光の技術でフードロス解決に貢献 UV-LEDが照らしだす未来(後編)

2021/03/31 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 顧客ニーズのヒアリングから、光×食の事業プロジェクトが始動!
  • UV光の事業アイデア検討会で、フードロスの解決に挑む!?
  • 東芝ライテック130年の技術で、社会課題の解決に寄与していく
光の技術でフードロス解決に貢献 UV-LEDが照らしだす未来(後編)

まだ食べられる食品が廃棄されてしまうフードロス。SDGs(Sustainable Development Goals)のテーマになっていることからも分かるように、持続可能な世界を考える上でも無視できない。限りある食材、食品を無駄なく使っていくこと。これは、私たちが念頭に置かなければならない社会課題である。

 

東芝ライテックは、フードロスのソリューションとして青果鮮度維持装置を開発した。これは、UV(紫外線)-LEDランプと光学フィルタなどの機器を組み合わせてモジュール化した装置。紫外線の照射によって青果物や加工食品の腐敗を防ぎ、カビの繁殖を抑制するものである。

 

本記事の前編では、260-280nmという深紫外線の採用による鮮度維持効果、幅広い食品に応用できる汎用性、開発障壁の解決アプローチについて紹介した。後編では、本プロダクトが企画されたビジネス的背景、製品開発の基盤になった東芝ライテック130年のアセットについて掘り下げていく。

 

社会課題の解決を目指し、培ってきたUV技術が結実する

産業用に使われるUVランプは、短波長の紫外線を用途に合わせて効率良く、高い放射エネルギーで照射できるのが特長だ。このため様々な分野で応用され、近年ではUV光源にLEDを活用するモデルも増えてきている。

東芝ライテックの製品群

UV光を必要に応じた波長域に制限し、照射器具に搭載してモジュール化できる。これも重要なUV技術だ。東芝ライテックのUV技術開発部門でUV関連製品・装置の開発に携わる田内亮彦氏に、UV関連技術がフォーカスしてきた事業分野の変遷を聞いた。

 

「フラットパネルディスプレイは薄型テレビやスマートフォンに必須の部材ですが、その製造工程ではUVランプが使用されてきました。光洗浄や露光、接着剤硬化などにおいて、UV光が欠かせない役割を果たすのです。しかし、近年はディスプレイの製造拠点が国外に移ったことや、大規模な設備投資が鈍化してきたこともあり、産業用のUVランプは新たな役割を模索する段階に入っていました」(田内氏)

東芝ライテック株式会社 UV技術開発部門 グループ長 田内 亮彦氏

東芝ライテック株式会社 UV技術開発部門 グループ長 田内 亮彦氏

これまで、東芝ライテックはUV光を活用する画像検査装置、流水殺菌装置などを開発してきた。画像検査装置は、食品工場内における異物混入リスクを大幅に低減。流水殺菌装置は、食品・医療分野で安心・安全を担保するというニーズに応えている。照明メーカーとして培ってきた光学技術は、既に多様なシーンで課題を解決している。田内氏によると、フラットパネルディスプレイに注力していた当時から、開発の基礎には顧客の課題解決に重きを置いたヒアリングがあったという。

 

「私たちの事業は、産業用の全般に渡ります。常にお客様に寄り添い、話を聞きながら製品を開発してきました。世の中に貢献できる事業を模索する中、フードロスが深刻になっており、その解決が喫緊の課題になっていることが浮上しました。また、私たちは今治に事業所を構えており、愛媛県の農業関係者とも交流があります。柑橘類の鮮度維持も大きな課題であることを知り、同じ部署の藤岡、櫻井をメンバーとして『青果や食品の鮮度維持』をテーマにした開発プロジェクトを始動させたのです」(田内氏)

左から東芝ライテック株式会社 産業光源技術部 櫻井公人氏、田内亮彦氏、藤岡純氏

左から東芝ライテック株式会社 UV技術開発部門 櫻井公人氏、田内亮彦氏、藤岡純氏

ここで、田内氏たちのチームが結成されたきっかけを紹介しよう。2018年、田内氏は東芝ライテックの新規ビジネスモデル検討会に参画していた。これは、社内横断的にメンバーを抜擢し、6ヶ月をかけてビジネスアイデアを出し合い、新事業の可能性を探る場である。アイデアの創発、部署の枠にとらわれない共創を主眼とするものだ。

 

そこには、田内氏のような産業用照明の技術者だけではなく、一般照明の技術者から、照明のデザイン担当、はたまたバックオフィスからは経理、グループ販社から営業のメンバーも参画。所属のわけ隔てなくアイデアを出し合い、新しいものを考えていった。バックボーンがまったく違うから切り口も思考もそれぞれで、お互いを刺激し合う時間が続いた。

 

そして、田内氏のグループから出たのが『紫外線で何か新しい事業ができないか?』という切り口だった。田内氏がUV関連部署から来たこともあり、議論を深めるうちに『これはうちのグループで取り組んでみよう!』と考えるようになったという。そこで生まれたアイデアが、フードロスや柑橘類の鮮度維持といったテーマとつながり、田内氏・藤岡氏・櫻井氏のプロジェクトが動きだした。

新規ビジネス検討会には、様々な部門からメンバーが参画する

新規ビジネス検討会には、様々な部門からメンバーが参画する

光を突き詰めて130年。技術を基盤に思い描く、輝ける未来

1890年に照明事業を創業し、2020年で130周年。白熱電球から蛍光ランプ、そしてLEDランプへ。東芝ライテックは照明事業を重ねる中で多くの技術、知見を蓄積してきた。この青果鮮度維持装置にも、その資産が存分に発揮されている。

 

「一般照明の事業ばかりではありません。UV照射の研究を戦前からスタートさせるなど、産業用途の光源技術開発でも歴史を重ねてきました。UVランプの技術はもちろん、ランプのUV光を必要に応じた波長域に制限し、ランプを照射器具に搭載してモジュール化する知見もあります。光学フィルタやユニット設計などにも、他の追随を許さない独自の技術蓄積があります」(田内氏)

 

紫外線を照射して腐敗やカビの繁殖を抑制する――本モジュールの機能は極めてシンプルだ。しかし、開発に従事した藤岡氏は東芝ライテックならではの技術がプロダクトの優位性に結実している、と語る。

 

「260-280nmの波長をLED光源で照射することで、様々な食品パッケージで外部からでも紫外線を届けられる。加工食品へ適用する可能性が広がりました。この点は、本モジュールを発表した第1回フードテックジャパンでも高い評価をいただき、『パンのカビを防ぎたい』『水産加工品の日持ちを長くしたい』など、私たちが想定していなかった分野からの反響が多数あり、大きな手応えを感じています」(藤岡氏)

東芝ライテック株式会社 UV技術開発部門 主務 藤岡 純氏

東芝ライテック株式会社 UV技術開発部門 主務 藤岡 純氏

フードテックジャパンでの反響を受け、パートナー企業と実証実験を重ねて社会実装へ進む。青果鮮度維持装置がサプライチェーンの様々な現場で応用され、安心・安全な食の提供、フードロスの削減に寄与する日も近い。本プロジェクトに参画した3名は、LED光が食の現場を明るく照らす、そんな未来を思い描く

 

「私の場合は、目の前のプロジェクトに真正面から取り組み、製品の性能、使用感を上げていくこと。それが第一です。ユーザーの視点で『ちゃんとできている』という声を聞くことができれば、技術者として大きなやりがいになるはずです」(櫻井氏)

東芝ライテック株式会社 UV技術開発部門 櫻井 公人氏

東芝ライテック株式会社 UV技術開発部門 櫻井 公人氏

彼らがプロジェクトに取り組むとき、そこには「ともに生み出す」という東芝の価値観が息づいている。だからこそ、ユーザーだけではなく、顧客の先にいる生活者の声も聞きつつ、製品の価値を向上させていきたいと意気を強める。フードロスは、日本国内だけではなく世界全体の大きな課題だ。彼らの思い・目線は、食糧難に苦しむ世界の人々に貢献できるところまで射程に入っている。最後に、プロジェクトを牽引する田内氏の声を聞こう。

 

「このモジュールは、みなさんの生活のそばでご利用いただき、効果を実感していただけるプロダクトです。お客様の声を聞き、寄り添いながら改善を進め、それをまた新製品へフィードバックできればと思います。この製品を購入したら、鮮度維持というバリューを保証してくれる――安心して使えるメリットにつながるでしょう。モノとしてはもちろん、サービスとしての価値まで考えていきたいですね」(田内氏)

左から藤岡氏、田内氏、桜井氏

 

 

青果鮮度維持装置の詳細はこちら

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