5Gが工場をよみがえらせる

2020/12/25 William Van Winkle

5Gが工場をよみがえらせる

工場は、物理的なデバイスを監視・制御するオペレーショナルテクノロジー(OT)に支えられている。OTは長年、開発スピードや性能の面でITに遅れをとってきた。その大きな理由は、OTシステムは、信頼性が性能よりもはるかに重要だという考えに基づいている。工場のITシステムに障害が発生すると、インターネット接続が切れるだけかもしれない。しかし、工場のOTシステムに障害が発生すると、製造ラインが不良部品を作り始めたり、労働者が負傷したりする可能性がある。その結果、OTの場合は「壊れていなければ…(直す必要はない)」と考えがちである。この考え方によって工場は稼働し続けるが、高度なデータサービスとうまく統合することで得られる、数えきれないほどの改善機会も失う。

 

OTとITの境界線が曖昧になってきた今、OTシステムにはますますスピードが求められ、インターネットプロトコル(IP)、Linux、アナリティクスなどのIT技術を導入する工場がどんどん増えている。IT技術を導入することで、システムセキュリティの強化やデジタルファクトリーモデルへの移行、製造部門全体におけるモノのインターネット(IoT)のより包括的な導入が可能になる。その結果、価値と費用対効果がさらに向上する。しかし、デバイスから取得したデータをエッジ処理システムからデータセンターへ送信する(そして、おそらくやり取りする)ことが重要な課題の1つである。そこで、5Gの登場である。5Gのリリース 16(「フェーズ2」)は、産業環境における超高信頼・低遅延への道を切り開くことができる。

 

では、5Gがどのように工場環境を無線化し、高速化を実現するかを見てみよう。

 

キーポイント

  • 産業向けのオペレーショナルテクノロジー(OT)とITが融合するにつれて、工場の有線ネットワークでは不十分になる。
  • 性能、コスト、柔軟性の面で優れている5Gは、今や製造業における無線化の選択肢として、イーサネット(有線LAN)からの置き換えが可能である。
  • 5G リリース 16(フェーズ2)の機能強化により、製造業におけるさまざまな使用事例にメリットがある。そして、2021年または2022年には、リリース17が登場する予定だ。

 

工場のニーズに合わせた無線の進化

製造現場では有線接続が一般的だが、それは、利便性が高く手頃な価格である場合に限られる。そして、多くの場合はそうではない。確かに、有線LANは高速スループットであり、概して低遅延、高信頼である。産業用アプリケーションは、1ms以下の応答速度が必要な場合が多いため、待ち時間は特に重要だが、ギガビット有線LANでさえ、OTのニーズに対して十分な低遅延を提供していない。産業向けの接続では、ループ式のデイジーチェーン接続による構成が多いが、デバイスを経るごとに遅延やオーバーヘッドが蓄積される。つまり、製造現場ではデバイス数が増えると、ネットワーク速度も遅くなるというわけだ。また、製造環境に広がるLANケーブルを取り払うには、労力やコストがかかる可能性がある。

 

それでも、デバイスへの接続が無線に取って代わるのには時間がかかっている。Wi-Fi 6でさえ、遅延は平均でも40ms以下程度である。イーサネットは何十年も前から有線センサーの業界標準になっているが、無線にはそのような仕様がない。低電力消費、拡張性、セキュリティを重視した、低速無線PAN(LR-WPAN、IEEE 802.15.4)用の一般的な仕様は存在する。自社開発のソリューションがこのギャップを埋めてきたが、導入にはコストがかかり、管理が煩雑になる傾向がある。

 

Bluetooth Low Energy(BLE)は、製造業における無線接続の一候補である。センサーの価格が手頃で、デバイスのバッテリー寿命が長いことが特長だ。しかし、スループットは非常に低く(0.27Mb/s)、遅延は6ms程度のままである。Bluetooth 5はメッシュ型トポロジーをサポートすることでBLEをさらに改善するが、Bluetoothは一般的に距離に制限があり、これが規模の大きい産業の環境では導入障壁の要因の1つとなっている可能性がある。2018年に、Intelはある興味深い概念実証プロジェクトを実施した。そのプロジェクトで、IntelはBluetoothを使って、自社の製造工場の1つに250ノードの無線センサーのネットワークを配備した。この試験では、無線センサーの機能性、低消費電力、密度の実証に成功した。しかしながら、この配備はレイテンシーセンシティブではなく、また、伝送範囲は約90フィートが限界であることを研究者たちは発見した。Intelの論文では、産業向けの有力な無線ソリューションとして5Gに触れているが、この技術はセキュリティと低消費電力の面で劣ると指摘している。

 

しかし、それは2018年のことであり、今日では話が違う。

 

製造業における5G活用の機運

非常に複雑で、常に進化する仕様と同時に、5Gは時間をかけて進化している。2017年には、非スタンドアローン型(NSA)と呼ばれる5Gの新たな無線(NR)の初期仕様が登場し、それに続いて、5G初のフル規格である3GPPのRelease 15(「フェーズ1」)が2018年に公表された。そして、今年の6月に登場したリリース 16(「フェーズ2」)を皮切りに、産業や製造現場に適した成熟段階の基準がついに登場する。

 

Expect high-bandwidth technologies, such as augmented and virtual reality visualization, to play an increasing role in manufacturing as engineers and floor technicians can improve physical processes with virtual guidance. 5G will give these workers greater ability to perform these tasks wherever needed.

拡張現実(AR)や仮想現実(VR)などの広帯域通信を用いる技術は、エンジニアや現場技術者が仮想現実上のガイダンスを使って現実のプロセスを改善できるため、製造業においてますます重要な役割を果たすと予想される。5Gのおかげで、必要な場所でこれらの仕事を行うエンジニアや現場技術者の能力がさらに高まるだろう。
Image Credit: Getty Images

 

5Gのフェーズ1は産業用途の強固な基盤を確立した。フェーズ1の3つの重要な指標を、使用事例を挙げて紹介する。

 

  • 拡張モバイルブロードバンド(eMBB: enhanced mobile broadband)には、10Gb/sを超えるピークデータレートが
    要求されている。eMBBは、拡張現実や仮想現実のような、産業環境で明確な地位を確立しているアプリケーション向けに、無線帯域幅の拡大に焦点を当てている。実際に、Boeingは拡張現実の最初の利用法の1つを開拓し、20年後もそれを継続利用している。Intelは先ごろ、SK Telecomと共同で、U-plane(ユーザーデータ)のソフトウェアスタックを実装して、ネットワーク上の5Gトラフィックのすべてに優先順位を付け、遅延とジッターを最小限に抑える方法を実演した
  • 多数同時接続(mMTC: massive machine-type communications)では、1平方キロメートルあたり100万以上の接続が要求されているデバイスは、通常の使用方法において、少なくとも10年のバッテリー駆動時間と、20バイトパッケージあたりの遅延が10秒未満であることが求められている。これは、例えば、消火器センサーなどには適しているが、高速組立ライン上のスポット溶接ロボットのような、リアルタイムフィードバックを必要とするシステムには適していない。
  • 超高信頼低遅延通信(URLLC:Ultra-reliable low-latency communications)の遅延は1ms以下が要求されている。URLLCは、リアルタイムアプリケーション向けのmMTCの欠点である遅延に対応し、工場の床を走る自動運転装置や、大型高回転ファンシステムの振動センサーにも対応する可能性がある。

 

フェーズ2:Massive MIMO、TSNなど

フェーズ2の中心は、少なくとも製造業に関しては、マッシブマイモ(Massive MIMO)としばしば呼ばれるマルチユーザーマイモ(MU-MIMO)技術の強化である。MU-MIMO(Multi-User, Multiple Input Multiple Output)はWi-Fi 5初めて登場した技術で、マルチアンテナビームフォーミングを使用して送信機と受信機の間に無線信号を集中させ、パフォーマンスを向上させる。シングルユーザーマイモ(SU-MIMO)は、ペアの無線デバイス間でしかデータの受け渡しができなかったが、MU-MIMOは特定のルーターやアクセスポイントで設定された制限まで、複数のペア間で同時にデータをストリーミングできる。MU-MIMOのおかげで、製造現場で必要に応じてデバイスの電力レベルや電力効率を向上させることができ、より高速で信頼性の高いパフォーマンスを実現できるだろう。

 

5Gの導入価値を最大化するには、電源管理が重要である。フェーズ2は、ウェイクアップ信号(WUS:Wake Up Signal)と呼ばれる機能を実装している。これは、データ通信にとって必要な場合にのみ制御信号監視システムの電源を入れ、送信が終了するとそれらのシステムを非常に迅速に低電力スタンバイ状態に戻すようにデバイスに指示を出す機能である。このようなことは頻繁に発生するため、累積の節電効果はかなりのものになる可能性がある。つまり、時間を経るにつれ、電源管理を行わない場合に比べてバッテリーの交換回数が大幅に減るため、バッテリーのコストやメンテナンスにかかる労働時間の節約になる。

 

製造業にとってフェーズ2のもう1つの重要な要素は、5Gネットワーク用のタイムセンシティブネットワーク(TSN)の導入である。これまで、イーサネット上のTSNが製造現場や機械システム全体でデバイスを同期するための唯一実行可能な経路であったため、すべてのデバイス、或いは、どのデバイスでも1ミリ秒以下の精度で正確に同時に動作できるようになった。Industrial Internet Consortiumは、「TSNは、ロボット制御、駆動制御、視覚システムなどの精緻な制御を要するアプリケーションを、インダストリアルインターネット(産業のインターネット化)に開放するだろう」と言及している。

 

TSN can play a critical role in synchronizing the timing of robotic movements across a factory setting while other 5G features, such as device location to within three meters, can add new sensing and control capabilities that would have been difficult or impossible with Ethernet.

上:TSNを用いることで工場全体のロボットの動きを同期させることができるとともに、5Gのその他の機能、例えば、デバイス同士を3メートル以内に配置できることなどを用いて、従来有線ネットワークでは実現困難であった計測や制御を実現することも可能だ
Image Credit: Getty Images

 

しかし、TSNには同期以上の機能がある。TSNが無線上でその魔法を発揮するには、新たな効率性を達成する必要がある。2015年から2019年まで3GPPのRAN2グループの議長を務めた、Intelのシニアプリンシパルエンジニア、Richard Burbidge氏は、VentureBeatで一例を挙げている。

 

「5Gの工場における利用の事例では、スマートフォンにサービスを提供するモバイルネットワークで一般的に見られるものとは異なり、非常に特殊なトラフィック特性を有する場合が多い。工場では、非常に小さなパケットを時間的制約が非常に厳しい状況下で伝送しなければならないことがよくある。そこで、目指すのは有線ネットワークではなく、5G上でそれを実行できるようにすることだった。なぜなら、こうした有線と無線のネットワークを連結することが一般的になり、5G上でイーサネットのトラフィックを実行できるようになるからだ。そこで、時間同期の側面に追加されたのが、イーサネットのヘッダーを圧縮する機能だった。イーサネットヘッダーを取り除けば、オーバーヘッドの削減になる。これは単に、遅延や信頼性など工場利用で重視される要素という点ではなく、とりわけ産業分野での利用をターゲットとしたものだった」

 

TSNは、リリース 15 から16への移行の段階で拡張された、URLLC機能の一部である。Boschとの概念実証において、IntelはTSNの素晴らしい効果を実証した。このプロジェクトは、「高速回転ホイールの角度や速度の同期の動作制御に焦点を当てたもので、1次および2次コントローラーは、オープンスタンダードのプロトコルであるオープン・プラットフォーム・コミュニケーションズ・ ユニファイド・アーキテクチャー(OPC UA)を使用して、5G上で通信した。また、4K HDビデオトラフィックも、Intelの5Gプロトタイプシステム内で3.7GHz帯で同時に伝送された」

 

Intel and Bosch recently demonstrated TSN-over-5G involving motion control of high-speed wheels on a factory floor while simultaneously handling 4K video traffic on the same 5G radio band. This diagram illustrates the deployment architecture.

上:IntelとBoschは最近、工場現場で高速ホイールの動作制御を含むTSN over 5Gを実演し、同時に同じ5G無線帯域で4Kビデオトラフィックを処理した。この図は、機器の配置構成を示している。
Image Credit: Intel

 

フェーズ2では、5GHz帯と6GHz帯における免許不要帯域の5G周波数帯(NR-U)のサポートも追加されている。NR-Uは、複数の帯域で同時に動作したり、異なるキャリアからのサービスを集約したりといった、新しい性能や機能を手頃な価格で提供する。これは、工場環境の可用性、信頼性、性能の向上に役立つ。フェーズ2のもう1つの側面である非公共ネットワーク(NPN:Non-Public Networks)と組み合わせることで、製造業者は自社内に独自の5Gネットワークを構築することができ、性能やセキュリティの強化につながるだろう。

 

特にフェーズ2には、NB-IoTやLTE-Mなどの、低電力消費・広範囲(LPWA:low-power, wide-area)プロトコルのサポートが組み込まれている。どちらのプロトコルも4G/LTE内に存在したが、5Gに導入することで、モバイルIoT、Massive IoT、LPWA性能を大幅に向上させて実利用への新たな扉を開いた。

 

ものづくりを推進する

フェーズ2の機能やサポートを搭載した5Gのような高度なシステムが登場するなか、製造業者は興味深いさらなる展開を期待できる。例えば、柔軟性やコスト効率を高めるために、通信ネットワークがソフトウェア定義の運用や仮想化にますます移行しているように、いずれは5Gでも同様の機能が期待できる。Intelは、5Gのインフラ向けのハードウェア、ソフトウェア、ソリューションのラインナップと、ソフトウェア定義の、アジャイルで、拡張性の高いインフラを使用してネットワークを変革する顧客をサポートしてきた10年にわたる経験を活かして、この実現に取り組んでいる。このクラウドアーキテクチャーをネットワークに導入することで、数年前にデータセンターを変革したものと同様のサーバーの経済性を実現している。

 

公開が近づく5G リリース 17に期待しよう。公式発表では2021年に、あるいはVentureBeatが報じたところによると、2022年にはかなりの確率でリリースされる。リリース 17は、衛星を介して5Gを提供し、5Gですでに提供されているデバイスの位置情報の精度を強化し、NR-Lightをサポートする。NR-Lightは、eMTC/NB-IoTが提供する性能と、超高速・大容量通信(eMBB)型サービス向けにNRが提供する性能の間にある、データ転送速度とバッテリー寿命能力の観点から見たギャップをターゲットにする。NR-Lightは、わずか10MHzまたは20MHzの無線帯域幅で100/50Mbpsのアップリンク/ダウンリンクのスループットを実現できる。これにより、工場全体に配備された産業用IoTカメラ、センサー、さらにはウェアラブル機器までもが大幅に強化されるだろう。

 

5Gはようやく工場や運用システムを進化させる準備を整え、ITの優れた統合や効率性の向上への扉を開き、今後も多くの改善を実現する。最終的には、この機会はすべて、3GPPやその多くのメンバーが手掛けた仕事によってもたらされる。

 

IntelのBurbidge氏は次のように述べている。「3GPPは、そのエコシステム内にある非常にたくさんの企業の大規模な共同努力の賜物であり、すべてが協力して1つの標準規格を作成している。その結果、標準規格に準拠した機器の競争市場が生まれる。これまでの取り組みの多くはモバイルネットワーク事業者を対象にしていたが、ごく最近では、3GPPは他のバーティカルセクターも対象にしようとしている。産業部門とそのパートナーは、それぞれのニーズを満たす独自のソリューションを開発することができる。しかし、5Gのような標準化された技術を利用することで、この大規模な共同開発努力を活用する機会が得られる。結果として、標準ベースのソリューションに付随する機器供給やあらゆる規模の経済において大きな競争を生じる」

 

この記事はVentureBeatのWilliam Van Winkleが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comにお願い致します。

 

※本記事の文中リンクは英語のページに遷移します。

Related Contents