電子ミラーで車体が透ける? コックピットソリューションの最前線

2017/07/18 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 車載ミラーにも電子化の波が押し寄せている。
  • 最先端技術が運転者の安全に寄与。
  • 次世代のコックピットはどう進化していくのか?
電子ミラーで車体が透ける? コックピットソリューションの最前線

鏡で映す代わりに、カメラで撮影した映像を表示する車載電子ミラー。自動車を取り巻く次世代技術の1つとして注目を集めるこのシステムが、昨年6月に道路運送車両の保安基準が改正されたことにより、ついに日本でも解禁された。

車載電子ミラー

運転手から直接見えない後方や側面などを映すミラー(鏡)は、安全を確認するうえで大変重要な装置だが、鏡を使う以上、死角を完全になくす事は不可能。その点、カメラを利用して電子的に車の周囲を表示する方法は、安全面からも期待が高まる。その開発の最前線を追ってみよう。

電機メーカーの強みをコックピットに生かす

「法律上、ドアミラーをカメラとディスプレーに置き換えることが可能になったことを受け、完全自動運転車が実現するまでの過渡期において、多くの車載器が電子化されると予想されます。その際、私たち電機メーカーの技術が貢献できる余地は大きいと考えています」

 

そう語るのは、東芝ストレージ&デバイスソリューション社・技術マーケティング統括部の秋山林太郎氏(所属は2017年6月時点)だ。

東芝 ストレージ&デバイスソリューション社 秋山林太郎氏

東芝 ストレージ&デバイスソリューション社 秋山林太郎氏

同社では単体の半導体製品として電子ミラーを考えるのではなく、さまざまな種類のICやメモリなど、関連製品を1つのソリューションにまとめて訴求する方針を掲げ、開発を進めている。そして、今後拡大するであろう市場を見据え、まずは映像合成技術の車載への応用を検討しているという。

コックピット

「映像製品などの開発で培った複数パネルを統一して表示できる技術を活用する構想からプロジェクトはスタートしています。その結果、室内映像と後方映像の合成に加えて、さらに側方映像と後方映像を合成し、ボディを透過して見えるようにすることにより車両感覚を損なわずに死角を低減する技術を開発。また、側方映像と後方映像はカメラの視点が異なるため、合成に苦労しましたが、工夫を重ねて品質アップに努めてきました」(東芝ソリューション開発センター・ オーディオ&ビジュアル技術開発部・荒木勝彦氏、所属は2017年6月時点)

 

現状は機能検証用のプラットフォームでの稼動がベースになっているため、今後車載対応のプラットフォームに向けた開発を行うことになるという。すべての機能が理想的に動作すれば、カメラモニタリングシステムが自動車の鏡に取って代わり、いっそう安全で便利な運転環境が実現するはずだ。

今後も刻々と変化する電子ミラーと取り巻く環境

こうした次世代型のコックピットシステムを、ADAS(先進運転支援システム)と呼ぶ。各社がしのぎを削る中、電子ミラーを中心とするADASには今、どのような課題があるのか。

 

「合成表示処理性能の向上や安全規格への適合など、細かな課題は多いですが、こうしたカメラモニタリングシステム共通の課題である、環境条件対応の向上は重要でしょう。たとえば夜間や直射日光、あるいは濃霧、トンネルの前後など、車外の照度が激しく変化した際の対応ですね。これはおそらく、HDRカメラや画像鮮明化技術の向上によって改善されていくものと思われます」(荒木氏)

東芝 ソリューション開発センター 荒木勝彦氏

東芝 ソリューション開発センター 荒木勝彦氏

こうした技術革新の行く先には、認識機能とのさらなる連携により、車や人、障害物を検知してドライバーに通知する、安全機能の向上も期待されると荒木氏は語る。

 

「また、将来的には 車内に設置される表示デバイスも柔軟に変化し、たとえばピラー(自動車の窓柱)部分に曲面ディスプレーやプロジェクションなどの技術を用い、カメラの映像を表示して死角をなくすようなことも可能になるでしょう」(荒木氏)

東芝 ソリューション開発センター 荒木勝彦氏

その一方で、車が完全自動運転の時代を迎えた暁には、運転者への配慮自体が不要となり、電子ミラーもまた不要になるとの予測もある。

 

「それでも、そのプロセスでカメラは残り、ディスプレーに鏡と相違ないレベルで表示させる技術は求められ続けるでしょう。そこで解像度やフレームレート、視野方向の違いなどによる違和感をどれだけ軽減できるか、さらなる技術の向上が必要です」(秋山氏)

東芝 ストレージ&デバイスソリューション社 秋山林太郎氏

電子ミラーの登場は、自動車の本質的な革新の第一歩といえそうだ。

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