インダストリークラウドが次のトレンドとなる可能性

2021/05/17 Kash Shaikh and Virtana

インダストリークラウドが次のトレンドとなる可能性

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミックによってクラウド移行の加速が予測され、Gartnerの推測では2024年にパブリッククラウド市場が6,510億ドル規模に達するとされている。にもかかわらず、団体・企業はパブリッククラウドの採用について、ようやく検討を始めたところである。よって、現段階で「パブリッククラウドの次のトレンドは?」と尋ねられても違和感を覚えるだろう。

 

Dell、HPE、Ciscoといった従来のオンプレミスのデータセンターインフラストラクチャを扱うプロバイダーと、Amazon Web Services、Microsoft Azure、Google Cloudなどのパブリッククラウドプロバイダーの争いは依然として続いている。一方で、ここで検討しておきたい新たな商機の一つに、インダストリークラウドがある。

 

インダストリークラウドとは、ある業界に特化して最も重要な活用例向けに最適化されたクラウドサービス、ツール、アプリケーションを集めたものである。API(Application Programming Interface)や、一般的なデータモデルおよびワークフロー、ならびにその他のコンポーネントを使用することで、機能をカスタマイズできるという特徴がある。大手パブリッククラウドプロバイダーが提供するインダストリークラウドソリューションは通常、パートナーを通じて、業界固有のアプリケーションを含む様々なソフトウェアやサービスも提供している。たとえば、MicrosoftはSAPと提携し、Azureの製造業界向けインダストリークラウドを通じて、SAPサプライチェーンソリューションを提供している。

 

インダストリークラウドが興味深いのは、顧客とパブリッククラウドプロバイダーの両方に価値を生み出す可能性があるということだ。クラウドネイティブのディスラプター(創造的破壊者)との競争の激しさが感じられる業界に身を置く老舗企業は、この種のソリューションに対して大きな期待を寄せている。こうした企業は自社で開発した旧式のアプリケーションやオンプレミスデータセンター向けに設計された業界固有のソフトウェアに依存していることが多い。そのため、基幹業務アプリケーションを汎用パブリッククラウドに移行するのは難しいケースも多く、厳しい選択に迫られている。単なるアプリケーションをクラウド移行するために「リフトアンドシフト(載せ替えと再構築)」するだけでは、パフォーマンスが最適化されない可能性があるのだ。さらには、クラウド向けに書き直したり最適化するのは時間もコストもかかる。インダストリークラウドはそうした企業のクラウドへの移行を加速し、リスクを排除する可能性がある。

 

またインダストリークラウドに欠かせない要素として、サービス提供を目的とした業界特有の要件に対応する必要があることが挙げられる。たとえば、ヘルスケア提供者は利用者体験の向上を最優先するが、高レベルのセキュリティ、データ保護、プライバシー保護も忘れてはならない。これらは、医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律 (HIPAA: Health Insurance Portability and Accountability Act) の規制に準拠していることを示すために必要となる。金融サービス業界もヘルスケアと同様、規制の厳しい業界である。そのため、金融サービス会社は、カスタマーインサイトと新商品開発のためにデータ分析とAIを重視しており、取引アプリケーションではミリ秒単位の遅延時間で処理することが求められる。また、小売業界特有の特徴としては、在庫管理を改善するために大量のデータセットを継続的に収集、分析する必要がある。

 

こうした要件の中には (特にいくつかの要件が組み合わさる場合は)、汎用クラウドソリューションでは不十分だろう。また、このような要件の厳しさがクラウド移行における懸念の大部分を占めていたことを考えると、競争の激しい業界に身を置く老舗企業の多くはクラウドへの競争に遅れをとっていることになる。つまり、こうした企業は、ITインフラストラクチャにパブリッククラウドを追加することで得られるメリットにまったく気付いていないのだ。

 

パブリッククラウドに加えて、業界固有のSaaS (Software as a Service)や新たなオプションも多数登場している。たとえばヘルスケア業界では、電子健康記録 (EHR: Electronic Health Record) でSaaSオプションが利用できる。ヘルスケアのSaaSでは、請求やサプライチェーンといった主要な機能を提供している。

 

もう一つの例として、製薬およびライフサイエンス業界が挙げられる。製薬のSaaSでは臨床医療、およびコンプライアンス機能を提供している。ここで強調しておきたい重要な点は、SaaSはクラウド移行において一番目の選択肢であり続けており、Gartnerによると市場支出額の予想が2021年には1,177億ドルにのぼるということだ。SaaSは業界固有のニーズに対応できる優れた選択肢であり、大手クラウドサービスプロバイダー(ハイパースケーラー)からも注目を集めている。

 

インダストリークラウドにおける商機を考えると、Amazon、Microsoft、Google、IBMといったハイパースケーラーがすべて、業界固有の幅広いクラウドソリューションを提供するようになったのは当然のことだ。IBMやMicrosoftといった老舗企業にとって、こうしたクラウドソリューションの開発は、ビジネス上の問題を解決するためのテクノロジーを顧客に提供することから生まれたコンピュータービジネスやソフトウェアビジネスの開発に酷似している。IBMとMicrosoftはどちらも、特定の分野に特化したバーティカル市場での経験と顧客基盤を古くから持っており、これらをインダストリークラウドの構築およびサポートに活用することで、一定数の顧客と利点を共有できる。インダストリークラウドはすべてのパブリッククラウドプロバイダーにとって、パブリッククラウドが継続的に成熟していく上で理にかなった次のステップとなるのだ。

 

インダストリークラウドにおける商機は、業界固有のアプリケーションをパブリッククラウドに移行するためのサポートを行うクラウドサービスプロバイダーからも注目を集めている。クラウドが主流になる以前は、業界標準のアプリケーションを利用する顧客がそれを運用、メンテナンスするのを支援する小規模な業界が誕生した。この業界の企業数社がビジネスを進化させ、これらのアプリケーションのクラウド移行をサポートしてきた。

 

たとえばヘルスケア業界では、EpicとCernerがそれぞれ市場シェア29%と26%で米国の病院のEMR市場を支配しているが、これらのアプリケーションをクラウドに導入するのを支援する企業が多数存在している。EMRのデータを保護するための規制とビジネス上の必須課題を考慮して、こうした企業のほとんどは、データセンターのオンサイト運用とパブリッククラウドを組み合わせたソリューションであるハイブリッドクラウドのアプローチをサポートし、プライバシー、セキュリティ、および災害復旧に関するソリューションや特別な専門知識も提供している。また、これらの企業は、プライベートクラウドにアプリケーションを運営する企業もあるが、1社以上のパブリッククラウドプロバイダーとパートナーシップを結んでいる企業が多い。

 

同時に、EpicとCernerはパブリッククラウドプロバイダーと独自の関係を確立している。EpicとGoogleの対立は、特定の業界で自社の地位を確立しようとしているクラウドプロバイダーに学ぶべき教訓を与えた点で、さらなる注目に値する。EpicがGoogleとの関係を絶ったきっかけは、ミズーリ州を本拠地とする大規模医療システムであるAscensionとの連携において、患者情報がオンサイトサーバーからGoogleサーバーに転送されるときに、Google社員が患者の同意なしに患者情報にアクセスしていたことが判明したからである。Ascensionは今もGoogleと連携しているが、EpicはMicrosoftに切り替えた。同じくCernerもGoogleから離れ、Amazonを選択した。

 

インダストリークラウドは勢いを増すもののまだ日が浅く、特定の業界向けに有意義な方法で作られたものというよりはむしろ、マーケティング戦略向けのものも存在することは間違いない。しかしこの状況は変化していくだろう。ただし今のところ、パブリッククラウドプロバイダーが提供するインダストリークラウドを検討する企業は、異なるプロバイダーから提案されるインダストリークラウドの比較に限らず、各プロバイダーのインダストリークラウドと汎用ソリューションとの比較も行うなど、慎重に評価すべきである。とはいえ、現時点ではそれほど大きな差はないかもしれない。

 

Kash Shaikhは、AIを活用してクラウドアプリケーションの移行、最適化、監視ができるオブサーバビリティを備えたクラウドプラットフォーム、VirtanaのCEO兼社長である。

 

この記事は VentureBeat のKash ShaikhおよびVirtanaが執筆し、Industry Dive パブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.com にお願い致します。

 

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