動物園に憩いのオアシスを 井戸水由来の屋外空調システムとは?

2021/01/19 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 動物園の使命は、市民の“憩いと癒やし”の場であること
  • 屋外環境でも使用できるスポット・ゾーン空調システムとは?
  • イベント会場から避難施設まで、屋外空調が秘める可能性
動物園に憩いのオアシスを 井戸水由来の屋外空調システムとは?

世界中から集められた様々な動物たちが飼育・展示されている場として、季節を問わず多くの人が訪れる動物園。広大な敷地を持ち屋外展示も多い園内では、猛暑の夏場や厳しい寒さの冬場であっても来園者の快適さを保つための空調設備の導入は難しい。環境負荷を抑えながら、訪れる人々やそこに暮らす動物たちにとっても快適な空間を提供するためにはどうすればいいか?

 

市民の憩いと癒やしの場となることを目的の一つに設立された千葉市動物公園で、そんな課題に真っ向から取り組む実証実験が園内で行なわれている。

動物園の使命と、これからの時代に求められる動物園のあり方

1985年に開園した千葉市動物公園は、約34万平米の広大な敷地におよそ120種・800点の飼育動物を擁し、市内外からの来園者を楽しませている。2005年には直立するレッサーパンダ「風太」が一世を風靡したことを覚えている人も多いだろう。昨年7月にはヨーロッパ3国とシンガポールから導入したチーターとブチハイエナの新展示場がオープンし、猛スピードで疾走するチーターの姿を間近で見られる「チーターラン」が大きな話題を集めている。

 

しかし開園から35年を経て、施設の老朽化や展示手法、集客施策などあらゆる面での刷新が課題となり、千葉市はあらためて来園者の満足度向上を図るべく、2014年に再生の方向性として「千葉市動物公園リスタート構想」を策定し、現在その具体化を推進中である。特に2019年からは「知ることの喜び」を体感する場として、来園者に新たな気付きを与えるような展示をはじめ、ライオンの野生の生態を見せるイベントなどを行うことで賑わいを取り戻しており、また、ICTを生かした新たなサービスの創出や動物生態の視える化、さらにはより効率的な経営を試みるなど、新しい動物園のあり方を目指した様々な取り組みを加速している。

 

現在、千葉市動物公園と東芝キヤリア株式会社が共同で行っている、エアフローシステムを用いた空間演出の実証試験も、こうした取り組みの一環だ。

 

「当園は、動物園が果たすべき機能に加え、公園としての役割を併せ持った集客施設であり、種の保存や教育普及、調査研究、レクリエーションといった動物園としての使命を果たすこととともに、ご来園の皆さんにとっての『憩いと癒やしの場』であることも重要です。しかし昨今の夏場の酷暑は、動物たちはもちろん、ご来園の皆さんにとっても負担が大きい。そこで今回、縁あって東芝キヤリアさんとの協業が実現し、エアフローシステムによって心地よい空間を創出する実証実験を行う運びとなりました」

 

そう語るのは、千葉市動物公園の鏑木一誠園長。鏑木氏はもともと東芝でパソコン事業の事業企画や新規事業創出などを担当していた人物で、その経験と手腕を期待されて千葉市の公募で採用され、2019年4月から現職に就く異色の経歴の持ち主だ。

千葉市動物公園 園長 鏑木一誠 氏

千葉市動物公園 園長 鏑木一誠 氏

今回の実証実験は、夏季と冬季のそれぞれの期間で、園が憩いと癒やしのスポットとして、再生エリアと位置付けている「展望デッキ」に、低炭素かつ低消費電力で稼働するスポット・ゾーン空調システム「FLEXAIR2」を実装し、夏は涼しく冬は温暖な屋外空間を演出しようという試みだ

スポット・ゾーン空調システム「FLEXAIR2」とは?

では、「FLEXAIR2」とはどのようなシステムか? 実験の鍵を握るのは、デッキ内にある井戸水を利用した噴水設備だ。東芝キヤリア株式会社コアテクノロジーセンターの大渕忍氏は次のように解説する。

東芝キヤリア株式会社 コアテクノロジーセンター 大渕 忍 氏

東芝キヤリア株式会社 コアテクノロジーセンター 大渕 忍 氏

「『FLEXAIR2』は外気導入が多い屋外環境でも必要なエリアを局所的に空調することができるスポット・ゾーン空調システムです。また、今回の実験では、動物園で多く利用されている井戸水に着目しました。1年を通して一定の水温を維持している井戸水に熱源を求め、噴水の両サイドにシステムを設置し、夏季は冷たい気流を、冬季は心地よい気流を起こすことで、デッキ内の体感温度を快適に保っています。井戸水を利用した屋外の空調は前例がなく、新しい取り組みです。冷媒を使わず、井戸水を用いて来園者に心地よい気流を供給するため、CO2排出量を従来の約1/5に削減できるのは大きな利点でしょう

井戸水を利用したエアフロ―システムと夏場の実証試験のイメージ図

※エアコンは通常フロンガスなどの冷媒を使用しますが、ここでは冷たい井戸水を
汲み上げてファンで送風することによって冷たい風を送っています

天井ダクトが不要で、設置の自由度が高いのも「FLEXAIR2」の特長で、今回の実験では、本来はデッドスペースとなっていた噴水周囲の柱を設置場所とした。送風口のルーバーが左右に自動スイングすることで風を広い範囲に届けることができるため、屋外であっても自然な心地よさを維持できる。展望デッキをオアシスとして演出するために大渕氏が重視したのは、清涼感、居心地の良さ、そして自然への没入感であったという。

展望デッキと送風口

「井戸水は地中熱によって水温が保たれています。そのため、井戸水に由来する風には、人と地球に優しい冷風となり、実際に夏季の実証実験では来園者の皆さんからご好評をいただくことができました」(大渕氏)

イベント会場から災害時の避難施設まで展開可能

夏季および冬季の実証実験によって新たに得られた課題や基礎データは、屋外空調の可能性をさらに広げることになる。「FLEXAIR2」は着想次第でスポーツ競技や野外フェスなどの屋外会場への適用も考えられ、そのポテンシャルは高い。

 

「一昨年、千葉市は大型台風によって甚大な被害を受け、多くの市民が避難生活を余儀なくされました。今回の実証実験が、園内での活用にとどまらず、災害時の避難空間や集客イベント会場への応用など、活用領域の拡大に繋がるのではないかと思っています。夏冬の環境の改善に、省エネルギーで運用できる『FLEXAIR2』の今後の展開に期待しています」(鏑木氏)

 

そのためにも、井戸水を使った実験には今後もこだわっていきたいと大渕氏は語る。省エネ性という観点で井戸水に着目したことは、先の世代を見据えて「未来を思い描く」という東芝グループが大切にしている価値観にぴたりとハマる取り組みと言えるだろう。

 

「厳冬期には、井戸水の温度では寒冷対策として心許ないかもしれません。そこで我々が持つ別の加温システムによって井戸水そのものを温めるなど、いくつかのパターンをイメージしながら引き続き実証実験を進めていく予定です」(大渕氏)

 

千葉市動物公園が開園した1985年は、奇しくも鏑木氏が東芝に新卒入社した年でもあるという。東芝のパソコン事業という分野で、長年新規事業の創出にも尽力してきた鏑木氏が、動物園の改革を通して、環境保全という観点で、東芝キヤリアと新たな取り組みを開始したというのは興味深い。

 

野生動物の展示を通して、野生動物を含む自然環境や地球を守る事に関心を持ってもらうことも動物園の役割だと思っています。今回の実証実験を通し、様々な角度から環境問題について考える機会にしてもらえれば、これほど有意義なことはありません」(鏑木氏)

 

今回実施された井戸水を使った屋外空調の実証実験は、園を訪れる人々にとって快適な空間を提供するということであるが、適切な屋外環境を求めているのはきっと人間だけではない。環境負荷を抑えながら、動物たちにとっても適切な屋外空間をいかに提供できるかを追求していくことが、地球環境全体を考えるという意味でも大切な一歩となるだろう。

鏑木園長と大渕氏 ライオンの前にて撮影

 

Related Contents