北海道の電力系統を守れ! 新方式の直流送電システム

2020/03/18 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 「同時同量」需要と供給のバランスが電力安定供給の要
  • 日本初の自励式変換器を採用した、直流送電システムの特長
  • 若手技術者の交流と、北海道系統を守る想い
北海道の電力系統を守れ! 新方式の直流送電システム

身近にあるコンセントに電源プラグを差し込む。今、こうして使っている電気は、たった今発電所で発電された電気だということをご存じだろうか。二次電池の普及によって、貯めておけるかのような印象に変わりつつある電気だが、実は貯めておくことは難しいのが現実だ。

 

電力需要が増えて、足りなくなると不都合が起こることは容易に想像できるが、実は不都合は需要が減って発電量が大幅に上回ってしまったときにも起こる。このため電力会社には、需要を見極めて今必要な電力を今必要な分だけ発電する同時同量が求められているのである。

 

また、不測の事態に備えて、近隣の電力系統と接続することで、互いに同時同量のバランスを保ち合う連系を行っている。なぜ、そこまで電力需給のバランスは必要なのだろうか?

 

北海道の電力系統を守れ!

 

日本国内には、いわゆる電力会社と呼ばれる「一般送配電事業者」が10事業者ある。それぞれが管轄するエリアの発電所や送配電設備を使い、周波数と電圧を一定の範囲に維持するための業務を行っている。この管轄エリア内の発電設備や送電・変電・配電設備といった発送電から、末端の電力消費者のための設備まで、すべてをまとめて電力系統(でんりょくけいとう)と呼んでいる。この電力系統では、沖縄を除き隣接する電力系統と接続する連系が行われている。

 

2019年3月、北海道と本州の系統を結ぶ連系設備である「北海道・本州間電力連系設備、以下、北本連系(きたほんれんけい)」に、新たに直流送電による30万kWの「新北海道本州間連系設備(以下、新北本連系)」が追加され、連系容量が60万kWから90万kWへと増強された。しかし、本州と電線を結んでまで守らなければならないものとはいったい何なのだろうか。

 

「電力の需給のバランスが崩れると、周波数が変わってしまうんです。我々は、この周波数を守るためにあらゆる努力をしています」

 

そう語るのは、北海道電力株式会社 送配電カンパニー 工務部 変電グループ グループリーダー 渡邊真琴氏だ。

 

北海道電力株式会社 送配電カンパニー 工務部 変電グループ グループリーダー 渡邊真琴氏

北海道電力株式会社 送配電カンパニー 工務部 変電グループ グループリーダー 渡邊真琴氏

 

周波数は、東日本で50Hz、西日本で60Hzが採用されている。これは、変わること無く自動的に一定に保たれていると考えている方も多いだろう。しかし実際には、規定の周波数の維持は、電力会社のたゆまぬ努力によって実現されているのだ。

 

電力系統は、沖縄を除き隣接する電力系統と接続する「連系」が行われている

電力系統は、沖縄を除き隣接する電力系統と接続する「連系」が行われている

 

使いすぎても、作りすぎてもだめ。周波数は、電力需給のバランスが保たれなければ乱れてしまう。周波数が乱れることにより、産業機械の動作が不安定になったり、最悪の場合は動作不能に陥ったりする。すなわち、周波数の安定は電力の品質そのものだという。

 

供給する電力は、多くても少なくても周波数を乱す原因となる

供給する電力は、多くても少なくても周波数を乱す原因となる

 

この電力の需給バランスを安定させるための一つの手段として、隣接する電力系統と接続することで、互いに電力の調整に役立てる「連系」を行っている。

 

「北海道電力エリアでも、隣接する東北電力エリアとの連系を行っています」

 

北海道電力株式会社 送配電カンパニー 函館支店 今別ネットワークセンター 変電課 佐藤森氏が、東北電力との連系について解説を付け加えた。

 

北海道電力株式会社 送配電カンパニー 函館支店 今別ネットワークセンター 変電課 佐藤森氏

北海道電力株式会社 送配電カンパニー 函館支店 今別ネットワークセンター 変電課 佐藤森氏

 

連系は、二つの電力系統を送電線で結んで行う。そのための送電には、二種類の方法がある。一つが交流電流をそのまま送電する「交流連系」もう一つは、直流に変換して送電する「直流連系」である。

 

「北海道電力と東北電力の間で行われている連系は、現在3系統ありますが、すべて直流による連系を行っています」(佐藤氏)

 

既設の二本の連系設備は、大間市と函館市を海底ケーブルで結んでいたが、新北本連系は青函トンネルを利用して敷設された

既設の二本の連系設備は、大間市と函館市を海底ケーブルで結んでいたが、新北本連系は青函トンネルを利用して敷設された

 

北海道の電力系統は、50Hzの交流を採用している。連系される本州側の系統も同じく50Hzの交流だが、接続する連系設備には、なぜ直流送電が採用されているのだろうか。

 

「連系に直流送電を利用することには、様々なメリットがあります。そのうちの一つが、交流と直流の変換を行うことにより、連系相手の系統事故の影響を受けないということがあります」(佐藤氏)

 

交流のままの連系では、接続される系統で起きた事故や、落雷などによる影響が、そのまま伝わってしまうのだという。これに対して、変換器を挟む直流による連系ならば、影響を受けることは小さいという。

 

「本州の電力系統に比べて、北海道の系統は規模が小さいため、本州の系統のわずかな変化でも、大きな影響として受けてしまう可能性があります。直流送電による連系ならば、こうした変化から北海道系統を守ることができます」(渡邊氏)

 

一旦、交流を直流に変換し、直流送電した後に再度交流に変換するため、変換前の交流電圧の影響(周波数変動,電圧変動)を受けない

一旦、交流を直流に変換し、直流送電した後に再度交流に変換するため、変換前の交流電圧の影響(周波数変動,電圧変動)を受けない

 

 

 

プロジェクトチームが挑んだ、日本初の自励式直流送電システム

 

元々、北海道系統と本州系統を結ぶ連系は、30万kWの連系が二系統あった。ここに、2019年3月に新たな連系設備となる「新北本連系」が新設されたのだ。

 

「北海道系統の安定のためには、最低でも60万kW程度の連系量が必要ですので、30万kWの二系統の連系だけでは、そのうちの一系統の設備が事故停止したり、設備点検で停止している期間には連系容量が不足する可能性がありました。」(渡邊氏)

 

30万kW一系統が停止している状態であっても60万kWの連系量を確保し、安定した北海道系統を維持するという理由から、新たに30万kWの新北本連系が増設されることとなった。そして、この新北本連系では新たな試みとして、直流と交流の変換器に自励式変換器を採用した。これは既存の二系統の連系設備とは異なる方式だ。

 

新北本連系で稼働する自励式交直変換器

新北本連系で稼働する自励式交直変換器

 

「これまでの連系設備で採用されていた『他励式変換器』では、接続する交流系統を変換動作の外部電源として使用するので、電力を受ける側・送る側の両方の交流系統が健全でなければ運転できず、連系する電力量に応じた系統規模が必要という制約があります。一方、『自励式変換器』の変換動作は接続する交流系統に依存しないので、片方の交流系統に電気が無い状態であっても自ら交流波形を作り出し電力を融通できるため、より柔軟に運転することができます。」(佐藤氏)

 

すなわち自励式変換器は、停電時でも連系された系統からの直流送電のみで停電している交流系統側へ電力を供給することができるのだ。

 

この自励式の変換器による連系は、系統を連系する直流送電としては日本初の試みだったという。これほどのメリットがあるにもかかわらず、これまで採用されてこなかったのはなぜなのだろうか。東芝エネルギーシステムズ株式会社 島田和義氏は自励式変換器を実現させた技術についてこう語る。

 

「以前は、系統連系レベルの高電圧に対応できる自励式の変換器がありませんでした。東芝は、高電圧化に対応したMMC方式(※1)を適用した自励式HVDC(※2)システムを国内メーカーとして初めて実現したのです」

※1 MMC方式:MMC: Modular Multilevel Converter(モジュラーマルチレベル変換器)
※2 HVDC:High-Voltage Direct Current(高圧直流送電)

 

東芝エネルギーシステムズ株式会社 グリッド・アグリゲーション事業部 パワーエレクトロニクスシステム技術部 参事 島田和義氏

東芝エネルギーシステムズ株式会社 グリッド・アグリゲーション事業部
パワーエレクトロニクスシステム技術部 参事 島田和義氏
 

東芝エネルギーシステムズ株式会社の鈴木大地氏は、プロジェクト開始当初を振り返って次のように話した。

 

「私にとっては、入社後初めての大きなプロジェクトでした。ですが、それは私だけではありませんでした。直流送電での自励式変換器の採用も国内初だったため、先輩や上司の誰もが経験の無い中、みんなで一歩ずつ、手探りで進めていきました」

 

東芝エネルギーシステムズ株式会社 グリッド・アグリゲーション事業部 パワーエレクトロニクスシステム技術部 主務 鈴木大地氏

東芝エネルギーシステムズ株式会社 グリッド・アグリゲーション事業部
パワーエレクトロニクスシステム技術部 主務 鈴木大地氏

 

東芝は、関連会社とも協働し、100名を遙かに超えるメンバーからなるプロジェクトチームを編成して挑んだ。

 

「超えなければならない壁はいくつもありましたが、北海道電力様とも協力して、ひとつずつ課題を解決していきました」(島田氏)

 

中でも自励式変換器には大きな課題があった。これまでの自励式変換器では、電力連系で使われるレベルの高電圧に対応できないだけでなく、変換ロスが大きく実用的ではなかったのだ。

 

「そこで、小さいコンデンサをたくさん積み上げることで、変換ロスを抑えたまま高い電圧に対応できるMMC方式の自励式変換器を開発しました」(鈴木氏)

 

北海道電力と東芝グループ、双方の技術者が知恵を出し合うことで、新北本連系プロジェクトは少しずつ前に進んでいった。

 

「でも、もう少しだけ新北本連系が早く完成していれば、胆振東部地震でのブラックアウトは防げたかも知れません」

 

佐藤氏は、少し悔しそうに言った。

 

2018年9月6日に起きた北海道胆振東部地震の影響を受け、北海道電力管内のほぼ全域が停電する大規模停電(ブラックアウト)が起きた。

 

ブラックアウトは、地震による苫東厚真火力発電所の故障停止をきっかけとして発生した。
北海道系統の電力の半分以上を供給していた苫東厚真の停止によって電力供給が不足し、急激な周波数変化が起きた。これにより、系統内の他の発電所は、自身を故障から守るための措置として発電機を遮断。こうした発電機停止の連鎖によってブラックアウトが発生したのである。

 

そして、他励式変換器を持つ、北本連系設備も北海道系統のブラックアウトにより停止後、再起動できなくなってしまう。

 

「自励式の新北本連系ならば、ブラックアウトの後でも、電力を供給しながら少しずつ発電所を再稼働させる、ブラックスタートをより早く実現できていたのではないかと思います。いや、それ以前のブラックアウトに至る前に本州側からの電力融通により周波数変化を抑えて、故障していない発電所の連鎖停止を防ぐことができた可能性もあったと考えています」

 

渡邊氏は当時を振り返り、少し残念そうに語った。

 

苫東厚真火力発電所が発電できなくなったことで、系統の周波数が急激に低下。それを受けて、他の発電所も故障を避けるため連鎖的に発電停止していったため、ブラックアウトが発生した

苫東厚真火力発電所が発電できなくなったことで、系統の周波数が急激に低下。
それを受けて、他の発電所も故障を避けるため連鎖的に発電停止していったため、ブラックアウトが発生した
 

「でも、今は新北本連系があります。もう同じことにはさせたくありません」

 

佐藤氏の言葉には、静かな口調ながら力強さが込められていた。

 

若い技術者を成長させた、初めてのビッグプロジェクト

 

北海道電力の佐藤氏と東芝の鈴木氏の二人にとって、新北本連系は、初めての大きなプロジェクト参加だったという。

 

「プロジェクトの途中、監視制御システムを作るため東芝の府中事業所にお世話になりました。そこで、びっくりしたことがありました」(佐藤氏)

 

実は北海道電力の佐藤氏と、東芝側の担当者であった鈴木氏は、それまで互いに面識がなかったものの、同じ大学の同じ学部の同期生だったのだ。

 

「意外なつながりでしたけど、おかげでお互いに思う存分自分の意見を言うことができたと思います」(鈴木氏)

 

佐藤氏の東芝府中事業所での出張業務は4ヶ月に及んだ。その間、多くの経験を積むことができたという。

 

「通常の業務ではお話しすることの無い工場の方々との交流は、大きな意味を持つ経験でした」(佐藤氏)

 

佐藤氏は、離れた場所にいて人づてにコミュニケーションを取るだけでは「こうして欲しい」という想いはなかなか伝わらないという。それは、コミュニケーション手段の問題ではなく使い手と作り手がどう考えるかをお互いに理解することが大切なのだと。そんな出張業務の終盤、佐藤氏が送別会で語った言葉が鈴木氏の胸を打つ。

 

「普段は物静かな佐藤さんが、『僕は、北海道系統を守りたい。これから私たちがやろうとしていることは必ず北海道の人々のためになるはずです。』と自分の想いをみんなの前で語ってくれました。それを聞いて、彼らと一緒に北海道系統のために力を尽くしたいと思いました」(鈴木氏)

 

北電・佐藤氏&ESS・鈴木氏
「府中事業所の現場も、『一緒にがんばろう』という雰囲気に包まれていました」(島田氏)

 

二人の若い技術者が、社会人として初めて参加したプロジェクトは、こうして順調なスタートを切ったかに見えた。しかし、運転開始を半年後に控えた2018年9月、前述の北海道胆振東部地震が起きる。

 

「まずは、ブラックアウトしてしまった北海道系統の復旧が、目の前の課題となりました」(渡邊氏)

 

それでも、新北本連系は進めなければならない。一刻も早い連系の実現が求められていたのだ。

 

「東芝のエンジニアリング力を信じていました。東芝には、信じるに足る仲間たちがいましたから」(佐藤氏)

 

「自励式変換器による直流送電は、日本初のプロジェクトでした。だから、やることすべてが初めて経験する壁だったんです。その上、大きな震災に見舞われてしまいました。でも、北海道電力様の想いに応えるため、できることを一つずつ積み重ねていきました」(鈴木氏)

 

こうして、新北本連系は8年近くの歳月を経て、当初の予定通り2019年3月に運転を開始した。

 

完成の一歩手前で大規模災害に見舞われるアクシデントを経ながらも、予定通り竣工し運転開始できたのも、多くの人々の北海道系統を守りたいという気持ちによって実現したのだ。

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