訪日外国人へのおもてなし インバウンドサービスの未来

2015/12/16 Toshiba Clip編集部

訪日外国人へのおもてなし インバウンドサービスの未来

2014年の訪日外国人は1341万人に達し、前年比で29.4%増加した。中でも中国からの旅行者数は突出した伸び率を記録しており、連日マスメディアでも取り上げられている「爆買い」などによる経済効果も大きい。2020年には東京オリンピックも控えているなど、今後更なる発展が期待されるインバウンドビジネスには、各方面から熱い視線が注がれている。

 

しかし同時に、訪日外国人へ向けたサービスの拡充は、日本の社会全体が抱える課題にもなっている。英語が公用語ではない日本においては、言葉の壁が高く、外国人旅行者に既存のサービスなどを十分に満喫してもらえないケースも多い。交通機関や商業施設での案内も十分に整備されているとは言い難く、英語以外の言語を使う外国人に至っては、鉄道に乗って目的地へ到達することすら困難な状況だ。

 

せっかく日本に来てくれた外国人を、充分におもてなしする事ができない。そんな課題を解決するため、東芝では独自の技術力を生かした「トータルインバウンドサービス」を開発。今回は、同サービスの可能性を探りながら、インバウンドサービスの将来像に迫った。

3つのフェーズによるおもてなし

「日本を訪れてくれた人には、地域のコミュニティと触れ合い、日本ならではの価値に共感してもらいたいと思っています」

 

そう語るのは、東芝のインダストリアルICTソリューション社・IoT&メディアインテリジェンス事業開発室の佐久間敦氏だ。佐久間氏は新規事業の企画・開発に従事しており、同室の営業推進を担当する森兼秀記氏とともに、本企画の中核的な役割を果たしている。

森兼秀記氏(左)と佐久間敦氏(右)
森兼秀記氏(左)と佐久間敦氏(右)

私たちが目指すのは、利便性だけでなく、楽しさや驚き、感動を提供できるインバウンドサービスです。観光や買い物、飲食などの体験はもちろん重要なのですが、プラスアルファのサービスによって、おもてなしを実現したいと考えています。例えば、観光や買い物は旅行中の体験ですが、本サービスでは旅行前の体験もサポートします。外国人の方々は少なからず情報を集めてから訪日されると思いますが、地域や個別の施設の独自のイベントや直近のキャンペーン情報までは把握できません。本サービスのひとつである、「訪日前プロモーションサービス」では、訪日前から地域や施設、店舗の情報をお届けすることで、旅行の醍醐味である、より地域に密着した固有の情報を知ることができるようになります」

 

トータルインバウンドサービスの最大の特長は、旅行前の情報発信などで旅行者の関心や施設の集客を高める『認知・集客』のフェーズ、旅行中の位置情報の提供や、人に何かを尋ねたいときに音声合成を行い外国人のストレスや不安を減らす『回遊・誘導』のフェーズ、そして、同時通訳によって、現場スタッフの接客力を高める『購買・体験』といった3つのフェーズで、サービスが展開されていることだ。

 

「やはり旅行前から関心や知識がないと、地域や施設に来てもらうこと自体が難しくなりますし、独自のイベントやサービスに触れていただける機会も減ってしまいます。楽しさや驚きを感じていただくには、旅行前からのサービスが不可欠です。旅行前、旅行中、さらには旅行後までのサービスをつなげることで、旅行者と受け入れ側の両方のサポートができればと思っています

トータルインバウンドサービスを支える最新技術

佐久間敦氏

トータルインバウンドサービスは、スマートフォンをはじめ各種センサーやデジタルサイネージなどのデバイスが、ネットワークを介してインバウンドサービスの基盤と連携することで、様々なサービスを提供する。そのサービス基盤の主要な部分を担うのが、音声や映像を理解して分かりやすく人に伝えるクラウドサービス「RECAIUS(リカイアス)」だ。

 

RECAIUSについては、先月の東芝CLIPでも取り上げた通り(https://www.toshiba-clip.com/detail/p=345)、同時通訳や音声書き起こし、人物の認識など、IoTの最先端技術が使われている機能が備わっており、本サービスに欠かせない同時通訳や知的対話の実現を支えている。そこに位置情報や認証・決済などの要素を加えることで、様々なサポートが可能になる。

 

例えば、「回遊・誘導」のフェーズでは、双方向サイネージを用いた情報提供サービスを検討している。訪日外国人が言語を選択し施設内のサイネージの前に立って質問すると、欲しい情報を自国の言語で取得することができる。文字情報を表示するだけでなく、合成された音声で情報を伝えることができるほか、スマートフォンで位置情報を把握し、質問者を適切な方向に誘導することが可能となる。

 

また、ショッピングモールや百貨店では、多言語に対応できるスタッフの配置にはコストもかかるため、多くの店舗がコミュニケーション上の課題を抱えている。「購買・体験」のフェーズで活躍する「同時通訳サービス」は、タブレット端末やスマートフォンを使って、店舗スタッフと来店者の会話をリアルタイムに翻訳することができ、店舗でのコミュニケーションを円滑にしてくれる。

デバイス上に表示される同時通訳のイメージ図
デバイス上に表示される同時通訳のイメージ図

こうした技術は、施設内を案内するスタッフや、店舗のスタッフの負荷を軽減するとともに、「前さばき力」を高め、施設運営の効率の向上にもつながる。また、店舗でのコミュニケーションを円滑にすることは「おもてなし」のレベルアップに直結する。最新の技術が、日本の訪日外国人サービスの拡充には欠かせない存在になりつつある。

 

インバウンドサービスの未来

森兼秀記氏

 

こうした中、福岡・天神地下街で11月中旬から12月25日まで、「訪日前プロモーションサービス」、「商業施設向け同時通訳サービス」、「位置情報サービス」を活用した実証実験が行われている。

 

「今回の実証実験のターゲットは、中国人旅行者です。天神は九州でも有数の繁華街で、交通の要所としてハブにもなっている場所です。そこに多くの旅行者を呼び込めれば、大きな波及効果が生まれることでしょう」そう語るのは森兼氏だ。

同時通訳サービスの活用時の様子
同時通訳サービスの活用時の様子

今回の実証実験では、様々な工夫がなされている。例えば、「位置情報サービス」では、外国に来て旅行者が新しいアプリをダウンロードするのはややハードルが高い為、中国で広く使われている『WeChat(ウィーチャット)』を活用した。WeChatに連携した端末の位置を把握できるBLEビーコンを参加店舗に配置し、同時通訳が可能なタブレット端末を携帯した巡回スタッフとともに誘導を行う。

 

さらに旅行者がBLEビーコンの設置店へ近づくと、WeChat上でクーポンが発券される仕組みになっており、本サービスが店舗への誘導だけでなく、購買意欲の促進にも一役買っている。また、地域のイベントに触れてもらうため、クリスマスの天神ならではのイベントに参加できるような工夫も行っているという。

BLEビーコンを活用したクーポン発券の様子
BLEビーコンを活用したクーポン発券の様子

「天神の地下街のクリスマスイベントのうりのひとつに、買い物をしたらハンコを集めてくじをひけるというものがあります。景品も結構豪華なので、日本の方は当然買い物をしたら参加するのですが、海外の方はせっかく何万円も買っているのに、やり方がわからず参加できないという現状がありました。そこで今回の実証実験では、クリスマスに合わせて中・韓・英に言語対応をするほか、事前にくじという日本の文化の説明をするなど、海外の方にも日本の方と同じ楽しみを味わっていただけるようにしています

 

天神地下街の実証実験は、今後のインバウンドサービスの飛躍へ向けた足掛かりになると予想されている。2016年1月からは、「軽井沢・プリンスショッピングプラザ」で、「商業施設向け同時通訳サービス」が実導入されるなど、東芝のトータルインバウンドサービスに寄せられる期待は大きい。

 

サービスの提供を通して、音声データや位置情報など様々なデータが蓄積されます。それを分析することで、新しいサービスを実現することができると考えています。今後、東芝でも、お客様のニーズやマーケットの状況などを判断しながら、ショッピングモールや、商店街といった一施設単位のみではなく、商店街と商店街を繋げ地域の魅力を発信していけるよう導入を進めていければと思っています

 

今後さらに導入が進んでいくとみられるトータルインバウンドサービス。その最新の技術が、訪日外国人への満足度の向上はもちろん、日本という国がもつ様々な魅力を、海外へと伝えることにつながっていくはずだ。

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