環境活動の新しいカタチ ~想いを次世代へと繋げる環境出前授業~

2021/04/26 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • CSVの概念を取り入れた、子どもたちとの新たな環境コミュニケーション活動
  • 半導体を分かりやすく説明するための創意工夫
  • コロナ禍で求められる「ニューノーマル環境出前授業」のカタチ
環境活動の新しいカタチ ~想いを次世代へと繋げる環境出前授業~

「先生、これはどうやったら光りますか?」

「そうだね、まずはこことここを繋げてみよう」

 

これは福岡県豊前市、とある小学校の授業での一コマである。生徒たちは何かを組み立てている。図画工作の授業だろうか。どこにでもある小学校の授業風景に見える。ただ、少し違うところは、教壇に立っている先生が東芝の従業員ということだ。なぜ東芝の従業員が小学校で授業をしているのか?この一風変わった取り組みは、東芝が模索する、新しい環境活動の一つの形なのだ。今回は、この活動の背景にある想いと、企業の環境活動における新しい潮流を考えていきたい。

環境コミュニケーションの背景にある「CSV」の潮流

「工場の環境担当者が近隣の小学校を訪問し授業をする活動を、私達は『環境出前授業』と呼んでいます。工場と周辺地域の皆様を繋ぐ活動の一環として約17年前からスタートしました。国内外の多くの拠点で実施されており、最も多い拠点では開催数は合計で46回、受講人数は4600人 を超えています。」

 

そう語るのは、東芝グループで半導体およびHDD(ハードディスク駆動装置)事業を手掛ける東芝デバイス&ストレージ株式会社の環境担当 宮崎まどか氏である。長年の歴史がある環境出前授業だが、昨今、発想を転換して授業の内容を見直したという。地球温暖化やごみの分別など“環境問題そのもの”を題材にしていたこれまでの内容に加え、今は自社の工場が製造する“半導体”を題材にした授業の展開を始めたのだ。

東芝デバイス&ストレージ株式会社 生産企画部環境企画推進担当 スペシャリスト 宮崎まどか氏

東芝デバイス&ストレージ株式会社 生産企画部環境企画推進担当 スペシャリスト 宮崎まどか氏

“環境”出前授業というからには、従来のように“環境問題そのもの”を取り上げていた方が自然なはず。なぜ内容を変化させたのか。背景には、自社の製品を「知ってもらうことの難しさ」があった。

 

「半導体って何?と聞かれてすぐに説明できる人はほとんどいないと思います。私達の半導体製品、例えば主力製品の一つであるパワーデバイスは、自動車や家電製品などに搭載されており、電源(電力)の制御や供給を高精度に行うことで、機器の省エネ性能に直結する重要な役割を担っています。環境問題だけではなく、様々な社会課題解決のキーデバイスである半導体ですが、機器の内部に組み込まれる部品で外からは見えにくいため、その存在と役割を知ってもらうことの難しさを長年感じていました。」(宮崎氏)

 

今や身の回りのあらゆる電子機器に組み込まれていると言っても過言ではない半導体。半導体事業を手掛けている自分たちだからこそ教えられる環境出前授業を実施したい-そんな想いから生まれたのが、工場で製造している半導体について小学生向けに解説した「電気を操る不思議な素材」という授業プログラムである。

 

「新しい授業プログラムでは、私達の工場で製造している半導体がどのようなもので、どのような働きをしているのか、そして半導体が地球環境問題をはじめとした社会課題の解決にどのように貢献しているのか知ってもらうことを目的にしています」(宮崎氏)

子どもたちが理解しやすいよう工作キットを使うなど、教材には工夫を凝らす

子どもたちが理解しやすいよう工作キットを使うなど、教材には工夫を凝らす

自分たちの製品について知ってもらうことの意義は、地域との関係づくりに留まらない。今回の取り組みの背景にあるのは、新しい環境活動の潮流としてのCSV(Creating Shared Value 共有価値の創造)という概念だ。

 

CSVは、CSR(Corporate Social Responsibility 企業の社会的責任)と言葉自体は似ているが、両者は大きく性質が異なる。CSRは、企業が社会的に存在する上で果たすべき責任であり、具体的には事業に伴い排出される廃棄物や温室効果ガスの抑制や法令順守などがそれにあたる。一方、CSVは、本業(事業)を通じた社会価値の実現を目的としており、事業の特性や特長を生かした社会への貢献に重点を置いている。「企業の環境活動」という言葉からイメージされるような排気ガスや排水の削減、植林といった活動だけでなく、各企業の本業である製品やサービスを通じた社会課題解決への貢献がより求められるようになってきているのだ。

 

「CSVは、事業を通じたSDGs(Sustainable Development Goals 持続可能な開発目標)への貢献と言えます。私達の事業や製品について地域に理解してもらうための環境出前授業は、CSVの流れを汲んだ新しい環境活動の一つであると考えています」(宮崎氏)

CSVの考えに即した環境活動が求められている

CSVの考えに即した環境活動が求められている

子供たちに理解してもらうために

新しい環境活動の潮流を汲んで始まった環境出前授業の新プログラムだったが、その実現にはいつくかの課題があった。まず、工場側の理解を得ることが難しかったことである。「なぜ今までの授業内容を変えなければいけないのか」「半導体の説明は環境とは直接関係ないのではないか」など、疑問視する声もあったという。工場関係者との議論の中で、宮崎氏は粘り強く説得を続けた。

 

「環境出前授業は、各工場が学校の意見も取り入れながら毎年創意工夫を凝らし、改良を重ねてきた歴史があります。地域との信頼関係を醸成してきたこれまでの授業も大切にしながら、新しい環境活動の潮流も取り入れていく。どうすればより良い授業を実現できるのか、そのための話し合いを続けました」(宮崎氏)

 

実際に小学校で先生役を務めている豊前東芝エレクトロニクス株式会社(福岡県豊前市)の大江和男氏は、新しい環境出前授業の話を聞いた時、これまでの環境出前授業との違いに驚いたという。

 

「当初は戸惑いも感じましたが、自分たちが作っている製品を通して環境問題を教えることは、我々メーカーにしかできない授業ですし、半導体の技術が未来を変えていくという切り口の授業は子どもたちにとっても新鮮なのではないかと。私達の工場の事をもっと知ってもらえるチャンスだとも思い、実施を決めました」(大江氏)

豊前東芝エレクトロニクス株式会社 管理部 総務安全保健環境担当 大江和男氏

豊前東芝エレクトロニクス株式会社 管理部 総務安全保健環境担当 大江和男氏

こうして実現に向けて一歩前進した新・環境出前授業だが、半導体をテーマにした授業の開催までには課題が山積していた。私たち大人でも、半導体について正確に理解し、人に説明するのは難しい。それを小学生に1回の授業で理解してもらうには、どうしたら良いのか。

 

「授業の構成や教材コンテンツの作成は、企業と連携した授業づくりを専門とするNPOの知見を借りています。半導体開発の歴史から現代社会における役割まで、半導体の原料となるシリコン鉱石を触ってもらったり、ドラム型洗濯機の模型で信号制御のデモンストレーションを行って説明をしたり、興味を持ってもらえるような工夫を随所に取り入れています。一番盛り上がるのはミニ信号機の回路工作ですね」(大江氏)

 

授業の中では実際に豊前東芝エレクトロニクスの工場で製造している製品と用途についても学んでもらう。工場で製造している製品を知ってもらうことで、地域との信頼感や工場の存在感も深まると考えているからだ。

授業では製品のモックアップを使いながら半導体の役割を説明する

授業では製品のモックアップを使いながら半導体の役割を説明する

「どんなに社会に有益なことをしていても、それをきちんと社外に伝えていかなければ、理解してもらえない。私達から積極的に発信して、コミュニケーションを取っていくことこそ、地域社会から理解され、ひいては信頼関係の醸成に繋がると考えています」(大江氏)

 

試行錯誤の末たどり着いた新しい環境出前授業。生徒たちの受け止めはいかなるものだったか。

 

「授業後に子供たちからは、『近くの工場で作っているものが、家電や自動車に入っているなんて知らなかった』『半導体は小さいのにすごい』といった感想を沢山もらいました。一緒に授業を聞いていた先生からも、『学校では教えることが難しい内容。地域の工場で作っているものも知ることができて子どもたちにとっても特別な授業になったと思う』とのお声を頂きました。ある生徒さんから『自分も大人になったら東芝に入社して半導体を開発してみたい』という言葉を聞いたときは、この授業をやって良かったと心から思いました」(大江氏)

ニューノーマル環境出前授業

環境出前授業にも、新型コロナウイルスの猛威が襲った。新型コロナウイルスの感染拡大により、小学校が休校になり、出前授業そのものができなくなってしまったのである。

 

「学校が再開した後、先生から工場見学をさせて欲しい、との要望を伺ったのが環境出前授業再開のきっかけになりました。工場に来ていただくことは出来なくても、私達から行こうと」(大江氏)

 

こうして再開された環境出前授業は“ニューノーマル環境出前授業”と言えるものだった。開催場所を教室から体育館に変更し、生徒と生徒との間で十分な距離を設けた。従来は生徒6人にサポート役の従業員が1人つく形だったが、今回はグループを作ることはせず、一人ひとりの席を巡回する形で授業を行った。今回は密を避けることで、感染に配慮した授業を実施したが、今後はリモートでの授業を行うことも検討しているという。

コロナ禍では、体育館を利用して生徒同士の距離と通気性を確保して実施した

コロナ禍では、体育館を利用して生徒同士の距離と通気性を確保して実施した

コロナ禍を乗り越え再開にこぎつけた環境出前授業だが、宮崎氏はさらなる改善に意欲を見せる。

 

「現在の環境出前授業は、小学5、6年生を対象にしたプログラムですが、今後は中学生や高校生など、対象の幅を拡げていきたいと思っています。近年注目されているプログラミング教育と連携したり、現在の社会情勢に合わせて授業内容を更新したりすることが出来れば、子供たちにとっても、より有益なものになると考えています」

持続可能な社会に向けた環境コミュニケーション活動

世界の行動様式が大きく変わろうとしている今、様々な製品のイノベーションの核となる半導体製品が果たすべき役割はより一層増している。次世代を担う子供たちにその役割を伝えていく、環境出前授業の新しいプログラムが見据える先には、CSVというが新たな企業活動の指針となる概念がある。

 

「子供たちには今回の環境出前授業を通じて、半導体をはじめ様々な技術が社会課題を解決していることを知ってもらいたいです。技術に興味を持ってもらうことは、科学技術の発展になくてはならないものですし、それがひいては東芝という一企業だけでなく、社会全体が持続可能であることにもつながるのではないでしょうか」(宮崎氏)

 

”地球環境”を保全する活動に留まらない、社会課題の解決、”社会環境”への貢献を実現する環境活動に向けて、宮崎氏の挑戦は続く。

 

 

株式会社東芝 子ども向け環境教育プログラム

https://www.global.toshiba/jp/environment/corporate/env-education.html

東芝デバイス&ストレージ株式会社 環境への取組みウェブページ

https://toshiba.semicon-storage.com/jp/company/about/environment.html

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