世界が認める技術資産が実現した、新モーターシステム ― 世界初を取りにいく(後編)

2021/06/21 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 「2020年度省エネ大賞」を受賞した東芝の空調機は、何を乗り越えて開発された?
  • 不変にして普遍 ― 40年前と今、東芝の技術者たちが考えていること
  • 新しいモーターシステムは、空調分野を超えて社会インフラを広く支えていく
世界が認める技術資産が実現した、新モーターシステム ― 世界初を取りにいく(後編)

三方よし――売り手も買い手も満足し、さらに社会に貢献する。江戸期から現代へ受け継がれてきた、商人の精神を表した言葉だ。近年はSDGs(Sustainable Development Goals)の理念を加味し、「顧客よし・自社よし・環境によし」を実現する製品、サービスが必須のものに。企業活動も限りある資源を有効活用し、地球温暖化を抑制しながら進めていかなければならない。

そういった流れに符号するように、東芝キヤリア株式会社が手がけるビル用マルチ空調システム「スーパーマルチuシリーズ」が、2020年度省エネ大賞※1の製品・ビジネスモデル部門において最高賞となる経済産業大臣賞を受賞※1した。世界初の空調機に採用された新モーターシステムについて解説した前編に続いて、この後編では技術者がどのような困難に直面し、乗り越えたのか、さらに深く迫っていく。

※1 財団法人省エネルギーセンターが主催

やるしかない ― 確信を持って飛ぶ暗闇への飛翔

新モーターシステムでは、2つのインバーターで1台のモーターを動かす。こうすることで、低い出力で十分な時には1つだけでモーターを動かし、高い出力が必要な時は2つとも使い、エネルギー効率を高めることができる。また、インバーター1つあたりが小さくなるので、低コスト化にも寄与する。

出力と効率を上げ、コストも抑える新モーターシステム

出力と効率を上げ、コストも抑える新モーターシステム

モデルとしてはいいこと尽くしの新モーターシステムだが、開発の途上では乗り越えるべき課題は少なくなかった。東芝キヤリアで製品化を急ぐ石田氏が最も頭を悩ませたのは、インバーター内部のパワーデバイスが誤動作するトラブルだ。

「2つのインバーターが同時に動くことでスイッチングのノイズが影響し合い、誤動作により部品破壊してしまうのです。開発の終盤に差しかかってはいましたが、思い切ってプリント基板の配線パターンを再設計。従来のインバーター基板設計には存在しない、2つのインバーターが繋がる直流配線を極力短くなるよう変更したところ、ノイズを大幅に削減できました。シミュレーションでは見えなかった課題でしたが、長年インバーターに取り組んできた先輩に知見を授けていただき、乗り越えられました。ノイズの発生原理を理解できていたので、チームでの問題発見、課題解決のスピードが速められたのです」(石田氏)

東芝キヤリア株式会社 技術統括部 エレクトロニクス設計部 制御器設計第二担当 マネジャー 石田圭一氏 (左端)とチームメンバー

東芝キヤリア株式会社 技術統括部 エレクトロニクス設計部 制御器設計第二担当
マネジャー 石田 圭一氏 (左端)とチームメンバー

発売を控え、開発は既に終盤に差しかかっていた。設計をリセットするのは勇気がいる決断だ。しかし、石田氏は「誤動作を本質的に解決するなら、やるしかない。それが、技術に誠実であること。世界初のインバーターエアコンに取り組んだ先人たちと同じ思いです」と迷いなく腹をくくった。

先人たち――それは今を遡ること約40年前の1980年頃。東芝が、世界で初めて開発、量産化に成功したインバーター搭載エアコンの開発陣だ。このインバーター搭載エアコンに対して、IEEE※2(世界最大の電気・電子関係の学会)は、電気関連技術の歴史的な偉業を表彰する「IEEEマイルストーン」として認定した(2020年11月)。快適性・エネルギー効率の大幅な向上を実現し、私たちの生活を支えているインバーターエアコンは、技術史に燦然と輝いている。

※2 IEEE(アイ・トリプル・イー:Institute of Electrical and Electronics Engineers): 人類社会の有益な技術革新に貢献する世界最大の専門家組織であり、世界160ヵ国以上、40万人を超える会員が所属

「IEEEマイルストーン贈呈記念式典」(2021年3月)において、当時開発に携わったメンバーは、前例のない開発への取り組みを「闇夜で踏み出す一歩目」になぞらえた。石田氏が言明した「やるしかない」という勇気は、確信を持って飛ぶ暗闇への飛翔。そこから、次へと続く道が広がっていく。1980年代、そして2020年代の技術開発が「世界初への挑戦」でリンクした瞬間だ。

新モーターシステムの原理検証と制御技術開発を担当した、生産技術センター(研究開発部門)の柴山氏に話を移そう。柴山氏は、先行開発を進めていく中で、「モーターのひずみ電流の制御が一番の課題だった」と振り返る。2つのインバーターがそれぞれ電源ラインにつながるため、スイッチのオン/オフで循環電流が発生し、モーター電流が歪んでしまう。そうすると、モーターの効率が落ちてしまう。これも2インバーターならではの課題である。柴山氏は、この課題をどう乗り越えたのだろうか?

「シミュレーションや試作機を活用して、ひずみ電流を抑える方法を検討しました。最終的には2つのインバーターのスイッチングを同期させた新しい制御技術を開発することで、ひずみ電流を抑制できました」

「私たちはモーター、回路・制御、電磁ノイズに関する技術を磨いてきた専門家集団です。それぞれの強みを結集し、制御技術開発に加えて、モーター設計や電磁ノイズ検証にも取り組みました。このようにモーターシステムに必須の技術を複数メンバーで早期から連携し着々と作り込み、東芝キヤリアに引き継いでいきました」(柴山氏)

株式会社東芝 生産技術センター 電子機器・実装・制御技術領域 制御技術研究部 スペシャリスト 柴山 武至氏 (中央)のチーム

株式会社東芝 生産技術センター 電子機器・実装・制御技術領域 制御技術研究部
スペシャリスト 柴山 武至氏 (中央)のチーム

開発初期の段階から「この問題は必ず解決できる」と手応えを得られたのは、東芝がパワーエレクトロニクスの専門家集団として受け継いできた知見でもある。「生産技術センターの私たちのチームだけではない、東芝グループ全体の技術継承の重みを感じました」と、柴山氏は力強く語った。

社会インフラを支える「自分たち発信」のパワーエレクトロニクス

新モーターシステムを搭載した「スーパーマルチuシリーズ」。前述のように2020年度「省エネ大賞」で評価されたのは、業界トップのAPF(通年エネルギー消費効率)※3を達成したこと、さらに、屈指のコンパクトサイズを実現した点である。今回注目したデュアル・ステート・インバーターがコアな技術となったが、それだけではない。大容量トリプル・ロータリー・コンプレッサーや、新形状の熱交換器、プロペラ・ファンによる大能力化、オイル・冷媒管理制御の高度化による冷凍サイクル簡素化など、空調システム全体を、完成度の高いパッケージとして仕上げる総合力が強みを発揮したのだ。

※3 Annual Performance Factor: 冷暖房期間で発揮した能力(kWh)を消費電力(kWh)で割った数値、エネルギー効率を表す

「高性能化は省エネにつながり、東芝が掲げる環境未来ビジョン2050の達成、その先にある地球温暖化の防止に寄与できるでしょう。日本の場合は国土が狭く、設置面積に限りがあるので機器の小型化も必須になります。新モーターシステムへの期待は、高まる一方です。パワーエレクトロニクス技術を結集し、東芝グループ全体で共通課題を解決していく委員会活動でも集合知を発揮し、力を合わせて新たなシステム開発を進めています」(石田氏)

東芝キヤリア株式会社 技術統括部 エレクトロニクス設計部 制御器設計第二担当 マネジャー 石田 圭一氏

「インバーターエアコンが初めて発売されたのは、私が生まれる前のことです。道を切り拓いた先人に続き、自分たちが発信する技術で社会に貢献し、消費者のメリットにもつながる幅広い製品を届けられればと思います」(柴山氏)

株式会社東芝 生産技術センター 電子機器・実装・制御技術領域 制御技術研究部 スペシャリスト 柴山 武至氏

前を向く2人が力強く語るように、東芝キヤリアと生産技術センターが開発した新モーターシステムの可能性は、空調分野に限定されるものではない。「高効率」「高出力」を両立するこのシステムは、広く社会インフラ全般で力を発揮していくはずだ。

※本取材・撮影は、感染対策を実施の上で実施しました。

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