東芝の二次電池が切り開くサステナブルな海上輸送の未来(後編)

2021/08/27 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • ニュージーランドのオークランド港初となる、電動タグボートが間もなく始動!
  • サステナブルな未来に向かう、海運セクター変革の最前線に迫る
  • 強い信頼関係で結ばれた、3社が織りなすグローバルなチームワークとは?
東芝の二次電池が切り開くサステナブルな海上輸送の未来(後編)

前編では、世界的な脱炭素化に向けた動きに応えようとする海運業界の一つの取組みとして、船舶の電動化が進んでおり、それに一役買っているのが東芝のリチウムイオン二次電池SCiB™であることを紹介した。今回、オランダの老舗造船メーカーであるDamen Shipyards社、スウェーデンの海運ゼロ・エミッション電力システムのパイオニアであるEchandia Marine社と東芝の3社がタッグを組み、ニュージーランドのオークランド港における初の完全電動タグボートの導入を支援することとなった。後編では、DamenとEchandiaへのインタビューを通じて、海運業界のよりよい未来を志向しながら取り組む3社の熱意と強い信頼関係で結ばれたグローバルなチームワークの姿を紹介したい。

オークランド港のゼロ・エミッション化を支援

ニュージーランドのオークランド港は、毎年約100万TEU(標準20フィートコンテナ換算個数)の輸出入物資を取り扱う。同港は2040年までにゼロ・エミッションを達成することを目指しているが、オペレーションの規模を考えると簡単な目標ではない。そこで、これを達成するためにDamenに声をかけ、同港初となる電動タグボート、その名も「スパーキー」の開発を依頼した。

 

曳航力70トンの世界初の完全電動タグボート、「スパーキー」の完成イメージ

曳航力70トンの世界初の完全電動タグボート、「スパーキー」の完成イメージ

すでにEchandiaや東芝と関係を構築し、過去のプロジェクトで成功を収めていたDamenにとって、オークランド港の要望を受けて再び両社とパートナーシップを組むことに躊躇はなかった。DamenのリサーチエンジニアであるSyb ten Cate Hoedemaker氏はこう説明する。

 

「私たちには、Echandiaと東芝が提供するLTO(チタン酸リチウム)二次電池システムに対する完全な信頼がありました。そしてこのシステムが、安全性、耐久性、効率性に優れ、サステナブルな方法で動力を供給できるという点において、顧客の高い期待に応えられることも分かっていました。この信頼感は、類まれな製品品質だけに由来するものではありません。彼らの提供するサポートにも、それに劣らない価値があります。これは正真正銘の対等なパートナーシップであり、Echandiaと東芝のチームは、私たちにとって自社チームの延長線上にいるような感覚です。どのようなビジネスでも人間関係は重要ですが、今の私たちのように、新技術のパイオニアとなって業界に真の変革を牽引しようとするときには、その価値は何倍にもなると言えます。パートナーがこのような目的を共有していることが分かっているので、私たちは十分な自信と信頼感を得ています」

 

Damen ShipyardsのサプライチェーンマネジャーのJohan Reurink氏と、リサーチエンジニアE&AのSyb ten Cate Hoedemaker氏

Damen ShipyardsのサプライチェーンマネジャーのJohan Reurink氏と、リサーチエンジニアE&AのSyb ten Cate Hoedemaker氏

このタグボートは現在Damenのベトナムの造船所で製造中であり、間もなくニュージーランドまで航行して、運航を開始する予定である。この製造過程はそう容易なものではない。今回のケースでは、定期的なコミュニケーションを伴う本当の意味でのグローバルなオペレーションが求められる。起点は、研究開発に重点的に取り組み続けるEchandiaの開発エンジニアチーム、その後、通常の場合には、電池そのものは、同社のストックホルム本社で組み立てた後、船の製造現場に送られる。

 

同プロジェクトの場合は、EchandiaとDamenのコラボレーションのもと、電池の組み立て、接続、試運転、テストといった諸々の作業がベトナムで実施される。ただでさえ複雑なプロセスであるのに、新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックの影響で、さらに難航する可能性があった。しかし、VRヘッドセットを活用するなどの革新的な方法を用いたり、ビデオ会議システムを駆使しながら、今プロセスは滞りなく進んでいる。 

 

Echandiaの創業者兼CEOMagnus Eriksson氏は次のように説明する。「Damen、東芝、当社の協調的な努力によって、高い品質のシステムが完成しました。特に初期投資額で比較した場合、もっと安価な選択肢もあるかもしれませんが、総保有コスト(TCO)の視点で見ると、私たちの成果物ははるかに大きな価値を提供します。スパーキーの第一の目的は、もちろんオークランド港が炭素排出量を削減できるようにすることです。しかし東芝の極めて高い製造品質が実現するスパーキーの本源的な生涯価値の大きさが、当プロジェクトの重要な差別化要素になっています」

Echandiaの創業者兼CEO、Magnus Eriksson氏

 

Echandiaの創業者兼CEO、Magnus Eriksson氏

「そして製品の価値という域にとどまらず、東芝と当社の間の信頼関係や親密さが、私たちのパートナーシップの成功を支えています。私たちは、毎日のように東芝チームと連絡を取っています。彼らのサポート体制はいつも万全で、大きなものから小さなものまで、どんな要求にでも応えてくれるのです」

 

このタグボートの運行開始後の耐用年数は25年で、ディーゼル排出物を年間465トン削減できる見込みである。さらにEchandiaと東芝は、リアルタイムのパフォーマンスモニタリングと、不測の事態が起こった場合の継続的なサポートと保守という形でDamenの支援を続ける。オークランド港は、環境目標を達成するための努力の一環として電動タグボートの追加を視野に入れており、将来的には「スパーキー」の仲間が増える可能性もある。

将来に向けたフォーカス

海運業の本格的な電動化という未来を見据えれば、東芝、Echandia、Damenの長期的な関係――EchandiaとDamenはすでに既存の信頼関係に基づく独占的パートナーシップに合意している――は、まだ始まったばかりの段階だ。オークランド港のプロジェクトは世界的にみれば小さな一歩かもしれないが、年間約9億4,000万トンの二酸化炭素を排出する海運業にとっては意義のある一歩である。そしてこの3社にとっては、これから続く多くの努力の先駆けとなるものである。

 

Eriksson氏はこう続ける。「スパーキーが運航を開始し、このプロジェクトが将来的にオークランド港の保有電動ボートの拡充を支える可能性があることは、非常に楽しみです。しかしそれだけでなく、私たちはもっと先の目標を立てています。製品ポートフォリオの拡大と強化を目指して、研究開発の視点から、これまで以上に東芝との連携を深めているのです。サステナブルな未来に向かう海運セクターの変化の最前線にいるのは刺激的なことです。私たちは、これを実現させるための将来のプロジェクトで東芝、Damenと協力することを楽しみにしています」

 

Damen Shipyards社

Echandia Marine社

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