機械学習戦略が失敗する原因とは?

2021/05/06 Ben Dickson

機械学習戦略が失敗する原因とは?

クラウドサービスプロバイダーのRackspace Technologyによる最新の調査では、大多数の企業が実用的な人工知能(AI)戦略の策定に苦戦していることが明らかになっている。製造、金融、小売、政府、ヘルスケアなど、様々な業界の1,870の組織を対象としたこの調査では、成熟したAIおよび機械学習の取り組みを行っている企業はわずか20%に留まっているという。それ以外の組織は、まだ自分たちに合ったAI・機械学習の動きを理解しようとしている段階にある。

 

ほぼすべての産業分野において、機械学習が活躍する可能性があるのは疑問の余地はない。機械学習モデルを現実世界で利用することの利点として、コスト削減、精度の向上、顧客体験の向上、新機能開発などが考えられる。しかし、機械学習は魔法の杖ではない。また、多くの組織や企業が身をもって体験していることではあるが、機械学習の力を業務や
経営に適用する前に、いくつかの障壁を克服しなければならない。

 

AIテクノロジーを事業運営に統合する際に直面する3つの主な課題は、スキル、データ、戦略の分野に存在する。Rackspaceの調査では、ほとんどの機械学習戦略が失敗する理由を明確に示している。

機械学習とはデータそのもの

機械学習モデルは、コンピューティングリソースとデータの上に成り立つものである。次々と新たなクラウドコンピューティングプラットフォームが登場し、AIモデルのトレーニングや実行に必要なハードウェアの入手がはるかに容易になり、価格も手頃になってきている。

 

しかし、AI戦略の計画および導入における様々なフェーズで、データが依然として大きなハードルとなっている。Rackspaceの調査では、機械学習の研究開発が失敗した主な理由としてデータの品質が低いことを挙げている回答者が34%、本番環境に対応したデータが不足していると答えた回答者が31%であった。

 

この回答から、機械学習技術を現実世界の問題に適用する際の大きな1つ目のハードルが見えてくる。AI研究コミュニティは、最新の機械学習テクノロジーをトレーニングおよびテストするにあたって多くの一般公開データセットにアクセスすることはできるが、機械学習テクノロジーを実際のアプリケーションに適用する場合、高品質のデータにアクセスすることは容易ではない。これは、特に、産業部門、医療業界や政府部門など、データが不足していたり、データ利用の規制が厳しい部門に当てはまる。

 

機械学習の取り組みが研究段階から実稼働段階に移行する際にも、データがもたらす問題が再燃する。機械学習を使用して価値ある知見を引き出すことを考えても、データ品質は依然として最大の障壁となる。また、データエンジニアリングに関する問題も、データがサイロ化されてしまい、異種のデータソースを結びつける能力が不足し、処理速度が足りずに、データを有意義なものとして処理できない、といった重大な問題を引き起こしている。

 

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上図:機械学習モデルから実用的な知見を獲得する上で、データがもたらす問題が多く占めている(出典:Rackspace Technology)

Rackspace TechnologyのCTOであるJeff DeVerter氏によると、新興企業も大手企業も一様にデータがもたらす問題に苦しんでいるが、両者を分ける決定的な違いは、企業規模であるようだ。DeVerter氏はTechTalksに次のようなコメントを残している。「新興企業は、高品質のデータパイプラインを実装し長期にわたって一貫して管理するための適切なリソースすべてがそろっていない傾向があります。通常、企業の規模はそれぞれ異なり、それに伴って生じる困難にも違いがあります。」

 

AI戦略において、このような課題に企業が備えるための最善の方法は、自社のデータインフラストラクチャを余す所なく見極めることだ。データのサイロ化の排除は、すべての機械学習の取り組みにおいて重要な優先事項となるべきである。また、企業は機械学習モデルの精度と性能を向上させるために、データをクリーンアップさせるための適切な手順を用意する必要がある。

AIに精通した人材の需要は依然として高い

ほとんどの企業が苦労している2つ目の項目は、機械学習やデータサイエンスに精通した人材の獲得である。Rackspaceの調査によると、機械学習の研究開発で失敗するときの2番目に大きな要因が、社内に専門知識を持つ人材が不足していることであった。スキルの欠如や採用の難しさも、AIテクノロジーを導入する上での重大な障壁である。

 

Bar graph of barriers to machine learning adoption.

上図:多くの企業がAI戦略の実践に必要となる人材の獲得に苦労している(出典:Rackspace Technology)

機械学習やディープラーニングが本番環境において本格的に利用されるようになったのはごく最近のことで、AIモデルを開発できるデータサイエンティストや機械学習エンジニアがいない中小企業も多い。

 

また、データサイエンティストや機械学習エンジニアの平均給与は、熟練のソフトウェアエンジニアの平均給与と変わらないぐらい高額であるため、多くの企業において、AIを活用した機械学習を主導できる有能なチームを編成することは困難である。

 

機械学習やデータサイエンスに精通した人材が不足していることは周知の事実だが、データベース、データウェアハウス、データレイクといったデータ管理の仕組みを設定、維持、更新するデータエンジニアの必要性には、これまでほとんど触れられていない。上の図から、企業には機械学習を目的としたデータ管理の仕組みを導入できる人材がいないことが原因で、多くの機械学習を生かす活動が失敗していることがわかる。企業の中で特に人材が不足している分野として挙げられるのが、サイロの解消、クラウドへの移行、並列データ処理エンジンであるHadoopクラスターのセットアップ、様々なプラットフォームの能力を活用できるハイブリッドシステムの構築などである。こうした人材が不足していることで、機械学習イニシアチブを全社的に展開することができないのである。

 

しかし、新しい機械学習ツールとデータサイエンスツールの開発により、人材獲得の問題はそれほど深刻ではなくなった。Google、Microsoft、Amazonから、機械学習モデルの開発を容易にするプラットフォームが発表されている。例えばMicrosoftのAzure Machine Learningサービスは、コンポーネントをドラッグアンドドロップできる機能を備えた視覚的なインターフェイスを特徴とし、コーディングなしで機械学習モデルを簡単に構築できるようになっている。また、GoogleのAutoMLは、ハイパーパラメータ調整の面倒なプロセスを自動化する機能を搭載している。これらのツールは機械学習に精通した人材に完全に置き換わるものではないものの、こうしたツールにより、機械学習を新たに身に付けたいと考える人々にとっての障壁が低くなり、多くの企業が人材を再教育してこれらの成長分野のスキルを持った人材を確保できるようになる。

 

「データサイエンスに精通した人材が社内に不足していることは、かつては障壁となっていましたが、今では障壁にはなりません。上記のようなサービスの多くが独自の機械学習を使用して人材不足を補い、こうした人材をスタッフに持つコンサルティング会社を利用できるようになったからです。」とDeVerter氏は述べている。

 

この分野では他にも、クラウドストレージや分析プラットフォームがさらに進化しており、AIシステムの開発や実行に必要なシームレスなデータ管理の仕組みを構築する上での複雑さが大幅に軽減されている。例えば、最小限の労力で様々なソースに保存されている膨大な量のデータに対して、クエリを実行できるクラウドベースのデータウェアハウスであるGoogleのBigQueryなどがある。

 

また、機械学習ツールの互換性や機能の統合も進んでおり、企業は機械学習ツールを既存のソフトウェアやデータエコシステムに統合できるのも容易になるだろう。

 

AIを活用した機械学習に着手する前に、すべての企業は、組織内の人材、利用可能なツール、統合の可能性をすべて検討する必要がある。自社のエンジニアにどれだけ頼ることができ、人材の雇用にどれほどのコストが必要なのかを知ることが、AIを活用した機械学習の成功に導く鍵となりそうだ。また、人材の再教育により必要な人材がそろうかどうかを検討すべきである。企業にとって長期的な価値や良い結果をもたらすのは、自社のエンジニアをスキルアップさせてデータサイエンスや機械学習プロジェクトに参加させることである。

AI人材のアウトソーシング

最近になって拡大してきているもう1つの動向は、AIを活用した機械学習のアウトソーシングである。Rackspaceの調査では、AIアプリケーションの開発に社内の人材のみを充てていると答えた回答は38%のみであった。それ以外は、AIプロジェクトを完全にアウトソーシングしているか、社内とアウトソーシングの人材を組み合わせて採用していると回答している。

 

Bar graph describing how companies handle talent outsourcing for machine learning.

上図:ほとんどの企業は、AIイニシアチブの計画や導入を外部の人材に任せている(出典:Rackspace Technology)

現在、AI戦略の策定や導入を専門とする業者はいくつかある。例えばC3.aiは、いくつかの業界を専門とするAIソリューションプロバイダーである。同社は、Amazon、Microsoft、Googleなどの既存のクラウドプロバイダーに加えて、AIツールの提供も行っている。また、AIのコンサルティングや専門知識の提供も行い、AI戦略の策定から導入まで段階的に進める手順を顧客に紹介している。

 

Rackspaceの報告には次のような記述がある。「成熟したプロバイダーは、戦略策定から導入、メンテナンス、サポートに至るまで、すべてを長期にわたって提供できる。適切な戦略を策定することで、AIおよび機械学習の取り組みが勢いを失ったり、複雑さが原因で頓挫したりする可能性を回避することができる。経験豊富な専門家が実際に現場に出向き、データのクリーンアップやメンテナンスという面倒な作業を請け負うことで、企業や団体を手助けすることもできる。こうした専門知識を組み合わせることで相乗効果が生まれ、最終的に成功を収めることができるのだ。」

 

ただし、企業や団体のAI戦略を外部プロバイダーに完全に任せてしまうことは、両刃の剣になり得ることに注意すべきである。成功につながる戦略を策定するには、AIスペシャリストと、戦略を実行する企業内の対象分野の専門家との緊密な協力が必要となる。

 

DeVerter氏によれば、「これは言わば、開発と運用が強調して動く「DevOps開発」の方法論に移行し、開発全体のアウトソーシングを考えるようなものです。DevOpsには、開発者やビジネスアナリストのほか、企業に関わるの様々な分野の人たちが緊密に連携することが必要です。AIプロジェクトも同じで、戦略や技術的な専門知識が必要となるだけでなく、企業内での緊密な連携やリーダーシップもより重要となります。」

 

AI人材をアウトソーシングする際には細心の注意を払わなければならない。AI戦略の策定や導入のプロセスをスピードアップすることは可能だが、自社の専門家がプロセスに100%関与していなければならない。外部の専門家の協力を仰ぎながら、自社のデータサイエンティストと機械学習エンジニアによる社内チームで取り組むことが理想である。

AI戦略の評価方法

AIの活用に着手する企業にとって大きな課題となっている問題のうち、最後に紹介するのは、AI戦略の成果や価値の予測である。機械学習の適用は多くの分野にとって新しい取り組みであるため、AI戦略の計画や導入にかかる時間と
投資対効果を事前に知ることは難しい。つまり、AIを活用した機械学習のサポート獲得の観点から言うと、組織のイノベーターにとっては他の人からの賛同を得るのが難しいということになる。

 

Rackspaceの調査では、回答者のうち18%が、AI戦略を採用する上で明確なビジネスの実例がないことが大きな障壁であると回答している。また、経営層からの確約が得られないことも大きな障壁のひとつであるようだ。実例の不足と上級管理職からの確約が得られないことは、機械学習の取り組みを進めていく上での大きな課題としても挙げられている。

 

DeVerter氏によれば、「AIは、組織内の問題に対するソリューションとして漠然と使用されることがよくあります。これはむしろ、組織内での大規模な採用を妨げる最大の障害のひとつであると私は信じています。AIの従事者は、AIがどういった企業にどのような利益をもたらすことができるかについての実例を示すことができるため、経営者たちはそうしたAIの活用にさらに資金を提供するようになります。経営者たちは他のビジネスベンチャーと同様に、自分たちの資金提供によってコスト削減や収益化にどう役立っていくかを知る必要があります。」

 

AIを活用した機械学習の成果を評価することは非常に難しい。上記の調査によると、AIを活用した機械学習の成功を評価するための主要評価指標(KPI)のうち、特に重要な2つの要素が、利益率と収益の伸びであるという。当然のことながら、迅速な収益に焦点を当てるべき理由は、ひとつにはAIを活用した機械学習を導入するコストが高いことが挙げられる。Rackspaceの調査によると、企業や団体はAIを活用した機械学習に対して平均で年間106万ドルを費やしているとのことである。

 

しかし、優れたAIを活用した機械学習の導入は当然、収益増加とコスト削減をもたらすのだが、多くの場合、機械学習が長期的に見てもたらす価値は新しい実践例や新製品の開発にある。

 

「短期的な金銭的利益は、短期的な利益から資金を調達する長期的な戦略とセットで考えることができないのなら、このような利益は一時的なものになってしまう」とDeVerter氏は述べる。

 

組織でAIを活用した機械学習に携わっているのであれば、AI戦略の実例、コスト、メリットを明確に説明できなければならない。また、意思決定者は自社が何に着手するかを明確に把握する必要がある。彼らはAIに投資することの短期的なメリットを理解する必要があるが、それだけではなく、長期的には何が得られるかも把握しなければならない。

 

Ben DicksonはTechTalksを創設したソフトウェアエンジニアです。彼はテクノロジー、ビジネス、政治に関する執筆活動を行っています。この記事の初出は、人工知能のビジネスについて探求するシリーズの1記事としてこちらに掲載されました。

 

この記事の初出はBdtechtalks.comに掲載されたものです。(初稿:2021年)

 

この記事はVentureBeatのBen Dickson が執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comにお願い致します。

 

※本記事の文中リンクは英語のページに遷移します。

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