シャンデリアにLEDを 新素材GaNが支える“コンパクト”の裏側

2018/05/16 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 劇場や映画館でLED電球への置き換えが進まないのはなぜ?
  • 青色LEDで有名な新素材がLED電球の小形化・高性能化につながる!
  • LED電球でシャンデリアの七色の輝きを作るには?
シャンデリアにLEDを 新素材GaNが支える“コンパクト”の裏側

まずは下の映像をご覧いただきたい。右の電球では光をギリギリまで絞ることができるが、左の電球では絞り切れていない。次に流れる映像も右の電球がきちんと点灯しているのに対し、左の電球はちらつきが目立つ。

 

従来のLED電球調光機能に課題があった。
この動画は2018年5月16日に公開されたものです。

左は、我々が日常で使用している従来のLED電球。右は、今回ご紹介する東芝が開発した新しいLED電球だ。

 

電球の調光性能は私たちの生活にとって非常に大切なもの。例えば劇場や映画館では上映前に作品へ感情移入させるため、周囲の照明を徐々に暗くし、消灯直前には周囲の認識が困難なほど光を絞ってから消灯するフェードアウト手法を用いている。

 

省エネのため白熱電球からLED電球への置き換えが進む中、なかなか置き換えが進まないのが劇場や映画館、ホテルなどである。その理由は先ほどご覧いただいた通り、従来のLED電球は白熱電球に比べ、調光性能が劣るため。

 

調光性能の他、色味が劣ることや、LED電球のサイズが大きいために、シャンデリアなどでは既存器具にLED電球をセットできず、器具自体の交換を余儀なくされることが白熱電球からの置き換えを阻んでいる。

なぜLED電球はちらつくの?

「従来のLED電球がちらつくのは、調光器が白熱電球に合わせて設計されているため、白熱電球とは特性の異なるLED電球を装着すると誤動作を引き起こすからです」

東芝ライテック株式会社 技術・品質統括部 大武寛和氏

東芝ライテック株式会社 技術・品質統括部 大武寛和氏

そう語るのは、東芝ライテック株式会社 技術・品質統括部の大武寛和氏だ。調光器とは、電球とは別に家屋に設置された、光の量を調整する機器のこと。大武氏によれば、フェードイン・フェードアウトの問題も調光器との相性に起因するという。

 

白熱電球は調光器を組み合わせると、「暗黒ではないが十分に暗い」と感じさせる明るさまで調光できる。しかし、LED電球は流れる電流の量に比例して出力制御する。この明るさの領域では電流が微少でコントロールが非常に難しいのだ。

白熱電球に合わせて設計された調光器を組み合わせるとLED電球は誤動作などを引き起こす

それでは、既存の調光器に頼らなければよいという考え方もあるかもしれない。だが、電球を変えるためだけに電気工事を伴う調光機器や配線の交換をしたいと思う人は少ない。となれば、電球自体の調光性能を向上させるために、機能部品を搭載する必要がある

 

「しかしそれが難しかったのです。電源回路を大形化させ、ひいては電球を大形化することになるからです。調光機能を搭載するために、これ以上、電源回路部分を大きくすることは現実的ではありません」(大武氏)

LED電球では、光源部に比べ電源回路の割合が大きい

LED電球では、光源部に比べ電源回路の割合が大きい

電源回路の小形化――この課題に立ち向かったのが大武氏らの開発チーム。彼らが目を付けたのは、ノーベル賞で知られる青色LEDの材料・窒化ガリウム(Gallium Nitride、GaN)だった。

シャンデリアにLEDを

GaNは2014年ノーベル物理学賞を受賞した青色LEDの材料として有名。この材料をトランジスタに活用すると、従来のシリコン半導体に比べ、導通損失(※1)が小さくなり、高速動作(※2)が期待できる。次世代半導体材料の一つだ。

 

※1 電流が流れることによって生じる熱量(電力)のこと。これが小さいほど、消費される電力(損失)が小さくなり、半導体として高性能とされる。損失は熱となるため放熱機構部品が必要とされる。
※2 電源回路に用いられるスイッチングトランジスタは高速でオンオフを繰り返している。単位時間あたりの動作回数は半導体材料にも依存し、GaNは既存材料のシリコンと比較すると10倍以上の動作を実現できる。

「回路基板上の部品を小形化するには半導体の性能を上げるしかないと思いました。GaNを使用して動作周波数を高め、周囲の部品形状を小さくしました。また、GaNは同じ電流を流しても電力の損失が小さく、放熱機構部品も小形化されます」(大武氏)

大武氏

大武氏

このように回路が小形化された分、ちらつきを抑えるなどの電気機能部品や光学制御部品をLED電球に搭載白熱電球と同等のサイズ・同等以上の機能をもつLED電球を実現した

 

このGaN搭載LED電球が活躍できる場は数知れない。その一つが明治記念館の蓬莱の間だ。

明治記念館 蓬莱の間のシャンデリア

明治記念館 蓬莱の間のシャンデリア

「蓬莱の間にはシャンデリアがあり、2017年9月に白熱電球からGaN搭載LED電球に置き換えられました。ここでポイントとなったのは、ちらつき抑制だけではなく、白熱電球のフィラメント(※)の輝きを再現させることでした」(大武氏)

 

※フィラメント:照明器具の部品の一つで細い金属線からなる。白熱電球では電流を流すと強く光る。

シャンデリアのガラスビーズはプリズムとして機能し、輝点が小さい光が入射すると、スペクトルごとに屈折し、七色に分光する。逆に輝点が大きい場合、さまざまな方向からガラスビーズに入った光が方々に分散してしまい、結果的に出射した光がお互いに交じり合ってもとの光源光色に戻ってしまう。

シャンデリアを七色に輝かせるためには輝点を小さくする必要がある

シャンデリアを七色に輝かせるためには輝点を小さくする必要がある

「シャンデリア用のLED電球には輝点が小さく輝度の高い発光部が必要でした。これが可能になったのも、回路部分が小さくなったため、光学制御部品を搭載できたからです。蓬莱の間の輝きがLED電球で実現できた裏側にはGaNの力が隠されているのです」(大武氏)

 

GaN搭載LEDを用いたシャンデリア
この動画は2018年5月16日に公開されたものです。

このGaN搭載LED電球は「平成29年度 省エネ大賞資源エネルギー庁長官賞(節電分野)」など数々の賞を受賞。

 

「今回の開発では、一つの課題を解決すると次なる課題が待ち受け、これが何度も発生するため、そのたびに心が折れそうになりました。私たちは電源回路に携わりましたが、東芝の多くの部門に協力してもらい、この総合力が今回の成功へとつながりました」(大武氏)

GaN搭載LEDの電源回路に関わったチームメンバー

GaN搭載LEDの電源回路に関わったチームメンバー

私たちにとって身近なアイテムであるLED電球の裏に隠された高度な技術。今後、ますます新たな場所を照らしていくGaN搭載LED電球に期待したい。

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