DXにおける最大の課題、人的資本の育成方法とは

2021/06/23 Joanne Guo

DXにおける最大の課題、人的資本の育成方法とは

インダストリー4.0 は「第4次産業革命」とも呼ばれ、製造業におけるデジタル化を目指すコンセプトの総称である。インダストリー4.0は、データの利用可能性とコンピューティング性能の向上に支えられて発展し、コネクティビティ、高度な分析、自動化、および高度なエンジニアリングに使用されるテクノロジーが、その最たる例として挙げられる。

 

多くの企業が、競争力と将来への備えを維持するためにはデジタル化が重要であることを認識している。特にCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)によるパンデミックが発生し、デジタルソリューションとテクノロジーの採用を加速することを余儀なくされている昨今の状況において、この認識はますます強化されている。だが、インダストリー4.0を導入し、成功裏に遂行することは容易ではない。

 

McKinseyが最近行ったグローバルな調査では、インダストリー4.0テクノロジーとソリューションを試験的に導入した企業の74%が、これらのテクノロジーとソリューションをうまく拡大できず、いわゆる「パイロット・トラップ (試験導入での落とし穴)」にはまってしまっているという結果が出ている。企業は、事業、テクノロジー、組織という3つの重要な側面を同時に検討する必要があり、これらを包括的に考えることによりデジタルトランスフォーメーションが成功するのである。

 

  • 事業: 運用上の問題に対して事業にもたらす影響を基準とし優先順位を付け、解決を目指す能力。
  • テクノロジー: 該当する運用上の問題に利用できる適切なテクノロジーを選択して生産性と効率を最大化できるように、利用可能な種々のテクノロジーを明確に理解すること。
  • 組織: テクノロジーを適切に利用するには、従業員が新しいプロセスに賛同し、使いこなす能力が必要であるため、人的資本の効果的な管理が重要。インダストリー4.0変革の多くで、人的資本の効果的な管理が盲点になりがち。

人的資本: インダストリー4.0の中心

インダストリー4.0による変革を遂げた企業を見ると、人材を変革の取り組みの中心に据えることの重要性がわかる。従業員のモチベーションを維持し、新しい働き方を受け入れていくためには、従業員から賛同を得て関与してもらう、といった変革管理を行うことが不可欠だ。

 

変革していくうえで、ビジネスリーダーには以下のことが求められている。

 

  • 理解と確信を促進する: 変革が重要である理由について確信を持ち、変革に際して何を行わなければいけないのかをはっきりと理解している従業員は、自社の変革を支持する傾向にあるだろう。また、デジタル化によって失業するかもしれないという恐れや典型的な誤解を払拭する必要がある。それと同時に、テクノロジーによって日常的で反復的なタスクを自動化できるようになった現在、こうしたテクノロジーの利用によって従業員がさらに付加価値の高い仕事に従事できる環境を促進することが、インダストリー4.0の真の使命であると従業員に確信させることも必要である。
  • 模範になる: ビジネスリーダーが、個人的に新しいテクノロジーや働き方を採用するオープンマインドや意欲を示すことで、変革に向けた説得力が増す。本質的に、従業員は無意識のうちに自分たちを先導するリーダーを模倣するものだ。
  • 能力とスキルを開発する: 従業員が変革に対応するために必要なスキルと、それを身につける機会を有しているのかを確認する。
  • 形式的な仕組みによって強化する: ビジネスリーダーは、伝統的なプロセスや非効率的な働き方など、変革にとって障壁となる事柄を排除することで変革を促進していくベストな立場にいる。ビジネスリーダーはまた、変革中におけるスタッフのニーズの変化に対応するために、自社の人的資本の管理方法も合わせて強化しなければならない。

 

企業はキャリアニーズを理解して調整を図り、人的資本における事務的な人事から戦略的な人材マネジメントに移行することで、従業員を変革の現場に引き込むことができる。ここでは、職務再設計とスタッフのスキルアップという2つの概念について、さらに詳しく考えていく。

職務再設計

企業はインダストリー4.0に向けた取り組みに着手するにあたり、既存の職務に対してテクノロジーがどのような影響を及ぼすかを調べ、変革に対応するために必要な能力を特定しなければならない。そうしないと、新しいソリューションの採用に苦戦している従業員がストレスを抱え、モチベーションが下がってしまうかもしれない。

 

職務再設計においては、タスクの組み合わせを変更して最適な組み合わせであるかどうか調べたり、人とマシンとの相互作用を通じてタスクをより効率的に遂行できる方法を調べることにより、テクノロジーの採用がさらに促進される。

 

例えば、デジタルテクノロジーを採用することで、製造現場の監督者は、製造工場のセンサーが収集したデータを使用してリアルタイムで製造状況を追跡できる。このように現場の状況が把握しやすくなることで、監督者は製造性能および製造能力に関する洞察を得ることができ、製造工場に直接出向いて製造現場を監視する必要がなくなる。

 

これにより監督者には時間的余裕が生まれるため、課題解決のためのクロス・ファンクショナル・チームの取り組みで製造の問題を解決するなど、より付加価値の高いタスクに集中できるようになる。結果として製造現場の監督者の職務は、データ分析や継続的改善などの戦略的責任を担うものへと再設計されることになる。

スタッフのスキルアップ

職務再設計では、既存のスタッフの責任を新たな領域へと拡大していけるよう、スキルアップの機会を設ける必要がある。継続的に学び、将来の仕事を遂行するための十分なスキルを身に付けたスキルアッププログラムを受けたスタッフは、企業にとって即戦力となる。

 

スタッフのスキルアップを促進させるために、ビジネスリーダーは、再設計された職務に必要な技術的スキルおよびソフトスキルをピックアップしなければならない。その後、スキルギャップを分析して、スタッフそれぞれの学習ニーズを判断し、スタッフの能力向上につながるような学習と成長 のための助言や研修の機会を与えることができる。

 

SkillsFuture Singaporeではトレーニングエクスチェンジ、OJT、パフォーマンスチェックインといった幅広い学習リソースを展開している。これらを組み合わせることで、学習と成長の機会は従業員の能力を向上させて将来有望な人材へと成長させる強力なツールとなる。

IHCIイネーブラープログラム

デジタルトランスフォーメーションを継続的に推進していくためには、企業が事業、テクノロジー、組織の3つの側面をうまく統合できなければならない。企業がテクノロジーのボトムアップを実施して職務再設計を遂行することは重要だが、シンガポール政府は、企業の変革を成功させる、より広範な全国的な取り組みを実現するためのエコシステムの策定において非常に大きな役割を果たしている。

 

インダストリー4.0人的資本イニシアチブ (IHCI: Industry 4.0 Human Capital Initiative) イネーブラープログラムはその一例である。シンガポール事業連盟 が運営し、ワークフォース・シンガポールから支援を受けているIHCIイネーブラープログラムは、主に製造業とその関連部門 (ロジスティクスや建設など) に属する企業を対象としている。

 

 

このプログラムに参加した企業は、McKinsey & CompanyおよびErnst & Youngから依頼を受けたワールドクラスのエキスパートと共同で、8週間にわたって企業の優先分野の特定や最大のボトルネック解消といった課題に取り組み、企業それぞれの現場に試行的にインダストリー4.0ソリューションを導入して、インダストリー4.0の変革を維持するために必要な人的資本へのアプローチに着手する。

 

参加企業はプログラム終了後、インダストリー4.0をさらに幅広く遂行し変革を維持するのに役立つ専用の実践コミュニティへの参加が可能になる。このコミュニティでは、学習者どうしが互いに協力しながら学び合うピアラーニングと、学習とテクノロジーをキュレートした教育課程の2つを特徴として実施される。

 

2020年3月に発足したIHCIイネーブラープログラムにはこれまでに65社以上の企業が参加し、職務再設計とテクノロジーの変革を通じて、生産性の最大200%向上と、1,000以上の職務における価値向上の可能性を突きとめている。

 

プログラム参加企業には、エレクトロニクス、精密工学、食品製造、都市ソリューション、医療技術、ロジスティクス、サプライチェーンマネジメントなど、様々な業界の中小企業や大企業が名を連ねている。

 

一例を挙げると、在庫レベルの最適化を検討していた材料販売会社であるAsia Enterprisesは、IHCIイネーブラープログラムの参加企業で、同社はこのプログラムを通じて、安全性と在庫循環における目標を、科学的根拠に基づき設定するプロセスを自動化できた。これにより同社の在庫管理に必要な運転資金を大幅に削減することができ、在庫の27%削減を実現できたのである。

 

これに対応してAsia Enterprisesは、在庫計画や調達活動の管理、改善機会の継続的な特定に対してテクノロジーを利用した変革が反映されるように、在庫管理責任者の職務を再設計した。スキルギャップの評価を行った結果、既存のスタッフがデジタルソリューションを効果的に活用できるようになるために、データアナリティクスやモノのIoT管理といった新しいコンピテンシーを習得する必要があるとわかった。

 

同社がさらに価値を維持、向上させるために、職務再設計やスタッフのスキルアップと同様にインダストリー4.0ソリューションの影響を受けた、販売、在庫、管理などをクロスファンクショナルに扱える役職が必要であることが判明した。IHCIイネーブラープログラムに関するその他の企業のサクセスストーリーや詳細情報は、ここからアクセスできる。

 

シンガポールがデジタルトランスフォーメーションを推進していく中で企業側も積極的に成長し、新しいテクノロジーを採用し、スタッフにも付いてきてもらう必要がある。こうした取り組みにおいて、ビジネスリーダーに課せられた役割は大きい。

 

幸いなことに、ビジネスリーダーは変革への取り組みを一人きりで行う必要はなく、国のイニシアチブを活用して正しく着手することができる。いま正しく着手できれば、パンデミック収束後においても自社の競争力を維持できるのだ。

 

 

本記事 (Human capital is the biggest enabler of digital transformation. Here’s how to enhance it (デジタルトランスフォーメーション最大のイネーブラー、人的資本の育成方法) )の初投稿先はe27です。

 

この記事はe27のJoanne Guoが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comにお願い致します。

 

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