ヨーロッパ初の大規模水素ハブを目指すロッテルダム港

2021/07/21 Zero Hedge

ヨーロッパ初の大規模水素ハブを目指すロッテルダム港

グリーン水素経済は港から始まる

水素は生成時に炭素を排出しないため、将来の「水素経済」における多くの事業領域で活用されるだろう。高いエネルギー強度を持つ水素は、炭素排出量の低減が困難な運輸や工業のセクターで、炭素排出量を削減する燃料の基盤となり得る。エネルギーを長期的かつ季節ごとに貯留できるという水素の類まれな性質は、再生可能エネルギーという非継続的なエネルギー源に依存している電力システムにおいて、欠くことのできないエネルギーになるはずだ。

 

水素市場を維持するためのスケールメリットは、まだ整っていない。とはいえ、専門家の間では、重工業、運輸、パイプラインが集まるところに、スケールメリットが構築されるだろうとの見方で意見が一致しつつある。炭素を含まない水素経済が、完全な形となって最初に出来上がるのは、工業港になる可能性が高い。

 

Atlantic Council Global Energy Center(大西洋評議会グローバル・エネルギー・センター)が最近発表した政策概要で、アメリカにある水素生産の集積地に焦点を当てており、最初に低炭素水素経済圏が勃興しそうな地域として、ロサンゼルス港およびテキサス州のメキシコ湾沿岸地域を挙げている。

 

同様に、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は最近の報告書「Green Hydrogen Cost Reduction, Scaling Up Electrolysers(グリーン水素のコスト削減、電解槽のスケールアップ)」の中で、グリーン水素生産の普及に必要な規模の経済を実現する鍵となる場所は、工業集積地だろうと断言している。

オランダのロッテルダムで水素利用が拡大

その中でも、オランダのロッテルダム港はこの動きをけん引する存在だ。欧州連合(EU)の新たな水素戦略が追い風となり、同港は、ヨーロッパの「水素ハブ」となるため、そしてグリーン水素生産で世界の最先端を行くセンターの1つとなるための最初の大きな一歩を踏み出している。

オランダのロッテルダム港

 

ロッテルダムはすでに、エネルギー輸入・生産の主要なハブだ。ロッテルダム港には、100以上の工業企業がひしめき、大きな石油精製・石油化学の集積地にもなっている。ここには、石油、石炭、天然ガス、バイオマス、蒸気、熱などのエネルギー事業がある。また、相当な規模の風力エネルギーや太陽光エネルギーの資源も有する。ロッテルダム港は、船舶やパイプラインを使って北西ヨーロッパ、とりわけドイツにエネルギーを輸送するエネルギーの主要中継点なのだ。

 

豊富なエネルギーが流れるこのセンターは、無炭素または低炭素の水素を使った、完全な水素バリューチェーンを構築するための素晴らしい環境となるはずだ。2021年3月上旬に多くの工業企業がスポンサーとなってオンラインで開催された第2回World Hydrogen Summit(世界水素サミット)でも、これが主な話題になっていた。このサミットは、ロンドンを拠点にするSustainable Energy Council(持続可能エネルギー協議会)が、ロッテルダム港およびロッテルダム市と協力して主催した。

 

水素は私たちにとって、次のステップであり、新しいゲーム・チェンジャーだ」――ロッテルダム市長のAhmed Aboutaleb氏はサミットで、このように述べた。

Aboutaleb氏がここで言及しているのは、「ブルー」水素の生産のことで、枯渇した海洋ガス田でのCO2貯留インフラに、ロッテルダム港が投資していると説明していた。同氏はまた、輸入した再生可能電力を含む再生可能資源からの電力を使って作られるグリーン水素にも言及し、ロッテルダムではいずれブルー水素から置き換えられると話した。

 

私たちは、持続可能で循環型の都市経済へと向かっている」とAboutaleb氏という。

ロッテルダム港湾公社(Port of Rotterdam Authority)の社長兼最高経営責任者(CEO)のAllard Castelein氏は同サミットで、ロッテルダム港のエネルギー・燃料システムは、今後30年で完全に見直される予定だと語った。水素の循環システムを実現するために、港湾地域を通る形で「水素バックボーン」(基幹パイプライン)が構築される予定だ。

 

この作業には、新しいバリューチェーンに向けた新たなインフラが必要となる。現在の計画では、生産(ブルーおよびグリーン)、パイプライン・インフラ、輸入、貯留、輸送、取引プラットフォームが含まれており、工業、道路輸送、内陸水運などの分野の企業など、複数の利用者が想定されている。

 

こうすることで、2030年までに大規模なグリーン水素生産の実現を目指している」と同氏は説明した。

ロッテルダム港は現在、法令や助成金については政府と、またシステムについては各企業連合と連携して、官民のパートナーシップを模索している。

 

ロッテルダム港は、電力や水を一元管理する電解槽のためのビジネスパークを開発中だ。参画企業にはShellやBPが含まれており、2024年までの稼働開始を目指す。また一方では、電解槽開発について、Uniper社と共にフィジビリティスタディ(実現可能性調査)を実施中だ。2025年までに500MW以上、2030年までに2GW以上の容量を持つ電解槽の登場を見込んでいる。

 

ロッテルダム近くの北海は、グリーン水素とブルー水素生産の主要な財産になる。電解槽は、北海の風力発電所に直接繋げられる予定で、洋上風力発電の増強計画も進行中だ。ブルー水素の生産には製油所のガスや天然ガスが使われる予定で、炭素(二酸化炭素等)の捕集と貯留は北海の海底下で行われる。

 

Castelein氏の説明によると、グリーン水素とブルー水素の両方をうまく活用し、まずはブルー水素で化学製品や製鉄の製造コストを削減する。ロッテルダム港は最終的に、2050年までにブルー水素を完全にグリーン水素に置き換えたいとしている。2050年までには、2,000万トンの水素を生産・活用し、3分の1はオランダ国内で使い、残りはドイツなどに輸出すると予測している。ほとんどは、北西ヨーロッパの化学工業や鉄鋼業向けとなる予定だ。

 

これらすべての実現に向けて、新しい革新的な輸送インフラが計画されている。ロッテルダム港は近々、同港地域を通って生産者、輸入ターミナル、利用者をつなぐ「オープンアクセス」パイプラインの最終的な投資判断を下す予定だ。現在は、水素の輸入やドイツへの輸送に向けた取引プラットフォーム「水素市場(hydrogen exchange)」の設立準備中だ。ライン川での内陸水運やトラックのための燃料など、水素を直接、輸送セクターに展開するプロジェクトが複数あり、Air Liquide社は2025年までに水素トラック1,000台の保有を目指している。

 

このようにしっかりとした水素経済には、地元の再生可能な資源から生産できるよりもはるかに多くのグリーン水素が必要となる。エネルギー輸入が必須となるのは明らかだ。

 

北海の規模では、水素市場をしっかり支えるのに十分な風力を賄えない」とCastelein氏は述べた。

同氏は、2030年以降には相当量の水素が輸入されると予測する。ロッテルダム港は、ポルトガル、モロッコ、アイスランド、オマーン、ウルグアイ、オーストラリアなど、再生可能エネルギーの将来性が高く、海の資源を活用しやすい国と連絡を取り合っているところだ。

 

こうした新たなエネルギーの流れには、新しいインフラが必要であり、ロッテルダム港は、ドイツなどの短距離にはパイプラインを検討中だ。しかしCastelein氏は、石油やガスの長距離輸送のように、海を渡る船舶輸送が水素の解決策になるだろうと確信している。

 

「たとえ海運業が持続可能な燃料にさらに切り替えをしたとしても、輸送費が致命的な問題になることはない」とCastelein氏は話す。

同氏はさらに、水素の場合、輸送費は全経費(再生可能発電、電気分解、電解作用、貯留、輸送、回収など)の5~10%に過ぎないため、輸送費が最重要な要素にはならないと指摘する。同氏によれば、ヨーロッパ内であれば輸送費は5%以下になる可能性もあるという。調査では、アンモニアが水素の長距離輸送の解決策となる可能性が示されたと同氏は加えた。

 

ロッテルダムは、未来に向けた水素の「循環型経済」を構築する試みが何を意味するかの全体像を、相互補強を目指す複数のイニシアチブと共に示している。広範なイニシアチブには、(グリーン水素およびブルー水素の)生産、インフラ、輸入促進、輸入ターミナルの開設、水素市場の開設、複数の業界での適用に関する現在進行中の作業などが含まれる。

 

インスピレーションが湧く時代だと思う」とCastelein氏は話す。

まもなく輸入開始

ロッテルダム港を通過するエネルギーの流れは現在、EU全体のエネルギー需要の13%相当であり、そのほとんどは、燃料や石油化学製品向けの原油の形だ。前述の世界水素サミットのGCC(湾岸協力会議)において、オランダ大使館が主催したセッションで講演したロッテルダム港のプログラム・マネージャーのMartijn Coopman氏によると、このエネルギーの流れは大きく変わると予測されている。

 

ロッテルダム港の工業での水素需要は現在年間50万トン近くに上り、2030年までには120万トンに増加すると予測されており、その後も急速な増加が見込まれている。ブルー水素は地元で生産される予定だが、ロッテルダム港はブルー水素を移行期の燃料としてのみ展開すると公約しており、2050年までに段階的にグリーン水素に置き換えていく予定だ。

 

ドイツ、オランダ、ベルギーや、EUのその他地域でグリーン水素の需要が高まる中、ロッテルダム港を通る水素の流れは、2050年までに2,000万トンに増える可能性がある。同港の試算によると、これを再生可能エネルギーで賄うには、200GWの風力発電能力が必要となる。オランダは現在、北海のうち同国の領海内にある風力エネルギーから1GWを受け取っており、2050年までに60GWに増加するとみられている。つまり、ロッテルダムを通過するグリーン水素のほとんどは、輸入で賄う必要がある。

 

ロッテルダム港は輸出業者の候補と覚書や共同経営契約を結ぶところだ。Coopman氏によると、興味深いパートナーとして、オマーンのソハール港がある。オマーン沿岸に位置し2004年から開発中のソハール港は、実は、ロッテルダム港湾公社とオマーン・スルタン国との合弁事業なのだ。

 

最近発表されたプロジェクトでは、電気分解により太陽光発電から水素を作り出す予定で、ソハール港にある企業が使用するためのオンサイト型の水素貯留設備も備える。控え目な第一弾のプロジェクトではあるが、ソハール港は、水素生産のさらなる開発に向けて、オンサイト型の太陽光発電開発の野心的な計画を立てている。オマーンは、グリーン水素燃料の純輸出国になる可能性を秘めていると広く考えられている。

 

Qamar Energy社のCEOであるRobin Mills氏は同じセッションで、2024年竣工をめどとした、3GW規模の風力および太陽光発電施設の建設、入札、研究フェーズのデータを示した。同氏は、この地域の太陽光と風力の複合資源として最適な場所として、サウジアラビア北西部とオマーン南部を挙げた。

 

現在開発中の、この地域最大の2大グリーン水素プロジェクトが、サウジアラビア北西部の産業都市NEOMとオマーンのドゥクムにある、太陽光および風力が潤沢な地域で展開されているのは偶然ではない、とMills氏は話す。「Hyport Duqm」プロジェクトでは、地元企業向けとして、さらに将来的にはヨーロッパへの輸出向けとして使用するグリーン水素生産のために、最大500MWの電解槽を施設内に作る予定だ。

 

この記事はBlockchain NewsのZero Hedgeが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comにお願い致します。

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