世界が認める技術資産が実現した、新モーターシステム ― 世界初を取りにいく(前編)

2021/06/16 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 2030年度に温室効果ガス50%削減。東芝の環境未来ビジョンと製品開発の関係とは?
  • 東芝の空調機が、画期的なシステムによって「2020年度省エネ大賞」受賞!
  • 高性能化と低コスト化を両立させる、新モーターシステムとは?
世界が認める技術資産が実現した、新モーターシステム ― 世界初を取りにいく(前編)

三方よし――売り手も買い手も満足し、さらに社会に貢献する。江戸期から現代へ受け継がれてきた、商人の精神を表した言葉だ。近年はSDGs(Sustainable Development Goals)の理念を加味し、「顧客よし・自社よし・環境によし」を実現する製品、サービスが必須のものに。企業活動も限りある資源を有効活用し、地球温暖化を抑制しながら進めていかなければならない。

 

東芝が掲げる「環境未来ビジョン2050」も、その一つ。2030年度において温室効果ガスの50%削減を目指し、自社内での取り組みだけでなく、販売した製品を使用する際の排出量の削減も目標としている。省エネ性を意識すべき製品は多岐にわたるが、ここでは空調分野に着目。現代の住宅・オフィス事情に即した省エネを実現する、世界初の技術に迫る。

 

東芝の環境ビジョン2050では、3つの側面から温室効果ガスの排出を削減

東芝の環境未来ビジョン2050では、3つの側面から温室効果ガスの排出を削減

世界初を取りにいく ― 温室効果ガス削減に貢献する空調システム

東芝キヤリア株式会社が手掛けるビル用マルチ空調システム「スーパーマルチuシリーズ」が、2020年度省エネ大賞※1の製品・ビジネスモデル部門において最高賞となる経済産業大臣賞を受賞した。省エネ大賞は、模範となる優れた省エネの取り組みや、省エネ性に優れた製品ならびにビジネスモデルを表彰するもの。省エネについて日本全体の意識を拡大し、製品を普及することなどによって、省エネ型社会の構築への寄与を目的としている。

※1 財団法人省エネルギーセンターが主催

このスーパーマルチuシリーズの高い省エネ性能、さらに低コストを実現した技術が、コンパクトかつ高効率を実現した「トリプル・ロータリー・コンプレッサー※2」、そして大容量のコンプレッサーを効率よく駆動するコンパクトな「デュアル・ステート・インバーター※3」である。ここで取り上げるのは、そのデュアル・ステート・インバーター技術を適用した新モーターシステム。2台の小型インバーターで大型モーター1台を駆動する新たな構成であり、東芝の研究開発部門である生産技術センターと空調事業を担う東芝キヤリアが実現。高出力、高効率を示す「高性能化」「低コスト化」という二律背反を乗り越えて実現したものである。すなわち、効率よく高い出力を発揮し、かかるコストも抑えるという「いいとこ取り」だ。

※2 コンプレッサー:冷媒を圧縮し、冷媒である気体の圧力を高める装置
※3 インバーター:直流電力を交流電力に変換する回路であり、用途に合わせてモーターの回転速度を柔軟に変える

「近年、日本においても建築物の高気密化や高断熱化が進んでいます。全館空調などで住環境を快適にするマンションや、戸建て住宅が増えていますから、実感されている方も多いのではないでしょうか。こうした背景から、空調機を動かすコンプレッサーモーター駆動システムには、運転開始時の負荷だけではなく、運転中の室温維持における効率アップが求められるようになっています」(石田氏)

東芝キヤリア株式会社 技術統括部 エレクトロニクス設計部 制御器設計第二担当 マネジャー 石田 圭一氏

東芝キヤリア株式会社 技術統括部 エレクトロニクス設計部 制御器設計第二担当
マネジャー 石田 圭一氏

そう新モーターシステムの開発契機を語るのは、東芝キヤリアの石田氏だ。石田氏によると、理想の空調に求められるのは、設定温度に到達するまで急速に冷房・暖房するパワーに加え、その後の安定駆動で温度を一定に保ち、省エネルギーも実現するきめ細かさだという。社会が求めることを、実現しなければ。その思いから、インバーターの性能向上を究めてきた石田氏は、新たなモーターシステムの開発に取り組むことにした。

 

空調の運転開始時の定格負荷を担うパワー、部分負荷運転時の高効率化が重要

空調の運転開始時の定格負荷を担うパワー、部分負荷運転時の高効率化が重要

これまで石田氏は、東芝 生産技術センターや、大学等とも緊密に連携し、インバーターの開発と実用化を進めてきた。そんなやり取りの中で、石田氏は、大学との議論で「オープン巻線モーター」に可能性を見出し、2つのインバーターで1つのモーターを回す新技術を空調機に活用しよう、と着想する。その時、3年後の販売を目指してビル用マルチ空調システム「スーパーマルチuシリーズ」の開発が進んでいた。2インバーターによるオープン巻線モーターシステムは学会などで活発に研究されてはいるものの、空調機には適用されていない技術であった。

 

世界初を取りにいく――この思いを掲げて、石田氏のチームは、東芝 生産技術センターと連携を進めた。こうして、「省エネ性に優れ、温室効果ガス削減に貢献する空調機」の社会実装を目指す東芝キヤリアと、豊富な技術資産で研究開発を続ける生産技術センターがガッチリ手を組み、「世界初」を目指したプロジェクトが始動した。

「高性能化」と「低コスト化」の二律背反を乗り越えて

東芝 生産技術センターで本プロジェクトに参画し、新モーターシステムの原理検証と制御技術開発を担当したのが柴山氏だ。

 

「通常、モーターシステムは、1台のインバーターで1台のモーターを駆動させるものです。石田さんたち東芝キヤリアから打診されたのは、2つのインバーターで1台のモーターを動かすという、根本から異なる新モーターシステム。ゼロからの開発ですが、空調機では他社が取り組んでいない点に面白さを感じました。難しいけど楽しそう。やってやろう、と考えたのです」(柴山氏)

株式会社東芝 生産技術センター 電子機器・実装・制御技術領域 制御技術研究部   スペシャリスト 柴山 武至氏

株式会社東芝 生産技術センター 電子機器・実装・制御技術領域 制御技術研究部
スペシャリスト 柴山 武至氏

新モーターシステムでは、2つのインバーターを組み合わせることで得られる出力を、1つのモーターに加える。大きな出力が得られ、出力電圧は従来システムに比べて173%にアップする。そして、これら2つのインバーターを使い分けることも可能になる。すなわち、低い出力で十分な時には1つだけでモーターを動かし、高い出力が必要な時は2つとも使う。こうして、運転負荷に応じて1インバーター駆動と2インバーター駆動を切り替えることで、エネルギー効率を高めることができるさらに、インバーター1つあたりが物理的に小さく、回路の容量を抑えられるので、1つの大容量インバーターで駆動する方式と比べて回路コストを大幅に削減できるのもメリットだ。

 

出力と効率を上げ、コストも抑える新モーターシステム

出力と効率を上げ、コストも抑える新モーターシステム

新モーターシステムを実現するには、様々な回路構成が考えられる。柴山氏は、技術調査とシミュレーションによる検討を重ねて、性能とコストの観点から、今回開発したビル用マルチ空調システムに最も適した回路構成を決定した。それだけではない。同時に柴山氏は、開発初期の段階から、シミュレーションと試作機を用いた検討により技術課題を抽出し、その解決策の検討を進めていった。

こうして始動した、新モーターシステムを採用した世界初の空調機の開発プロジェクトだが、そう簡単に進んだわけではない。研究開発の柴山氏、製品化の石田氏、それぞれのチームに乗り越えた困難があった。後編では、彼らがどのような困難を、どのように乗り越え、そこに技術の歴史が刻まれているのか、さらに深く迫っていく。

 

※本取材・撮影は、感染対策を実施の上で実施しました。

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