インバーターが世界を変えた ― 1980-2020を貫く技術者の志

2021/06/25 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 世界初のインバーターエアコンが、「IEEEマイルストーン」で歴史的偉業に認定!
  • ビル用マルチ空調システムが、世界初の機構を実現して「2020年度省エネ大賞」受賞!
  • CPS(Cyber-Physical Systems)時代を視野に入れ、技術者の志は連鎖していく
インバーターが世界を変えた ― 1980-2020を貫く技術者の志

電気洗濯機・電気冷蔵庫・テレビ(白黒)の「三種の神器」に憧れた大衆が牽引した、日本の戦後の消費時代。その後、60年代にはカラーテレビ(Color Television)、自動車(Car)、空調機(Cooler)の「3C」が豊かさの象徴となった。

 

そして、半世紀後――私たちの前に立ちはだかるのは地球温暖化の抑制、資源の有効活用といった難題だ。温室効果ガスの排出削減が課題となる中、運転時間の長い空調のエネルギー消費においても環境負荷を抑える技術が求められる。「より快適に」「より地球にやさしい」技術が求められる中、1980年代、そして2020年代の技術者たちはいかなる思いで研究開発に従事してきたのか。40年を経て連鎖する「変革への情熱」に光を当てる。

技術史に大きな足跡を残す「インバーターエアコン」

2020年――「インバーター※1というキーワードで2つの表彰が行われた。一つは、IEEE*2(世界最大の電気・電子関係の学会)が電気関連技術の歴史的な偉業を表彰する「IEEEマイルストーン」の認定。ここでは、東芝が1980年と81年にそれぞれ開発・量産化した、世界初の業務用と家庭用のインバーター搭載エアコンについて、東芝キヤリアが表彰されている。そしてもう一つは、2020年度の「省エネ大賞※3。同じく東芝キヤリアのビル用マルチ空調システム「スーパーマルチuシリーズ」が、経済産業大臣賞を受賞したのだ。

※1 直流電力を交流電力に変換する回路であり、用途に合わせてモーターの回転速度を柔軟に変える
※2 IEEE(アイ・トリプル・イー:Institute of Electrical and Electronics Engineers): 人類社会の有益な技術革新に貢献する世界最大の専門家組織であり、世界160ヵ国以上、40万人を超える会員が所属。
※3 財団法人省エネルギーセンターが主催

IEEEマイルストーン認定を得た、東芝のインバーター搭載エアコン

IEEEマイルストーン認定を得た、東芝のインバーター搭載エアコン

インバーターを搭載したエアコンは、東芝が世界で初めて開発・量産化に成功したもの。高いエネルギー効率と快適性を両立し、世界的な普及に貢献したことが評価された。ちなみに、東芝は、2008年に日本語ワードプロセッサーが、13年にはラップトップパソコンがIEEEマイルストーン認定を受けており、今回で3度目の受賞となる。

 

一方、ビル用マルチ空調システムは、2つの小型インバーター回路で1つの大型コンプレッサーを空調負荷に応じて効率良く駆動する先進技術「デュアル・ステート・インバーター」を、こちらも世界で初めて実用化。業界最小クラスのコンパクトさで、最高のAPF(通年エネルギー消費効率)※4を実現したことが評価されている。40年という時を隔てる2つのインバーター搭載プロダクトだが、「世界初」として世に届けられ、高い評価を得た点で共通している。そこには社会、業界、消費者の課題を解決し続ける技術者たちの眼差しがあった。

※4 Annual Performance Factor: 冷暖房期間で発揮した能力(kWh)を消費電力(kWh)で割った数値、エネルギー効率を表す

たゆみなく続く研究開発を振り返るべく、時を1970年代に戻そう。教科書にも載っている「オイルショック」は1973年のことだ。経済の大混乱を受け、「エネルギーの使用の合理化に関する法律」(省エネ法)が制定される。経済成長だけではなく、エネルギー消費効率も両輪で追求する時代が到来したのだ。空調分野も、またしかり。「ただ冷やせばいい」一辺倒の冷房から、エネルギーのロスを抑えつつ、きめ細かく温度を調整する空調機が求められるようになっていた。

 

しかし、当時の空調で可能だったのは、目標設定温度を基準にして、一定速度(商用電源周波数)で動作するコンプレッサー※5のオン/オフを制御するのみだった。つまり、コンプレッサーは常にフルパワーで運転するか、あるいはストップかという極端な運転しかできなかった。そこでスポットライトが当たったのがインバーターだ。

※5 冷媒を圧縮し、冷媒である気体の圧力を高める装置

インバーターとは電源の周波数を変え、モーターの回転数を制御する装置である。無駄なエネルギーの消費を低減でき、今や空調機に限らず様々な分野の製品に利用されている。70年代の時点で、インバーターによってきめ細かく温度を調整できる空調の可能性は指摘されていた。しかし、当時のインバーターは高価でサイズも大きいのがボトルネックであり、家庭で使用できるエアコンへの搭載は困難だと考えられていたのである。

省エネ性と快適さを追求し続け、「世界初」を達成

当時の開発陣は、最新鋭の大電力トランジスター※6の利用や、制御回路で生成したデジタル信号により実現した「正弦波近似パルス幅変調方式」を採用し、従来のインバーターの1/6という大幅な小型化・軽量化を実現。世界初となる業務用インバーターエアコンを開発し、1980年12月の発売に至る。 さらに、この技術を応用して家庭用インバーターエアコンも誕生させ、一大センセーションを巻き起こした。

※6 電気の流れをコントロールする部品で、電流を増幅したり、オン/オフしたりする

IEEEマイルストーン贈呈記念式典では「世界初インバーターエアコンの開発秘話」と題し、当時開発に携わったOBが登壇。座談会を通して開発当時の思い、乗り越えた壁について振り返った。1975年当時、特許の出願では競合メーカーが先行。東芝開発陣は、苦しい状況にあったという。当時の開発陣を鼓舞した技術者たちのリーダーの言葉を引用しよう。

 

「結果を信じて開発を始めろ。問題は開発段階で必ず解決できる。あと少しだけ頑張れば、未来の空調が手に届くところに来ているんだ」

 

特に難航したのは、家庭用インバーターエアコンの開発である。コンプレッサー機構部の潤滑不良、回転数を上げることで発生する部品の摩耗や故障、異常音……。技術者は、前例のない開発で立ちはだかった課題を一つひとつ解決し、コンプレッサーとインバーターのバランスを取っていった。かくして、インバーターは業務用に比べて1/3のサイズになり、室外機のコンプレッサー上部に配置可能に。価格も当初想定の40%に抑えられるメドがつき、家庭用としての販売が視野に入った。そして1981年夏には家庭用インバーターエアコンが開発され、同年12月の報道発表を迎える。

 

夏休みを返上し、開発に没頭した1981年を懐かしく振り返る技術者たち。しかし、モーレツに邁進したばかりではない。「当時、仕事をやっていて楽しかった。それは誰もやっていないことに取り組んでいたから。新しいことにチャレンジすることほど楽しいものはありません」と彼らは口を揃える。「世界初」に挑戦するダイナミックさ、面白さに満ちあふれる開発環境が、そこには確かにあったのだ。

変革への情熱は2020年代に継承され、技術者の志は連鎖する

80年代の開発メンバーが意欲を燃やした「世界初」のダイナミズムは、2020年の開発陣にも脈々とつながっている。大容量のコンプレッサーを効率よく駆動する技術「デュアル・ステート・インバーター」は、オープン巻線モーターに2つのインバーターを組み合わせて小型化と高出力化を実現。先述の通り、2020年度の省エネ大賞の最高賞となる経済産業大臣賞を受賞した。

志を受け継ぐ技術者が、世界初の空調機を実現

志を受け継ぐ技術者が、世界初の空調機を実現

「スーパーマルチuシリーズ」の量産開発を手がけた東芝キヤリアの石田氏は「このシステムで『世界初』を取りにいく。これがチーム全員に共通した思いでした」と、原理検証および制御技術を開発した東芝 生産技術センターの柴山氏は「空調分野では他社が取り組んでいないシステム。かなり難易度は高い……だからこそ楽しそう、という思いがありました」と、開発の道のりを振り返る。

 

1980。東芝のパワーエレクトロニクス技術はコンパクトで強力なインバーターを誕生させ、空調分野において快適性、そしてエネルギー効率の大幅な向上を実現した。この革新によって、インバーターエアコンは今や世界中に普及している。そして、2020年。そのパワーエレクトロニクス技術は東芝キヤリアへと引き継がれ、「高効率」「高信頼性」を実現する空調システムとして進化してきた。

 

そして、開発はサイバー空間を視野に入れ、さらに加速する。東芝キヤリアの富士事業所には、新技術棟「e-THIRD(イーサード)」が竣工。ここではオフィススペースを環境試験室に見立て、実環境下で省エネ性を検証する実証型ラボとしての機能も持つ。空調機単独の性能改善、向上だけではない。外部機器との連携、接続によってオフィスや工場などの快適性、省エネ性をさらに高めていく――CPS(Cyber-Physical Systems)の技術が磨かれていく社会実装のためのスペースだ。

新技術棟e-THIRD

新技術棟e-THIRD

「インバーター」をキーワードに、IEEEで評価された世界初のインバーターエアコン、そして省エネ大賞を受賞したビル用マルチ空調システムを貫く熱き志、変革への情熱が見えた。1980年の開発陣の思いは「芝浦ルームクーラ」が発売された1935年を源流とするものであり、2020年の開発陣の思いも2021年、2022年、さらにその先へ――着実に受け継がれていくのである。

 

※本取材・撮影は、感染対策を実施の上で実施しました。

 

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