エネルギー問題を救え 水素社会を実現するH₂One™

2015/10/15 Toshiba Clip編集部

エネルギー問題を救え 水素社会を実現するH₂One™

東日本大震災以来、国内のエネルギー事情は大きな転換期を迎えた。震災前、日本は国内の3割の電力を原子力発電に頼っている状況であったが、2012年5月、北海道電力泊原発3号機が運転を停止したことで、国内の原発は1970年以来42年ぶりにすべての稼働を停止した。

 

しかし、もともと日本はエネルギー自給率が6%とエネルギー資源のほぼ全量を海外に頼っており、将来的に化石燃料が枯渇する危険性や、近年の地球温暖化を巡る問題が深刻化していることを考えれば、旧来の発電方法だけでは重い課題が残る。

 

また、2030年の望ましい電源構成(ベストミックス)案として、経済産業省発行「長期エネルギー需給見通し」によると、太陽光などの再生可能エネルギーが22~24%、原子力が22~20%と設定されているが、これからの時代に合ったエネルギーとは一体どんなものなのだろうか。社会全体で、その問いに答える必要に迫られている。

これからの暮らしを支える水素エネルギー

次世代のクリーンエネルギーとして注目を集めるのが「水素エネルギー」だ。環境問題に積極的に取り組む欧州では水素ステーションが15ヶ所で稼働し、整備計画が進んでいる。

 

日本も2014年に「エネルギー基本計画」で「水素社会」の促進を明記しており、国として水素社会の実現に向けて取り組んでいくことを表明した。東芝では2014年に次世代エネルギー事業開発プロジェクトチームを発足させ、水素を使った世界初の自立型エネルギー供給システムである「H2One™」を開発。2015年4月からは、川崎市と共同で官民一体となった実証実験を開始した。

水と太陽光だけでエネルギーを供給

H₂One™の内部構造
 

「H2One™」は、水と太陽光のみで稼働できる自立型エネルギー供給システムで、太陽光発電設備、蓄電池、水素を製造する「水電解水素製造装置ユニット」、「水素貯蔵タンク」、「燃料電池ユニット」などが組み合わされている。

 

太陽光発電設備で発電した電気を用い、水を電気分解することで発生させた水素をタンクに貯蔵し、この水素を電気と温水を供給する燃料電池の燃料として活用する。発電時にCO2を発生させないので、自然環境にも配慮している。

 

同システムの最大の特長は、広く私たちの生活に役立てることができるようになっていることだ。平常時には設置する施設の電力需要に合わせ、電力のピークシフトおよびピークカットに貢献し、電気料金の削減や環境負荷の低減などに役立つ。

 

一方、災害時には、ライフラインが寸断された場合においても自立して稼働できるため、避難所に対して一定期間の電気と温水の供給ができる。さらに、大規模災害時には、輸送可能なコンテナパッケージであるため、被災地域に設備の輸送を行うことも可能だ。

 

川崎市との「再生可能エネルギーと水素を用いた自立型エネルギー供給システムの共同実証実験」では、川崎市臨海部の公共施設「川崎市港湾振興会館(川崎マリエン)」と「東扇島中公園」に「H2One™」を設置している。実証実験は2020年度末まで行われる予定で、様々なシチュエーションで活躍することが期待されている。

 

水素エネルギーがもたらすメリットとは

水素価格の推移
 

水素エネルギーに期待されるものとして、「資源の枯渇問題の解決」が挙げられる。資源エネルギー庁発行「エネルギー白書2015」によれば、化石燃料などの資源は2013年末時点で、石油53年、天然ガス55年、石炭113年(2011年末)、そしてウランは128年で底をつくとされている。

 

しかし、水素ならば水などのように他の元素との化合物として大量に存在しているので、「H2One™」のように水の電気分解から作ることも可能だ。太陽光・風力などの再生可能エネルギーからも生成できるため、エネルギー自給率が6%しかない日本においても安定的な電気の供給が実現する。環境面でのメリットも大きい。

 

また、H2One™は水素を用いて、電気のみならず、発生する熱を有効活用する事でお湯を提供できる事がメリットとしてあげられる。

 

水素に関しては、水素爆発などを起こすため、危険性を心配する声もある。しかし、水素には自然発火温度が高いため発火しづらいという性質がある。そのうえ、空気より軽く、拡散が非常に速いため、熱放射による延焼や被害拡大も少ないという特徴がある。旧来からエネルギー資源として使用されているガソリンや天然ガスと同様に、特徴を踏まえて適切に使用されれば、危険性を限りなく減らして有効に活用できるエネルギーだといえる。

世界で最も進んだ水素社会の実現へ

次世代エネルギー事業開発プロジェクトチーム 前川治 プロジェクトマネージャー
次世代エネルギー事業開発プロジェクトチーム 前川治 プロジェクトマネージャー

水素社会実現に向けた動きは、多くの業界を巻き込んで進んでいる。

東芝では「H2One™」以外にも、水素ビジネスに関連したさまざまな技術や製品を持っており、水素関連技術開発の歴史も古い。燃料電池開発の基礎研究は1960年代に始まり、1982年には国内で初めて加圧型の燃料電池の発電に成功した。2009年には、家庭用燃料電池の先駆的な製品「エネファーム」をリリースしている。そして2015年4月6日、東京都府中市にある府中事業所内に「水素エネルギー研究開発センター」を開所し、水素社会の実現に向けた取り組みを強化していく。

 

前川治氏は、「自然な形で水素インフラを実現していくために、東芝が持つ総合力で提案し、水素ビジネスをより大きなビジネスにしていきたいと思います」と語る。水素が実現する環境に優しいクリーンな社会。「H2One™」は、そんな社会を実現するための1つの方向性を示している。

この動画は2015年4月21日に公開されたものです。

 

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