AIが人間の創造性を加速する

2021/04/05 Kamilė Jokubaitė and Attention Insight

AIが人間の創造性を加速する

2012年、経済学者のRobert Gordon氏が発表した論文が論議を呼んだ。同氏はその論文の中で、ここ数十年イノベーションが加速しておらず、経済成長はほぼ終わったと主張したのだ。

 

スタンフォード経済政策研究所の調査は同氏の論文をおおむね支持し、創造性と革新への投資は増えているものの、そのリターンは横ばいであると説明している。また、同調査によると、この投資は金銭に限ったことではないという。1930年と比較すると、研究開発に携わる人員は約20倍に増えているのだ。

 

では、一体何が起こっているのだろうか。新たな創造がなぜこんなにも難しくなっているのか。ノースウェスタン大学の研究者たちがまとめた論文が、この疑問に答える一助となりそうだ。この論文によると、現在創造されているものにおいては、いわゆる組み換えによるものが増えているのだという。実際、米国特許商標庁に出願されているすべての特許のうちの40%は完全に新しいものではなく、既存のアイデアの寄せ集めによるものである。

 

AIの力を借りる

既存のアイデアを組み合わせる効果的な方法を見つけることは決して簡単ではない。その理由として大きいのが、公開されている資料の量が増えていることにある。例えば、COVID-19によるパンデミック発生当初の数か月間で、ウイルス研究に関する論文は約23,000件が発表されていたが、その数は20日ごとに倍増している。

 

Kaggleのデータサイエンスコミュニティには世界中のデータサイエンティストが集結し、乱立する新しい資料を理解するためにAIを活用した文献レビューを提供すべく取り組んでいる。論文のサブセットからデータポイントを収集し、17のカテゴリにグループ化し、カテゴリごとに論文を一覧表示している。これが非常に洗練されたアプローチであるとは言い難いが、パンデミックによる時間の制約がある中での取り組みであるため、この手法で進められている。

 

また、カーネギーメロン大学の研究者たちは別の方法を開発した。特許データベースや研究データベースを探し、特許や研究成果を組合せ、特定の問題に対する新たな解決策を生み出すという、AIベースの手法である。このシステムは、一見異なる2つの領域からの作業を連動させるためにアナロジーを使用することで、イノベーションを加速し、コストを抑えることができると、同研究者たちは考えている。

 

創造性の拡張

私たちは今、人間がAIを使用することで大量のデータを理解できるようになる、いわゆる「創造性の拡張」の出現を目にしている。この初期のプロトタイプのAIは、AIの提案を理解し利用するという、人間が担うべき重要な役割に脚光を浴びせた。

 

OpenAIは、Jukeboxという音楽制作ツールのリリースでこの創造性の拡張の再現を試みた。このツールは技術的な観点からは大きな成果を果たしたが、ミュージシャンの生活を脅かすまでには至っていない。

 

こうしたプロジェクトは他にもさまざまある。例えば、AIを使用して食品成分データベースを掘り返し、興味深い組み合わせを考え出すことで、魅力的なレシピを新たに作り出すプロジェクトなどである。Googleの研究者であるSara Robinson氏が最近紹介したシステムは、ケーキとクッキーのハイブリッドを作るというものである。また、アクセンチュアの研究者はダブリンの人間ドック施設で同様のレシピ作成ツールのプロトタイプを試作したが、こちらは胃が痛くなるような結果となったようである。

 

よりスマートなシミュレーション

こうしたアプローチはそのほとんどにおいて、AIが探す巨大なデータセットを利用して、未開発ではあるが確固としたつながりを探し出す。次世代のモデルでは、敵対的生成ネットワーク(GAN: Generative Adversarial Network)を利用することで、基礎となる論理にアクセスしなくてもアイデアを思いつくことができる。

 

例えば、NVIDIAとトロント大学の研究者たちによって最近紹介されているGANは、ストーリー展開と人間のプレーヤーによるリアルタイムの行動を観察することによってゲームをシミュレートするように訓練されている。このシステムは、これまでのゲームプレイを見るだけで最良の戦略を学習することができ、ゲームロジックにアクセスする必要は全くない。

 

「GameGANはまた、画像内の静的コンポーネントと動的コンポーネントを別々に処理できるため、モデルの動作がより分かりやすくなり、動的なエレメントに対する明示的な推論を必要とする下流タスク(ニューラルネットワークを用いたモデル学習)に適している。これにより、例えばゲームのさまざまなコンポーネントを交換してこれまでにない新しいゲームを開発するといった、興味深い利用方法が数多く実現するだろう」と、研究者たちは説明している。

 

GANを利用したアプローチは同様に、BASF傘下のSculpteoでも実践されている。Dreamcatcherと名付けられたそのプロジェクトではジェネレーティブデザイン(デザイナーやエンジニアと、コンピューターが共同制作者として開発を行う手法)を採用しており、設計者は目標と制約を使用して、特定の問題に対する替わりのデザインの解決策を生み出せる。

 

死の谷を越える

創造するにあたってはインスピレーションやアイデアを生み出す段階が最も魅力的であるのは間違いないが、ほこりをかぶったまま捨て置かれているアイデアは多数存在する。特許出願件数の95%はライセンスが交付されていないか、何らかの形で商品化されていないと推定され、テレビや医薬品などさまざまな業界では、失敗は例外ではなく普通のことであり、最良のプロジェクトでさえも失敗することが大いにある。

 

したがって、アイデアをより多く市場に送り出すために、AIを製品開発の後半の段階で使用することが増えているのは当然のことである。例えば、ブリストル大学の研究者たちは、公開済みの映画のブレ除去やカラー化といったさまざまな用途でAIがいかに役立っているかについて力説している。

 

同様に、アイトラッキングやジェスチャー操作はアニメーション制作のプロセスではますます一般的になり、予測的アイトラッキングもWeb開発やデジタルマーケティングといったデジタルプロセスで存在感を増している。アイトラッキングにAIを活用することで、マーケティング担当者はWebサイトや広告の開発プロセス中にデザイン要素を視覚的に評価できる。AIによって職場に人間が不要となってくることへの懸念が広まっているが、それでもこのような利用法がクリエーターに取って代わったり、創造プロセスに介入したりすることを恐れる必要はない。むしろこうした利用法によってクリエーターは、データに基づいた効率的なデザイン決定を行う能力を手に入れることになる。

 

このような導入事例の多くは、AIによって人間のできることがいかに拡大しているかを示しており、生まれては消えていくアイデアの不毛地帯を越えることができる能力をAIが持っていることを私たちに知らせている。ロサンゼルスを拠点とするCinelyticが、この好例となるだろう。Cinelyticは映画スタジオにAIベースの意思決定支援機能を提供し、この機能により、ジャンルの選択や映画の主役に至るまで、さまざまな決定が映画の興行成績にどのように影響するかを把握することができる。

 

同じく、アイデアを何らかの形でスケールアップさせるには、専門家チームが必要になる。ロチェスター大学の研究者たちは最近、どういった人たちと一緒に働くべきかについて、さらにスマートなレコメンドを行うためには、AIをどのように活用できるかについて研究している。ソーシャルネットワークは通常、類似性に基づいて人々をマッチングさせるが、同じことをしようとする人たち同士よりも補完し合える人たち同士をマッチングさせる方が最良の結果が得られることが多い、と彼らは主張する。

 

最適なパートナー

アクセンチュアを率いるPaul Daugherty氏とJim Wilson氏は、AIを「人工知能(Artificial Intelligence)」ではなく、「拡張知能(Augmented Intelligence)」と呼ぶべきだと主張している。人と機械が互いに補完し合うときにこそ、最良の結果が得られるからである。カスパロフの法則を思い起こすと、いかなる創造的活動にも強力なプロセスが重要であり、どれほどのインテリジェントなテクノロジーをもってしても、人間に起因する弱点を克服することはできないことが分かる。

 

ウィンストン・チャーチルの有名な言葉に「この危機を無駄にするな」というものがあるが、2008年の金融危機を大いに活用できなかったという共通認識から、パンデミック終息後には世界をより良くしたいという社会的動機が高まっている。Michael Hammer氏による痛烈な注意喚起がなされたのは、もう30年も前のことだ。同氏は、テクノロジーが単に「より速い馬」をもたらすだけでなく、テクノロジーによって物事がどうあるべきかを根本的に再考するきっかけがもたらされたときに、テクノロジーが最も効果的に機能する、と述べている。

 

これを実現するには、創造のエンジンをフルスピードで回転させなければならないため、私たちは創造力を寄せ集めて活用するだけでなく、プロジェクトを最も必要とする人々に提供するべきである。2008年とは異なり、私たちは現在、AIが大きな助けとなる時代を迎えているといえる。パンデミックにより計り知れない困難の中にあるものの、パンデミックに起因する一連のリセットを利用し、すべての人により良い社会を構築することをイメージしてテクノロジーを使用することで、驚くほど順調に困難から抜け出すことができるだろう。

 

Kamilė Jokubaitėは、Attention InsightのCEO兼創設者です。

Adi Gaskellは、人工知能を専門とするイノベーションの思想家および作家です。

 

この記事はVentureBeatのKamilė JokubaitėおよびAttention Insightが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comにお願い致します。

 

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