東芝が目指す“あかり”を通じた新しい価値創造とは?

2020/04/14 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 照明機器の製造拠点、鹿沼工場に「KANUMAあかり館」がオープン
  • 「魅せる工場」に込められた、東芝ライテックのトップの想い
  • 照明がインフラになり、新たな価値を伴う時代が到来する
東芝が目指す“あかり”を通じた新しい価値創造とは?

1989年、東芝から分社する形で設立された東芝ライテック株式会社。以来、同社は東芝創業者にして日本初の国産電球を発明した藤岡市助氏の想いを受け継ぎ、人々の生活を支える“あかり”の文化を支え続けてきた。

 

工場や商業施設向けの製品はもちろん、京都・五重塔や仏・ルーブル美術館など、様々な場面で活用されている東芝製照明機器。その生産拠点である東芝ライテックの鹿沼工場が今、「魅せる工場」として変貌しつつある。その象徴的施設が、敷地内に2019年9月にオープンした「KANUMAあかり館」だ。

 

こうした取り組みの背景にあるのは、「鹿沼を世界一の照明工場に」という強い想いだという。東芝ライテック株式会社の代表取締役社長である平岡敏行氏に話を聞いた。

 

発電所にヒントを得た、“魅せる”工場のコンセプト

「東芝創業者の一人である藤岡市助が、日本初の電球を発明してからおよそ130年。近年、電球がLEDへと進化したことで、我々が長く取り組んできた照明事業も、大きく変容しています。当然、それに合わせて生産ラインの体制も少しずつ改変が求められることになります」

 

東芝ライテック株式会社 代表取締役社長 平岡敏行氏 

東芝ライテック株式会社 代表取締役社長 平岡敏行氏

 

そこで照明機器の生産拠点である鹿沼工場もアップデートが進められることになった。敷地内に新たに設置された「KANUMAあかり館」では、東芝グループの照明事業の軌跡や照明機器の進化が年表にまとめられ、鹿沼工場のこれまでの歴史をわかりやすく伝えている。

 

「『KANUMAあかり館』のオープンに際して、プロジェクトに携わるスタッフに、改めて“鹿沼を世界一の照明工場にしよう”という強い意志を伝えました。工場として、品質や生産量の維持が第一なのは間違いありませんが、多くの方に足を運んでいただき、実際に東芝ライテックの生産拠点を見てもらうことで、スタッフ一同のモチベーション喚起に繋がればと考えています」

 

なお、今回のリニューアルにあたって平岡社長自身が大きな影響を受けたのが、株式会社JERAの西名古屋火力発電所だったという。

 

この西名古屋発電所の7号系列では、東芝のデザインセンターが建屋内部のカラーデザイン及びサイン計画を担当した。最新の技術が集結する発電所において、 “設備と人の関係性をデザインする”をコンセプトに、ヒューマンエラーを防ぐだけでなく、“そこで働く人が設備を自慢に思える・愛着を感じる”、という価値をプラスした。

 

株式会社JERA 西名古屋発電所7号系列の内観 

株式会社JERA 西名古屋発電所7号系列の内観

 

「発電所や工場のような産業施設は従来、どこか暗い雰囲気が付き物でしたが、西名古屋火力発電所は内観のデザインからして“魅せる”演出を感じさせ、単なる発電設備にとどまらない、近代的な雰囲気を感じさせます。そこで働く人々の気持ちに寄り添えば、こうした機能性と明るさを両立させる工夫が必要であると痛感させられました」

 

何より、自社の技術や歴史を対外的にアピールすることは、スタッフの士気の向上にもつながる。そこで、鹿沼工場のスタッフはもちろん、東芝グループ内のデザイン担当者らを積極的に巻き込みながら、「魅せる工場」の具体化に着手した。

 

「カスタマー視点」を重視した改装を実施

「KANUMAあかり館」のオープンは2019年9月。それに合わせて、敷地内の歩道やライトアップ設備が整備されるなど、鹿沼工場の在り方は一新した。

 

「鹿沼工場はもともとランプの製造がメインでしたので、硝子を溶かすために火を使います。その影響で製造現場は高い気温に晒され、硝子の屑が散乱する劣悪な労働環境が常態化していました。近年、LEDが電球に取って代わったことは、こうした環境の改善に着手するのにいいタイミングであったと言えるでしょう。それは今後の生産性にも少なからず影響するはずです」

 

改装作業はあくまで現場に任せていたが、要所で判断を求められる機会は多かったと平岡社長は振り返る。廊下の間取り、壁紙、トイレ――現場から寄せられる相談に対し、平岡社長の判断基準は常に明確だった。

 

重視していたのは顧客目線。今後、この鹿沼工場には今まで以上に多くの人がやってくることになるでしょう。その際、どのような印象を与えるのか、どんな不便が生じるのか。常にお客様の視点に立ってイメージするように心掛けていました」

 

なかでも工場内を一望できる、「展望台」と呼ばれるスペースは、平岡社長が最もこだわった点の1つだ。

 

「視察や見学に来られた方に、『おお』という驚きを与えるにはどうすればいいか。“魅せる工場”をコンセプトに掲げる以上、そうしたエンタメ性はやはり重要だと思っています」

 

展望台から見た製造ライン 

展望台から見た製造ライン

 

そんな鹿沼工場で生産される製品の中で、近年とりわけ注目されるのが、カメラ付きLED照明器具『ViewLED』だ。

 

「カメラが照明器具と自然に一体化する意味は大きいと考えています。従来の監視カメラが与えるネガティブなイメージを払拭し、あくまで自然に対象範囲内の映像をログとして残すことができます。蓄積したデータを分析、活用することで、CPS(サイバーフィジカルシステム)(※1)として機能する。いわば、照明がさらに重要なインフラとして機能する時代がやってきたわけです

 

鹿沼工場ではこの『ViewLED』が既に稼働し、そこで撮影される映像を実際に見ることができる。

 

「監視や防犯の意味ではなく、あくまでデータ的資産として映像を活用できるのが『ViewLED』の本質。照明はその施設の高い位置にあり、電源が取れる優位性もあります。今はまだ、上から捉えた映像をアーカイブする機能にとどまっていても、遠からずAIによって人の動きを分析し、配置や行程を効率化することで、生産性そのものの向上に繋げられるようになるでしょう。これはまさしく、あかりを通して世の中に貢献したいという、藤岡市助の理念に通ずるアプローチと言えます」

 

※1 現実世界のデータをサイバー空間で分析し、活用しやすい情報や知識として現実世界にフィードバックすることで価値を創造する仕組み

 

ViewLED

 

 

明るい「未来」へ向け、あかりを通じた社会貢献を

昨年以降、すでに鹿沼工場には多くの見学者が訪れている。将来的には地域の小中学校からの見学を受け入れ、地場産業としての魅力を発信してくイメージもある。

 

「照明はこの先も絶対になくなることはありません。ただし、LEDの登場に見られるように、テクノロジーの面では今後も目覚ましく変化を続けていくでしょう。照明が果たすべき役割も変わりつつあり、ただ暗いところを照らすだけのものではなく、イルミネーションなどの演出面でも重視されるようになりました。この鹿沼工場自体も、将来的にはライトアップや看板の装飾などを一新し、地域におけるシンボリックな施設に育てていきたいですね」

 

東芝グループが打ち出す理念体系に、「未来を思い描く」という価値観がある。目指すのは、「あかり」を通して次の世代を見据えた新たな価値づくりだ。

 

「世界有数のCPSテクノロジー企業を目指す東芝グループにおいて、照明機器が持つ可能性は非常に大きいと言えます。我々としては、“あかり”の付加価値を上げていくために、生産拠点としての機能を守り、そして強化していくことに邁進しなければなりません」

 

さらには、鹿沼工場をきっかけに、日本の生産シーン全体にポジティブな変化を与えたいと平岡社長は語る。

 

「工場は製造業における最先端の技術とノウハウが集まる場です。だからこそ、若い世代が憧れを持てる空間にすることが大切ですし、将来の製造業を担う人材を育成する場であるべき。その意味で、鹿沼工場の取り組みの中で生まれた生産性の向上や労働環境の改善のノウハウは、もしかすると日本全体の働き方を良い方向に変えていくヒントになるかもしれません」

 

平岡敏行氏

 

その実現は、まさしく“あかり”を通じた社会貢献の理想的な形。東芝の“あかり”は今後も日本の未来を照らしていく。

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