東芝の技術者が教える 半導体開発入門
2019/01/09 Toshiba Clip編集部
この記事の要点は...
- 半導体の開発フローを分かりやすく解説!
- 開発途中の手戻りを防ぐ秘訣とは?
- 人類の歴史を初めからやり直すとしたら、人類は再度半導体を発明できるのか!?
「物心がついたときから、壊れた家電やパソコンから取った部品をいじって遊ぶことが大好きな子供でした。いわば半導体はおもちゃ。何らかの電子部品を見つけるとそれを分解し、中身を確認するのが楽しみだったんです。といっても半導体は、ぱっと見ではその役割がわかりません。自分なりに本で調べて勉強するうちに、すっかりこのジャンルの虜になっていました」
半導体とは、シリコンなど電気を通すものと通さないものの中間の性質を持つ物質のこと。だが、一般的には、そうした物質の性質を利用して作られる電子部品や回路の総称も指している。身の回りではパソコンやスマートフォンなど、「機械」と呼ばれるものにはほぼ使用され、昨今では自動運転に向けた車載用半導体などが大きく注目されている。
今回、幼少期からこよなく半導体を愛し、東芝で研究開発を手掛けて10年目になる佐野徹氏に半導体開発のいろはを教えてもらおう。
半導体開発のフロー
「現在の半導体は、私の幼少期とは比べ物にならないほど、サイズが小さく高性能になっています。半導体の技術が凄まじい速さで進歩を続ける分、研究開発では3~5年先の市場を予想し、そのときに求められる機能やアルゴリズムを考えなければなりません。半導体の開発は、市場予測のほか、顧客へのヒアリングなどを通し、どのような機能を持つ半導体にするか、細かくアプリケーションを決定するところから始まります」(佐野氏)
東芝デバイス&ストレージ株式会社 半導体研究開発センター 佐野徹氏
例に挙げて説明するのは、必要な機能を担う様々な回路を一つのチップに集約した半導体「システムLSI」、中でも、佐野氏が実際に携わっている画像認識プロセッサ「Visconti™」の開発フローだ。一般にシステムLSIは、プログラムに書かれた手順で動作するソフトウェアと、あらかじめ設計された通りにデータを処理し続けるハードウェアの組み合わせで成り立つ。佐野氏が担当するのはハードウェアの設計だ。
システムLSIのハードウェア(一例)
前述のように、アプリケーションを決定した後、ソフトウェアで担う機能とハードウェアで担う機能を分担。サンプルアプリをPC上で動かしつつ、ハードウェアの開発では、任された機能を何個の回路に分配するのか、入力されたデータに対して、どのように計算などの処理をし、どのような結果を出力するのかという仕様書を策定する。およその回路のサイズなどを決めるのもこのときだ。仕様書の作成後、それに基づき実装する。
半導体の開発フロー
「しかし、すんなりと実装に移れるわけではありません。進歩の速い半導体技術にキャッチアップすることも必要ですし、仕様が固まりかけたときに機能の追加の要望が入ったり、またチップ全体の性能や消費電力の関係から設計を見直したりするケースもあります」(佐野氏)
だが、佐野氏よると、こうした手戻りを最小限に抑えるためのポイントもあるという。
半導体は社会の縮図!
「ソフトウェアは一旦実装しても、プログラムの変更で柔軟に対応できます。しかしハードウェアは一旦設計すると、後からあまり変更ができません。ですから、ハードウェア開発者としての秘訣の一つは、ハードウェアでしかできないことだけをハードウェアに担わせるよう、あらかじめソフトウェアとのすみ分けを決めておくことです。サンプルアプリの実装や評価の結果を踏まえて、ベストなすみ分けを検討していきます。加えて、できるだけ後からでも変更できる設計にしておくことも重要です。例えば、回路のサイズに与える影響が小さいものは、まずはハードウェアとして入れておくことで、後から柔軟に削れるようになります。」(佐野氏)
半導体の研究開発において、佐野氏が最も嬉しい瞬間は、そうやって苦労して開発したチップが搭載された機器が実際に動いているのを見たときだという。
「自分が担当した回路だけでなく、他のメンバーが担当した回路も一つのチップに搭載されています。世界の人口に匹敵する数の部品が密接に関わり合いながら機能する。実際にチップを手に取ると不思議な思いがします。ここには、人間と同じように、部品同士がやり取りを行うことで現在もしくは近い未来に世の中で必要とされるものを実現するという、一つの世界があります。その意味で、半導体は社会の縮図と言えるのではないでしょうか」(佐野氏)
一つのチップに多くの回路が搭載されている。
半導体開発における東芝の強みは、古くから幅広い半導体事業に携わってきたことによる知識の蓄積があること。先端のシステムLSIなどは、電気信号を「0」と「1」で表すデジタル回路で構成されることが多いが、トランジスタなどは連続的な波形で情報を表すアナログ回路だ。
だが、佐野氏が関わるシステムLSIも、チップとその外部との通信はアナログ回路であることが多い。そうした際に1958年から60年間にわたり半導体を手掛けてきた東芝のアナログ回路の知見が役立つという。
デジタル信号からデジタル信号に変換する回路を「デジタル回路」という。
「半導体の歴史はサイズとコストの戦いだったと言えるでしょう。より小さなチップの開発を求めると、コストは跳ね上がり、また半導体の働きを妨げる熱も発生します。そうした制約から、入れたいと思う機能が全てチップに載せられているわけではないので、日々小型化と機能向上の両立に努めています。」
そうした開発一つひとつの積み重ねが、半導体の進歩を実現してきた、と佐野氏は語る。「もし人類の歴史を初めからやり直すとしたら、人類は再度半導体を発明できるのか分かりませんね。もしかしたら、半導体ではない全く別の製品を開発しているのかもしれません。半導体がここまで進歩したのも、真空管など、あらゆる発明の歴史の積み重ねと、コンピューターや検査装置などの機器の進化があってこそ。一朝一夕にはできないのです」(佐野氏)
半導体は人類の技術の歴史の結晶なのだ。
*Visconti™は、東芝デバイス&ストレージ株式会社の商標です。
*その他の社名・商品名・サービス名などは、それぞれ各社が商標として使用している場合があります。
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https://toshiba.semicon-storage.com/jp/product/automotive/image-recognition.html