データの戦いは始まったばかり! 最高デジタル責任者が語る東芝の挑戦

2019/04/17 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 東芝が目指す「サイバー・フィジカル・システム(CPS)テクノロジー企業」とは?
  • 「デジタルトランスフォーメーション」はよく耳にするけど、「デジタルエボリューション」って?
  • 東芝の中ではCPSテクノロジー企業への変革に向けて何が起きているのか?
データの戦いは始まったばかり! 最高デジタル責任者が語る東芝の挑戦

GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)と呼ばれるIT企業の成長は、世界の企業の時価総額ランキングでも上位を占めるなど著しいものがある。事実、私たちの日常生活においても、これらの企業の提供するサービスはなくてはならないものになっている。あらゆるモノがインターネットでつながる時代にあって、GAFAの成功が示すように、ビジネスのカギを握るのはデータだ。

 

東芝は、2018年11月に発表した全社変革に向けた5ヵ年計画「東芝Nextプラン」の中で「世界有数のサイバー・フィジカル・システム(CPS)テクノロジー企業を目指す」ことを明確に打ち出している。最高デジタル責任者としてデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation:DX)により、このCPSテクノロジー企業への変革を指揮する執行役常務・島田太郎氏に、東芝がいかにデータを活用してビジネスに取り込もうとしているのか、取り組みを聞いた。

株式会社東芝 執行役常務 島田太郎氏

株式会社東芝 執行役常務 島田太郎氏

サイバーとフィジカルの世界が融合するCPSの世界

「GAFAは世の中にないビジネスモデルを開拓しました。しかし、それははっきり言ってコンピュータの中にだけ存在しているものです。それだけではまだまだ不十分です」(島田氏)
経済産業省が2018年に取りまとめた調査※1によれば、日本国内のEC化率は5.79%との結果が出ている。逆の見方をすると、電子商取引の世界でも残りの約95%のデータはまだビジネスの世界では活用されていないとも読める。

 

「データには人のデータとモノのデータがあります。人のデータについては、GAFAのようなサイバー企業が既にビジネスモデルを確立していますが、モノ、つまりフィジカルのデータについてはこれからビジネスモデルが立ち上がっていきます。データの戦いはまだ始まったばかりです。そんな中にあって、東芝はお客様との接点のポイントは少なくとも持っています。これを何とか生かすことができないかを考えています」(島田氏)

※1:経済産業省が2018年4月25日に公表した「平成29年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)報告書」

 

では、東芝の目指すCPSテクノロジー企業とは何なのだろうか。島田氏は次のように説明する。

 

「サイバーの世界のデータだけではなく、フィジカルな、現実世界の様々なモノから出てくるデータを合わせることによって、新しい価値を作っていくことを提案していきたいということです。東芝は、サイバーの世界では、製造業をはじめ様々な企業に対してデジタルソリューションを提供しています。一方でフィジカルの世界では、長年にわたり最先端の技術開発を行い積み上げてきたAIや様々な電動化技術などがあります。これらの技術を融合させることによって、今までにないものを作ることができると思っています」

CPSイメージ

CPSテクノロジー企業への道のり

「CPSテクノロジー企業になれている企業はまだありません」と語る島田氏によれば、CPSテクノロジー企業になるためにはデジタルエボリューション(Digital Evolution:DE)とDXの両方が必要だという。

 

「生産から販売までの一連のバリューチェーンをデジタル化することを、私はDEと名付けています。このDEという作業は、とても面倒で時間もかかります。泥臭い作業とも言えるかも知れません。ただ、東芝がCPSテクノロジー企業になるためには、DEだけでは不十分で、DEをやって準備を整えてからDXに進化していくものだと思っています」

CPSについて語る島田氏

「DEは今あるバリューチェーンの中でやっているだけです。友達同士がつながっているイメージですね。でも同じメンバーでデジタル化がされると全体が小さくなってしまうので、誰かが退場したり、それぞれが少しずつ苦しくなってきます。自分の仕事はここまでと定義してしまうと、デジタルの世界では自分の首をしめてしまうのです。」(島田氏)

 

DXという言葉は最近よく耳にする言葉の一つだ。東芝のような製造業以外でも、成長の柱として据えている企業も多い。

 

「私はDXとはプラットフォーマーになることだと考えています。ただ、全部自分で独り勝ちするのではなく、SDGsの発想や、近江商人の“三方良し”の考え方のように、みんなが栄えるような形でのプラットフォーマーにならないといけません。Layer Stuck EcoSystemといって、簡単に言えば、ライバルとも一緒に合わせてモノを提供していく。プラットフォーマーはこのような考え方をします。そして、プラットフォーマーになるために最低限必要な条件は、エコシステムを持っていること、リファレンスアーキテクチャーがあること、しっかりとしたパートナーマネジメントシステムがあること、顧客ベースがあることだと考えています」(島田氏)

 

リファレンスアーキテクチャーとは「モーターのスペックシートのようなもの。これがないとアプリも作れません」(島田氏)。公開可能な設計図をイメージすればよいだろうか。これを公開することで、多くのパートナーが関わるエコシステムが形成されていく。

CPSテクノロジー企業とは何か

社内で共通認識を みんなのDX

DXを進める上で障害はないのだろうか。社内でも従業員一人ひとりが十分に理解し、納得して、同じ方向を向いているのだろうか。デジタル化、標準化を進めることで、結果として自社の利益が減ってしまうことへの抵抗もあるはずだ。

 

「社内で私自身がDXを説明するプレゼンは100回以上行っていると思います。役員一人ひとりに対してだけでなく、取締役会の場でも行いました。事業部長や関係する人たちを集めて説明会も開きました。東芝の従業員一人ひとりに『デジタルをやらなければ会社として生き残れない』という認識を共有したかったのです」(島田氏)

 

2019年2月、東芝本社ビルでは100人を超える従業員が集まり、それぞれが考えるDXのアイデアを披露するピッチ大会が開催された。若手社員だけでなく、グループ会社の社長自らがプレゼンする姿も見られる等、非常に盛り上がり、年齢や部門を超えて、従業員が共通認識を持って取り組む姿に島田氏だけでなく、社内の熱気が感じられた。出されたアイデアはその後絞り込みがされ、事業化の可能性について検討が続けられている。「全部ではないし、時間のかかるものもありますが、事業化できるものもあります」と島田氏は語る。

島田氏プレゼンの様子

2019年度は東芝Nextプランの初年度となる。4月には島田氏が率いる「サイバーフィジカルシステム推進部」が新設され、CPSテクノロジー企業への変革をさらに加速している東芝。新しい未来を始動させようと、役員をはじめ従業員一人ひとりが、共通の理解の下、同じ方向を目指してスタートを切っている。

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