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半導体技術×新材料=課題解決!? 水素センサーで社会をより安全に


何百もの論文を精読した末に

東芝のMEMSに関する長年のノウハウを集結し、水素センサーの設計は出来上がった。漏洩したガスに触れる部分である「センサー膜」に、水素を吸蔵して膨張する特性を持つ金属を用いることで、水素ガスを加熱せずに検知するというのが省電力化に向けたポイント。

水素を吸蔵して膨張したセンサー膜が、その下に設置してある可動電極を押し下げることで固定電極との距離を変化させる。その変化をキャッチして、水素の漏洩を判断するというのが大まかなメカニズムだ。

しかし、ここで問題となったのがセンサー膜に用いられる材料。

当初、開発チームが目を付けたのはパラジウムだった。水素分子に対して触媒作用を持ち、水素を吸蔵してパラジウム水素化物を形成する性質を持つためである。しかし水素との結合に時間がかかり、検知する速度は遅い。また、検知後、水素を放出するには加熱を必要とするので、電力を消費するという課題も残った。

この課題に対して、パラジウムに代わる新材料の開発に取り組んだ林裕美氏(同・研究開発センター)は次のように振り返る。

「新しい領域の研究を始める際、その分野の知見に乏しいのが普通です。ただ、新しい研究とはいえ、個々の要素研究には参考になる先行研究があります。分野の異なる研究も含めて、丹念に調査し研究開発を進めることが成功への近道なのです。そこで、センサー膜の研究のために何百という論文を精読しました」

株式会社東芝 研究開発センター・林裕美氏

株式会社東芝 研究開発センター・林裕美氏

その努力の末にたどりついたのが、結晶構造を持たないアモルファス合金(※)であるパラジウム系金属ガラス。パラジウムの原子の配列をわざと崩し、水素との結合を抑制したのが成功のカギだった。

※原子や分子などの配列に規則性がなく、結晶構造を持たないものを指す。

パラジウムとパラジウム系金属ガラス

「パラジウム系金属ガラスを使えば、こうした効果が得られるということは、これまでの数々のデータから予測できることでした。しかし、MEMS構造のセンサーに適用した際に、狙い通りの反応が得られるかどうか誰にもわからず、結果が出るまで落ち着かなかったことを覚えています」(林氏)

東芝で長年蓄積されてきたMEMSの技術に、材料の新たな知識が組み合わさることで、水素センサーの研究開発に一定の目途がついた。

開発したチップ(左)を搭載した水素センサー(右) ※矢印はセンサーチップ搭載部

開発したチップ(左)を搭載した水素センサー(右) ※矢印はセンサーチップ搭載部

今回試作した水素センサーチップは複数の素子を搭載しているため、今後は機能に応じてさらなる小型化も可能だ。次の課題は、完成を見たこの技術を、大量生産に対応させることだと山崎・林の両氏は口を揃える。そのためには、さらなる安定性と信頼性を追求する必要があるという。

水素エネルギーが安心して使える認識が広まれば、自ずと人々の生活に水素活用の機会は増えていくだろう。目指すのは、このセンサーが水素社会のあらゆる場面で、当たり前のように活用される未来である。

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