データリテラシーの向上がこれからのビジネスの鍵となる

2021/01/29 Anas Nader

データリテラシーの向上がこれからのビジネスの鍵となる

「データは王様である」という一節はあまりにも有名である。2000年代初めより、私たちの経済はデジタル化が急速に進み、データの力は留まることなく膨れ上がっている。データ利用の商機に気付いた大手企業は莫大な富を蓄え、立法機関はデータの利用や管理のための法改正に悪戦苦闘を続けている。

 

政府と大手テクノロジー企業との争いが連日見出しを賑わせているが、私たちは社会の主役がデータの活用へと転換してきている事実を見逃している。データに対する理解を深め、力を高める企業がある一方、自社データの扱いに苦慮して他社から後れを取る企業も存在する。「従来の」ビジネスが崩壊し、デジタルがビジネスの舵取りを始めた現在の社会において、私たちは新たな力関係を構築しなければならないのかもしれない。つまり、データのリテラシーを判断基準としたヒエラルキーの構築である。

 

データリテラシーが乏しいからといって、データを扱えないわけではない。近年、データに触れずに運営している企業はないといっていいだろう。EUのGDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)をめぐって多くの企業がパニックに陥ったことが何よりの証拠だ。データリテラシーが低い要因は、正しくいえば、データによる知見を正しく理解して利用するために必要なスキル、時間、リソースが不足していることにある。データリテラシーが低いために他社から後れを取ってしまっている企業は、経済的なポテンシャルも低下してしまう。必死に後れを取り戻そうと、データからニーズを汲み取ることをアウトソーシングする企業も多いが、この方法ではすでに力のある企業に、さらに力を集中することになり、遅れている企業は自社が持つデータに対する理解がさらに遠ざかる、そんな負のスパイラルに陥る結果となるのだ。

 

このような負のスパイラルは加速しており、データを活用できる企業とできない企業とのギャップが急速に拡大している。この格差は企業に限らず、個人や地域にも波及しており、一部の人々が社会から取り残されることとなり、終わりの見えないリスクを抱えてしまうのだ。そして多くの場合、そのリスクの矢面に立つのが公共機関である。

 

イギリスの国民保健サービス(NHS: National Health Service)を例に挙げる。イギリス国民6,600万人のほぼ全員に医療サービスを提供する役割を担うNHSは、膨大な量のデータを利用しているが、実のところデータ利用に長けているとはいえない。このことが数々の問題の原因となり得るため、大手企業はNHSにビジネスチャンスを見いだしている。

 

第一に、データが十分に活用されておらず、保健サービスにおいて問題の特定、解決に向けた効果的な革新ができなくなっている。患者は医療スタッフや部門間の連携がうまく取れておらず、人員配置の問題に対処できていないことによる不手際を経験している。対処できない問題が発生するたびに、問題解決は機関全体で後手に回されているのが現状だ。

 

このような機関全体の改善に当たるために、NHSのマネージャーは外部からの支援を求めている。そして、この方法はうまくいく可能性が高い。データリテラシーが向上すれば、NHSが現在の環境ではできない方法でデータを入力、検索、処理でき、問題の対処に着手することができる。そのため、IBM、Microsoft、AWSなどの企業は、医療機関への介入を大きな成長への機会と捉えている。しかし、公共機関がデータリテラシーをアウトソーシングする場合、データ活用に携わるサードパーティー企業のすべてが、顧客が望む形で携わっているわけではないということは覚えておくべきだ。多くの場合、データ活用方法への知識は高くても、クライアントと一緒に成長していくことに関心のない企業に委ねられることになる。データリテラシーが高い企業がかかわることで、データの知識に乏しい企業が洞察力を深められる機会を作り出していこうという関心が薄まっていき、非協力的なアウトソーシング企業への委託が増えていくことにより、公平な競争の場が提供されるチャンスが減っていく。

 

これは計画性のない断片的なアプローチでもある。組織の内部主導でデジタル化を推進していかなければ、顧客体験(この場合は患者と医療スタッフの体験)に大きな差が生じる恐れがある。NHSは利用者にとっては素晴らしいサービスを、利用時には無料で提供してくれる機関だが、イライラする時代錯誤的なシステムに頼って運営している可能性がある。ユーザーのイライラが貯まってくると、Babylon、Livi、Doctorlyといった技術優先のユーザーフレンドリーなサービスが登場し、ユーザーの不満を解消する。データリテラシーの高い企業はより速く利用しやすいサービスを提供できるため、再現性、投資、拡大においてはるかに有利な立場に身を置くことができ、公共機関ではこうした企業に太刀打ちできない。

 

私たちは現在、「データ優位」の時代の新たな段階に足を踏み入れつつあり、データリテラシーの高い企業は新たな段階への挑戦者として、二択を迫られている。つまり、従来のサービスを圧倒するような混乱をもたらすか、組織や個人が自分のデータをより適切に管理し、理解し、活用できるよう連携していくか、どちらかの方向を選択しなければならない。ビッグデータの時代から皆が恩恵を受けるためには、後者を選択して実現を目指さなければならない。

 

データ活用能力を高めるには、投資と教育が必要だ。この能力を上げるには、データとは何か、データがどのように収集されるか、データから得られる知見をどのように活用できるかを理解する必要がある。企業や政策立案機関は、学校教育現場から組織の戦略立案トレーニングに至るまで、あらゆるレベルでこの教育を組み込むことを優先するべきだ。銀行の企業融資の条件としてデータ分析コースの履修を含めてもよいかもしれない。学生にはデータリテラシーコースの短期コースの修了証明書を発行し、政府は失業手当を受け取っている人にデータトレーニングを無料で受講させる、といった案が考えられる。

 

こうした教育を公平な競争の場に持ち込むためには、自分たちでデータを管理したいと思っている公的機関や昔ながらの企業や個人、それらとの連携や支援を行いたいと考えているテクノロジー企業を私たちは支持するべきである。こうした組織や個人を引き合わせるイニシアチブに資金提供することにより、専門知識が1箇所にまとまり、データリテラシーの低い組織が若干の支援を受けて独自のデータ活用能力を開発できるようになる事例がもたらされる。言い換えれば、組織内管理と外部の専門知識が合わさることで、一般市民にとって最良な成果が生まれる、ということだ。

 

先に説明した問題は単に公共機関の問題に留まらない。小規模な自営業の多くが、優れたデータ活用能力を持つ競合他社に圧迫されている。ASOSやBooHooといった大手小売企業は、データを中心とした戦略を構築し、その戦略に基づいて市場を発掘し、追跡し、理解して、売り上げ増を成功させている。顧客によるWebサイトでのクリック、商品詮索、買い物かごから落とされた物はすべて、よくメンテナンスされたデジタル機器で精査、学習されて次に生される。自営の小売業者はそうしたリソースがはるかに少ないため、現状維持に忙殺され、活用すべき無数のデータポイントを処理できていないのだ。

 

当たり前のことだが、前述のような先見の明のある企業は後れを取っているライバル企業を凌駕している。それが資本主義というものだ。しかしこの論法が正しいとなると、私たちは独占企業が幅を利かせる経済構造に向かって突き進んでいくリスクを抱えることになる。この経済構造下では、Amazonの完全な支配により世界中のローカルビジネスが窮地に立たされ、BooHooにより市場全体が極限までの値引きを余儀なくされ、Googleにより私たちの学習のあり方から何を調理するかに至るまですべてがコントロールされる。小規模企業や、後れを取っている企業、資金不足に悩む企業は、競争力を維持するために、必要な手段を身に付けて自分たちを強化することが必要だ。

 

データリテラシーの低さを単なる選択肢の1つとして無視することは、もはや不可能である。今や経済的な問題になっているからだ。貧しい農民でもおいしいトマトをたくさん育てることはできるが、データ解析ツールに投資できる資本を持ち、農法を微調整して収穫量の増加を成功させた隣人と比べると、育てるトマトの数は少なくなる。ヘルスケアから農業まで、機会の平等を達成するためには、データリテラシーに関してより強力な基盤を築く必要がある。すべての企業がデータを賢く使用したり、データから多くの利益を得たりできるわけではないが、同じツールを使用することはできるはずだ。同様に、データリテラシーの高い組織は、リテラシーの低い組織と連携するための新しい方法、つまり、リテラシーの低い組織が自社データ管理のすべてを人任せにする必要なく、支配ではなく相互利益を目的とするような方法を模索するべきである。

 

社会全体におけるデータリテラシーを向上させることで、デジタル化された世界における競争力を持った、より強力なコミュニティが形成される。このようなコミュニティの実現を目指して投資することで、ごく一部の最大手企業だけが世の中の動向を左右する世界へと足を踏み入れるリスクを回避できるのだ。

 

Anas Naderはイギリスの国民保健サービスに所属する医師であり、ヘルスケアテクノロジー向けプラットフォームPatchwork Healthの共同創設者である。

 

この記事はVentureBeatのAnas Naderが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comにお願い致します。

 

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