情報管理の新常識 レシートから未来の革新へ

2017/12/13 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 流通業界で起きる革新。そのカギとなる未来の情報収集のあり方とは?
  • 経済産業省・「電子レシート」実証実験の狙いを探る!
  • 近い将来、私たちは「情報銀行」をどうやって利用する?
情報管理の新常識 レシートから未来の革新へ

私たちがレジでものを買うとき頻繁に利用するポイントカード。このカードから読み取られた購買情報が、商品開発などさまざまな用途に用いられているということは、多くの人々が理解しているところだ。

 

こうしたPOSデータとよばれる売り上げなどの販売情報の活用は、すでに私たちの生活に組み込まれており、今後、最終消費者との接点となる流通業が、データ収集の拠点として、ますます重要になっていくことが予想されている。

 

その一方で、消費者である私たちのデータが一体どこに利用されているのかを具体的に知っている読者は少ないのではないだろうか。これからの社会にはこうした情報の活用が欠かせないのだとはわかっていても、常に不安と隣り合わせであるといえよう。

 

そこで、現在、経済産業省では、データ流通市場の整備を行っている。そこでは、情報を活用しつつ、私たちが安心できる驚きの手法が生まれつつあった。

流通業におけるデータ活用に期待がかかる

流通業におけるデータ活用に期待がかかる
出典:流通・物流分野における情報の利活用等に関する研究会 調査報告書 P.20(経済産業省HP)

あの商品にもデータが活用されていた!?

未来の革新が期待されるデータの活用。まずはその事例から見ていこう。近年、スーパーやコンビニエンスストアで頻繁に見られるプライベートブランド商品はデータの活用例の一つだ。

 

プライベートブランドとは、単に小売業者の名前を冠しているだけの商品ではない。小売業がPOSデータなどを活用し、規格・意匠・型式などを指定して製造をメーカーに委託し、プライベートブランド商品として販売する。情報を大量に持つ小売業がメーカーと連携することにより、よりいっそう顧客ニーズに応えた商品を開発できるというわけだ。

 

また、メーカーとしても、共同開発した小売業者が商品を仕入れ、消費者に販売するケースが多いため、メーカーと小売業者の間ではWin-Winの関係を築くことができる。

プライベート・ブランド(PB)の一般的な取引形態

プライベート・ブランド(PB)の一般的な取引形態
参考:流通・物流分野における情報の利活用等に関する研究会 調査報告書 P.20(経済産業省HP)

また、意外と知られていないのは、「落ちないキャップ」の誕生秘話。読者の中にはペットボトルのふたが完全には外れず、ふたを落とす心配のないミネラルウォーターをご覧になったことのある方もいるだろう。

 

実は、これにもID-POSデータ(※)が生かされている。電子マネーのID-POSデータの分析により、駅中のミネラルウォーターが乗車前に購入される傾向があることを発見したのがきっかけ。その後の消費者調査から、駅中で購入されたミネラルウォーターは移動中に飲用されやすく、そのうえ、ふたを落とす不安を感じている人も多いことを突き止め、「落ちないキャップ」が誕生した。

 

※ID-POSデータ
ID付きのPOSデータのこと。POSデータは「何が、いつ、いくつ、いくらで売れたのか」という情報を指すのに対して、POSデータに「誰に売れたのか、誰が買ったのか」という情報が追加されたものがID-POSデータとなる。

現在、着々と進んでいるデータの活用。その一方で、私たち消費者にとっては情報の使い道が気になるところだ。実際、企業間での情報の売買に対して、消費者から反発が生まれる事態も発生しているという。そこで経済産業省が進めているのは、消費者が自ら進んで情報を提供できるような環境づくりだ。

未来の情報管理の仕組みとは?

2017年3月、経済産業省で「電子レシートアプリ」を用いた実証実験が行われた。電子レシートとは、レジでの紙レシートを電子化したもの。このアプリを使用することで、従来、事業者が保有していた購買データに消費者自身がアクセスできるようになるとともに、電子化されたレシートを消費者自身がスマートフォンで自己管理することが可能となる。

 

事業者はポイントプレゼントなどといったサービスの提供と引き換えに、年齢などの個人情報と購買履歴データの提供を消費者に依頼し、それに対して消費者は、提供してもよいデータを自分自身で選択することができる仕組みだ。

 

このアプリを使用した実証実験の結果、7割弱の実験参加者が、住所や電話番号を含む個人情報と購買履歴データをすべて第三者へ提供することを選択したという。また、全体の6割弱の参加者から、個人情報の取り扱いについて「(少し)安心・納得できた」という回答が得られた。

電子レシートアプリの画面イメージ

電子レシートアプリの画面イメージ
出典:電子レシートが資産価値を持つ時代へ(経済産業省HP)

従来、自分の情報を第三者に提供することに抵抗を感じがちであった消費者が、個人情報を自ら進んで開示することで、メリットを享受しようとしているという実証結果は、今後の流通分野における情報のあり方を考えるうえで示唆に富んでいる。

 

個人情報を扱う考え方の一つにVRM(Vendor Relationship Management=ベンダー関係管理)というものがある。これは、企業が顧客の個人情報を管理するというCRM(Customer Relationship Management=顧客関係管理)に対し、消費者自身が個人情報を管理し、そのデータを提供する企業を選択できるという考え方だ。

 

こうした考え方に基づく仕組みづくりは、プライバシーの観点だけではなく、これまで困難であった企業の枠を超えた個人データの収集にも役立っている。

デジタルレシートを活用した購買情報蓄積

デジタルレシートを活用した購買情報蓄積
― 電子レシートアプリも消費者自身が個人情報を管理する仕組みに
参考:流通・物流分野における情報の利活用等に関する研究会 調査報告書 P.61(経済産業省HP)

その中で、現在、日本では「情報銀行」という情報の信託機関の実現に向けた取り組みがなされている。「情報銀行」とは、消費者が自己に関連する情報をあたかも銀行にお金を預けるように信託機関に預け、その信託機関が適切に管理・活用することで、消費者にメリットを還元する仕組みである。私たち消費者だけでは運用が難しい膨大な量のデータをより効果的に活用することが期待されよう。

 

私たち自身が自分で情報を管理する世界。そこではデータを利用した革新が生まれるに違いない。その未来はもう私たちの目の前に迫っている。

 

■出典
(経済産業省HP)

買物レシートの電子化を通じたデータ利活用に関する実験を行いました~安心・納得してパーソナルデータを管理・提供できる環境整備を目指します~
https://www.meti.go.jp/press/2017/07/20170726001/20170726001.html

 

電子レシートが資産価値を持つ時代へ
https://www.meti.go.jp/main/60sec/2017/20170216001.html

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