東芝の若き技術者たち ~快適な居心地を数値から追求する~

2021/04/21 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 技術者自らが快適空間を体感することで、最新技術を磨く実証ラボとは?
  • 「心地よさ」の感覚を数値で表すことで、快適な空間を科学的に作る!
  • 技術者として誠実に、地球環境に向き合うための産学連携、仲間づくり
東芝の若き技術者たち ~快適な居心地を数値から追求する~

寒い冬には暖かい部屋で熱い鍋料理を楽しみ、暑い夏には冷房の効いた部屋でよく冷えた果物を頬張る。寒い季節には暖かさを、暑い季節には涼しさと、人間には季節ごとに異なる快適な温度がある。だが、快適な室温に合わせたつもりでも、「冷房に凍える」など次第に不快になってしまうことがある。また、同じ部屋にいても人によって「暑い」「暖かい」「寒い」「涼しい」など、異なる感想を持つこともあるだろう。家庭でもオフィスでも、誰もが快適と感じる空調設定を維持することは非常に難しい。

技術者が作った製品を自ら体感できる、実証ラボを作る

東芝キヤリア株式会社の富士事業所内に2020年に竣工した新技術棟「e-THIRD(イーサード)」は、執務エリア全体を環境試験室とし、空調の実証実験を行う「実証ラボ」としての機能を持つ

桜並木の向こうに見えるe-THIRD

桜並木の向こうに見えるe-THIRD

「実証ラボでは、実際に執務するエリアをブロック分けし、それぞれに異なる空調システムを使用して、比較実験を行うことができます。技術者自らが働きながら体感することで、お客様の快適な空間作りにつながることを狙っています」

 

そう語るのは、東芝キヤリア株式会社コアテクノロジーセンターの杉崎智子氏だ。杉崎氏は、e-THIRDに実証ラボを設置するプロジェクトをリーダーとして牽引してきた。実証ラボでは、様々な実証実験が行えるように、各フロアに個別の設計がされている。例えば、あるフロアでは床吹き出し方式の空調が採用され、また別のフロアでは輻射空調※1が設置されているほか、屋上に設置したチラー※2による外気処理の実験ができるなど、建屋全体が実証実験の施設として機能するように考えられている。

 

※1輻射空調:温風や冷風で室温を変化させる空調に対して、温めた又は冷やした輻射パネルからの熱の輻射(放射)を利用して冷暖房を行う方式。
※2チラー:水等の液体を循環させて冷房または暖房を行う装置。

東芝キヤリア株式会社 コアテクノロジーセンター 新領域・基礎研究開発担当 スペシャリスト 杉崎智子氏(1)

東芝キヤリア株式会社 コアテクノロジーセンター
新領域・基礎研究開発担当 スペシャリスト 杉崎智子氏

それぞれの実験によって得られたデータは、共有できるように仕様が共通化されています。部署の垣根を越えて利用し合うことで、新しい価値やソリューションを生み出すことにつなげたいと思います。さらに収集されたデータを東芝のAIで分析し、機器が最適運用されるようにフィードバックできる仕組みに注力し、自社の強みを生かしていきたいと考えています」

 

杉崎氏が所属するコアテクノロジーセンターは、東芝キヤリアが開発するほぼ全ての製品にかかわる部署だという。空調機器の重要なコアテクノロジーである冷媒の研究から、コンプレッサー※3、熱交換器といった要素技術、東芝グループのデジタル技術との連携など、数年先を見据えた技術開発を行っている。

 

※3コンプレッサー:空調機器内の冷媒を圧縮し、機器内を循環させる装置。

「空調に要求される機能は大きく変わって来ています。建物の中にいる人に快適さを提供することはもちろん、エネルギーを効率的に使うことで建物の外、すなわち地球環境への負荷の低減が求められています。これは未来の話ではなく、今私たちが解決しなければならない課題なのです。私の所属するコアテクノロジーセンターでは、こうした社会課題に応えられる技術を開発しています」

中央監視室で仕事をする杉崎氏

社内で開発されるほぼ全ての製品にかかわっているとはいえ、新技術棟建設というプロジェクトは、杉崎氏にとってまったく初めての経験であり、建築図面を見ることも初めてだったという。これまで経験したことのある通常の試験設備導入とは違い、建物本体は出来上がっていない状態で、図面だけを頼りに最適なデータが取れるようなセンサー位置を考え、建物竣工とほぼ同時に実証データ計測システムを完成させなければならなかった。

 

「建物稼働後すぐに計測システムを稼働させるため、限られた時間で進めていくことに苦労しました。前例のないプロジェクトでしたが、皆で大きな同じ目的を共有し、『ともに生み出す』という価値観を共有することで完成させることができました。多くの部門と連携して、大きなプロジェクトをマネジメントした経験は、私を一歩成長させました

技術と人の感性の関係を、説得力のある数値で表現する

人間が快適だと感じるポイントは非常に複雑だと杉崎氏は語る。例えば足下がしっかり暖まっていれば、部屋全体の室温が低くても快適と感じることがあるという。こうした複雑な要素を逆手にとって、人間が快適と感じる温熱環境を効率的に実現することができれば、省エネルギーにつながるというのだ。

 

「快適という感覚はとても抽象的なように思えますが、実際には誰もがしっかりとした物差しを持っている感覚なのです。この感覚を満足させるように、具体的なデータをもとに環境・空間を設計することを心がけています」

データをもとに、快適性について解説する杉崎氏

杉崎氏は大学時代、生活科学部で生活環境学を専攻した。ここでは、人間の生活環境を文科系の視点と、理科系の視点の両方から探求していたという。そして幅広い研究テーマから、建物の断熱構造についての研究を選んだ。

 

「建築には、数値で考える技術の側面と、そこで暮らす人間の快適さの追求という異なる側面があります。技術と人の感性という両面に興味があった私にはピッタリのテーマだったと思っています。人間が感じる快適さを、数値をもとに実現する。そういう技術者になりたいと思い、東芝キヤリアを選びました」

 

入社2年目で杉崎氏は家庭用エアコンの快眠制御や肌ケア(気流制御)の技術開発を担当する。睡眠中はわずか1~2℃の室温の変化でも体内温度に影響を及ぼすといった研究を、家庭用エアコンの機能として応用した技術だった。

 

「快眠のためには、睡眠時の体温リズムに合わせた室温制御が必要でした」

 

杉崎氏が次に考えたのは、この快眠制御の機能をどうやって顧客に訴求するべきかだった。そして考え出したのが、当時は社内では例の無かった大学の研究者との共同研究による検証と、効果に対しての学術的コメントをカタログに掲載するプランだった。こうしたチャレンジ精神が、前述のe-THIRDへの実証ラボ設置プロジェクトに生かされているのだろう。

 

「大学との窓口がなかったので、私が自分で窓口となって共同研究と効果検証をお願いしました。社内で誰もやってないことでしたので、入社2年目の私でも条件は同じだろうと考えて、高いハードルに挑みました。その後、他社も同じように大学と連携し始めたのを見たとき、自分が取り組んだことの価値を実感しました」

 

意外にも、杉崎氏は入社当所、技術者としてやっていくことに大きな不安を抱いていたという。工学部、理工学部といった理科系出身の同僚は、学生時代の友人がすべからく理科系就職なのに、自身の周りには、技術者としてではなく、営業職や服飾関係などの文科系就職をする人が少なくなかったためだ。

 

そんな杉崎氏が技術者としてのモチベーションを失わずにいられたのは、定期的に行われる上司とのキャリア面談だったという。その場では、素直な自分の技術者としてのキャリアについて希望を言うことができるそうだ。その面談も含め、杉崎氏は社内の雰囲気を次のように語る。

 

「うちの会社は、みなさん上司を『さん付け』で呼ぶんです。同姓の方が同じ部署にいるため、ファーストネームに『さん付け』で呼ばれている部長もいます。こんな雰囲気の中で、膝をつき合わせて相談に乗ってくれる、そんな機会があったから、技術者としての自分を見失わずにやってこられたのだと思います」

和やかな雰囲気のなか、技術者としてのキャリアについて対話する

和やかな雰囲気のなか、技術者としてのキャリアについて対話する

東芝グループの理念体系にもあるように、技術者は誠実であり続けるべきだと杉崎氏は語る。それは、顧客に対してだけでなく、同僚にも業務にも、そして技術にも当てはまるのだという。

 

「現地での製品の据付状況を確認するため欧州に出張したり、空調に関して先進的研究をしている海外の大学と連携するために中国へ赴いたりすることがあります。そうした国々で東芝の現地販社の方々とお会いすると、みなさん東芝ブランドに誇りを持って働かれていると感じます。そんなとき、彼らの信じる東芝のためにも、技術者として誠実であろうと決意を新たにしています」

オーストリア販社のエンジニア、営業職と議論を深めた後の一枚

オーストリア販社のエンジニア、営業職と議論を深めた後の一枚

杉崎氏は、自身が築き上げた温熱快適性の研究とその技術を、後進の技術者に広く伝えていきたいと考えている。

 

「人の心地よさを、数値で表して、数値で考え、数値で実現する。これに東芝のデジタル技術を組み合わせることで、エネルギーの効率的な利用を実現し、地球環境を守ることにつながると思います。技術を通じて社会貢献に一緒に携わる、そんな仲間を増やしていきたいです

Related Contents