが、「上司の呼び方をこう変えてみる」「若手に新規事業の提案の仕組みを構築させてみる」など、アイデアを形にしてみる。それも、「とりあえずこの日、一回だけでもやってみよう」というプロトタイピング発想がベストでしょう。

 

土肥 なるほど、結果が出たら進めればいいし、悪かったら戻せばいい、と。山崎先生が以前おっしゃっていたように、「デザインは何かを改良することでもあり、場合によってはゼロから新しいことを考えてみること」ということですね。EX視点が柔軟な組織づくりにつながるのも納得です。

 

私が所属している社内カンパニーの代表は、「アイデアは量がなければ駄目だが、量だけを見てはいけない。従業員から自発的に出てくるアイデアの量があるかを見なければ」と常々言っています。私も、自発的な発想や行動が事業のイノベーションや企業のブランディングに直結すると考えています。

 

山崎 なるほど。そこに私が付け加えたいのは、現場を回す仕組みを作るのは誰か、ということです。EXの視点から実現できる価値を考えるためには、上層部の戦略も必須。そこにボトムアップでアイデアが湧き起こってくるのが理想でしょう。

 

その意味でもUXを全社的に広めることで、社員全員がユーザー視点に立つことができるのです。例えば、大きな組織では、新規事業からUXを導入するのも分かりやすい形でしょうね。

 

土肥 おっしゃる通りです。まさに僕は今そういうことの実現を目指すチームにいるんですよ。そこはB(ビジネス)・T(テクノロジー)とC(カスタマー)の視点で、企画や営業、開発、研究、デザイナーが柔軟につながれるチームを作り、新規事業をスモールスタートで始めることを目指しています。全社展開はまだ難しいですから、縦割りになっている組織の壁を意識せずに進められる環境づくりに邁進しています。

 

山崎 非常に興味深い試みですね。ぜひUX、EXだけではなく次のフェーズへ、前編でも挙げた、ユーザーの体験がシェアを通して広がり、コミュニティや社会に広く伝播していくSX(Social Experience)も重要な観点として実践していただければ。

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IoT×UX、そして個人としてUXを考えることについて

土肥 山崎先生には、IoTにおけるUXもお聞きしたいところです。東芝でも音声認識、画像認識などを活用するクラウドサービスを作っていますが、その認識データを収集し分析するだけでなく、人が何を意図しているのかを先読みして、より良い体験としてフィードバックすることまで考えることが重要になります。

 

つまり、モノをつないでデータを得るだけでなく、それらのモノやデータに関係する人々の体験にまで想いを馳せなければIoTはより良くならないと思うのです。組織づくりもソリューションもそうですが、IoTについても、人を絡めて、満足感やうれしい思いを循環させていくことの意義を考えていきたいですね。

 

山崎 土肥さんが所属されている部門が、まさに「IoT&メディアインテリジェンス」じゃないですか。ハードとソフトとデータが複雑化し、そこが先行して語られますが、UXとも密接に関わっていくでしょう。

 

そこに人の絡みが重要になる、というのはまったく同意します。先述のように情報量は膨大で、システムは複雑ですから、運用の観点からもUXが不可欠なのです。また、UXを考慮したデータ活用や人工知能の活用が鍵となっていきます。

 

土肥 ありがとうございました。では本対談の最後に、UXデザイン的な思考――私たちはデザイン思考とも呼ぶのですが――を取り入れ、進んでいくためのヒントをお聞かせいただければと思います。

 

山崎 「ビジネスモデル・キャンバス」という視点があります。これは、組織が目指すべきビジネススタイル、ビジネスモデルを分解し、有機的なつながりとして可視化するというもの。

 

これを「パーソナルビジネスモデル・キャンバス」と捉え、活用している人もいるんですよ。つまり、パーソナルなビジネスも企業体のビジネスも同一に考えられるということです。UX視点で対象ユーザーを誰にするか、何を大事にして提供するか、どうすれば一緒に活動したいという関係になれるのか。ロードマップのデザインは、個人でも考えるべきものなのです。

 

現在、兼業も認められるようになったり、フリーランスが増えたりと、ワークスタイルもさまざまです。ワークスタイル、ライフスタイルをデザインしていく姿勢は、個人でも変わりがない。今後、ますます重要になっていくのではないでしょうか。

 

土肥 非常に有用な示唆、アドバイスをいただきました。本日はありがとうございました。

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https://www.toshiba.co.jp/design/

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