機械学習はコロナ時代における臨床試験の持続可能性担保にどう役立つのか

2020/11/20 

機械学習はコロナ時代における臨床試験の持続可能性担保にどう役立つのか

新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的流行は、われわれにとって最大かつ世界的な医療危機であり、臨床試験をはじめとする医学研究に大きな課題を突きつけている。その一方で、機械学習の進歩が臨床試験に適応されよりスマートで迅速かつ柔軟な未来の臨床試験の基礎を築く機会が広がりつつある。

 

ケンブリッジ大学Cambridge Center for AI in Medicine所長のMihaela van der Schaar教授が率いる、データサイエンティストと製薬業界の専門家による国際共同研究に関して「Statistics in Biopharmaceutical Research」誌に発表した論文では、新型コロナウイルスが臨床試験に及ぼしている影響について述べるとともに、最新の機械学習アプローチが世界的流行に伴う課題の克服にどう役立つのかを明らかにしている。

この論文では、機械学習が貢献できる臨床試験の3領域として、既存薬を新型コロナウイルス感染症治療薬に転用するための試験、新型コロナウイルス治療薬としての新薬の試験、現在進行中の新型コロナウイルスとは無関係の薬物の臨床試験を挙げている。

Novartisなどの製薬会社の研究者を含むチームは、「今回の世界的流行は、この難しい状況で利用可能な斬新なアプローチを適用する機会となる」と指摘し、臨床試験データへの強化学習、因果推論、およびベイズ流アプローチ※1における最新の状況を紹介している。

※1 個人の事前知識(事前確率)と尤度(データ)を結合し、確率を更新すること(事後確率)

研究者らは、機械学習の現状を示したうえで、新型コロナウイルス感染症がもたらした課題に対処するだけでなく、臨床試験全般の水準を引き上げて、より柔軟で効率的かつ確実なものにするために機械学習をどう利用したのかを示すことが重要だと考えた。

研究者らは論文の中で次のように述べている。

  • 新型コロナウイルス感染症により、被験者やスタッフが試験実施医療機関に行く手段/意欲が低下し、タイムリーなデータ収集に混乱が生じたり、仮想データ収集への移行が必要になっている。
  • 場合によっては、臨床試験全体の遅れ、または中断が生じている。
  • それに伴い、多くの時間を要し、柔軟性に欠ける多段階でのランダム化比較試験※2という標準的な臨床試験手法が如何に非効率で、今回のような危機的状況において不十分であるかが明らかになっている。
※2 評価のバイアス(偏り)を避け、客観的に治療効果を評価することを目的とした研究試験の方法

その一方で、機械学習によって次のことが可能になると述べている。

  • 「仮想」対照群の作成を支援する。病院の壁を越えてデータを統合することにより、標準的治療を受けているが、それ以外の点では実験的治療を受けている患者と類似している患者を、データ駆動型手法によって特定することができる。
  • 世界的流行の結果として中断している臨床試験のデータから知識を抽出し、募集計画、サンプルサイズ、治療の割付などの設計要素を調整する。
  • 新型コロナウイルスに対する転用薬の有効性を評価するための大規模なアダプティブ臨床試験の設計、実施、および評価を改善する。Solidarity(WHO 2020)やRECOVERY(Oxford 2020)といった目下進行中の臨床試験では、登録可能な治療群全体をランダムに割り当てられた多数の試験実施医療機関において患者を募集している。
  • 新薬が有効かどうかをコンピューターで検証するだけでなく、既存薬の同定や転用を促進するためにも、新型コロナウイルスの生体分子の挙動パターンやサインを発見するうえで重要な役割を果たす。
  • 新型コロナウイルス治療への薬物の実験的使用と人道的使用によって発生した大量のデータを利用して今後、臨床試験を行う薬物候補を選択する。機械学習手法による観測データからの因果推論はこのタスクに特に適している。
  • 標準的な多段階ランダム化比較試験の枠組みを打破し、試験プロセスをより効率的な試験・収集・再試験の連続適応ループに転換する。機械学習方法論を用いて新薬の毒性と有効性を同時に学習することで、学習時間の短縮につながる。これは一刻を争う新型コロナウイルス治療薬の臨床試験に特に役立つ。

 

Mihaela van der Schaar教授はこう述べている。「新型コロナウイルスの世界的流行は、われわれにとって最大かつ世界的な医療危機です。当面必要なことは、新型コロナウイルスの治療法とワクチンを特定し、承認し、供給することです。臨床試験のための機械学習に関するわれわれの最近の研究は非常に有望です。論文で述べた技術的課題の多くは、特に世界的流行の状況下で深刻になっていますが、進行中の臨床診療にも大いに関連します。ウィズコロナだけでなく、ポストコロナにおいても、機械学習によって臨床試験の実施と評価を改善できればと考えています」

共著者であるNovartisのFrank Bretz教授は次のように語っている。「人工知能は、すでにいくつかの医学領域で大きな影響を与えています。機械学習アルゴリズムは、例えばレントゲン写真やMRI画像/スライドの読影能力において、熟練した臨床医と同等かそれ以上と証明されています。この最新研究は、新型コロナウイルスの影響を受けている、あるいは関連する臨床試験に従事しているデータサイエンティストと機械学習コミュニティーとの隔たりを埋めることを目指しています。これらの新たな手法を取り入れることは製薬業界にとって不可欠であり、それは現在の世界的流行以降も変わりません。この取り組みで学んだことは、医薬品開発全般の将来に影響する成果をもたらし、世界中の患者の生活を変えるはずです」

 

この記事はMedical Xpressが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comにお願い致します。

※本記事の文中リンクは英語のページに遷移します。

Related Contents