パンデミック後のAIが誘引する「加速の時代」とは?

2021/09/07 Edelman and Gary Grossman

パンデミック後のAIが誘引する「加速の時代」とは?

NYタイムズの記事「IBM Watsonはどうなったのか?」にあるように、人工知能(AI)が期待通りの成果をあげるにはまだ多くの課題がある。それでも全体としては、AIとその開発に関わる企業にとって、AIの採用や投資する企業が増えるというとても恵まれた年だった。Alphabet社のCEO Sundar Pichai氏は、最近BBCが収録したポッドキャストで、「(AIは)非常に奥の深い技術であると考えています。火や電気、インターネットに匹敵するが、さらに奥深いものだと思っています。」と述べた。

 

その影響は広範囲に及んで、半導体設計からソフトウェア開発、ナレーション音声農業流通音楽制作、さらには古典的な彫刻に至るまで、多くの産業や分野でAIが採用されるにつれて、より顕著になってきている。いずれの場合も、AIは人間の活動を拡張し、場合によっては代替しながら、最終製品の開発を劇的に加速化している。生物学では、たった1つのタンパク質の構造を特定するのに何年にも及ぶ実験を必要とするが、ワシントン大学(University of Washington)が一般公開した新たなAIを使えば、わずか10分で可能となる。
彫刻の例では、ABB Robotics社が開発した産業用ロボットABB2で製作した「アモルの接吻で蘇るプシュケ(Psyche Revived by Cupid’s Kiss)」のレプリカは、18世紀の彫刻家カノーヴァ(Antonio Canova)のオリジナルが約5年かかったのに対し、わずか11日強で完成できた。また、新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)によるパンデミックの影響で、2020年は様々な産業分野でロボットの需要が急増した。

AIは成果の達成を加速する

Googleは、総合科学ジャーナル「Nature」に掲載された最新の論文で、人間よりも速くコンピューターチップを設計する強化学習型ディープニューラルネットワークを開発した方法を紹介しており、はるかに速いと述べている。この論文では、エンジニアが数ヶ月かかるはずのチップ設計を、新たなAIソフトウェアを用いて6時間もかからずに完了させたとしている。CNBCが報じているように、GoogleはAIでチップを設計し、そのチップを駆使して更に精緻なAIシステムを構築し、イノベーションの好循環を通じて、既に飛躍的に向上しているパフォーマンスを更に加速させた。

 

AIを用いて半導体チップの開発を加速させているのは、Googleに限らない。チップ設計会社のSynopsys社は2021年7月、これまで設計チーム全体で数か月かけて取り組んでいた課題に対して、1人のエンジニアがわずか数週間で優れた成果を上げることができることを実証した。これらは、最近のトップ記事で取り上げられた例のごく一部だ。大手半導体メーカーや半導体ツールメーカーはどこも、AIの何らかの面に関わっている。

 

コンピューティングの進歩と同時に、アプリケーションを実行するソフトウェアも同様の変革を遂げている。GPT-3(正式名称はGenerative Pre-Trained Transformer 3)はOpenAIによって開発された言語モデルで、テキストプロンプトから理路整然とした文章を生成できることが実証された。GPT-3はその目的のために設計されたが、コンピュータコードを含む他の形式のテキストも生成できることがわかった。

 

Economist誌の記事によると、GmailやOutlookが電子メールの文章を完成させる方法を提案するように、あるいはWordがテキスト処理の方法を提案するように、AIに基づいた新しいソフトウェア開発ツールは、文脈に応じたコードをインライン展開で提案できるということだ。
GPT-3を採用した商用システムの場合、発注書の作成などの作業を行うための完全なコードモジュールを明示することが可能になる。これにより、ソフトウェアの開発期間が短縮されるだけでなく、あるユーザーによると「認知的負担(ユーザーが望むものを手に入れるために自らしなくてはならない決断や行動)」が軽減されるという。提示された選択肢の中から選ぶ方が、オリジナルのコードを開発するよりも簡単になるからだ。これは、ライブラリからコードをインポートする昔のプログラミング手法に似ているが、今ではプログラマーはライブラリについて何も知る必要がなく、プロセスのほとんどは自動化されている。

 

このような新世代のソフトウェア開発ツールの一つが、OpenAIとGitHubが共同で開発したAI搭載のプログラミングツール「Copilot」であり、人間のプログラマー向けの拡張機能として位置づけられている。このツールは、GPT-3をベースにプログラミング作業用に微調整されたCodexを用いている。新たなシステムは、似たような問題を処理するために他のプログラマーが以前に書いた内容に基づいて、GitHubの登録情報からコードブロックを提示する。

 

このツール(および類似のツール)が進化することでエンジニアやプログラマーに取って代わるのではないかという懸念もあるが、そのような展開はまだ先のことだと大方の見方は一致している。それでも、このようなツールは開発プロセスを、場合によっては劇的に短縮することは間違いない。

生産性ブームに備える

AIによる自動化が影響を及ぼし始めている。パネルディスカッションでは、Accenture社の応用インテリジェンス担当グローバルリーダーであるSanjeev Vohra氏は、企業がAI、アナリティクス、機械学習などのテクノロジーを利用する方向に「大規模なシフト」をしていて、収益と効率性が向上していると解説した。スタンフォード大学のErik Brynjolfsson教授は、このシフトが生産性ブームにつながるとしている。同教授は、AIは特定のアプリケーションでは既に人と同等かそれ以上の能力を発揮しており、企業がこのテクノロジーを業務プロセスに組み込むことに重点を置けば、その生産性はすぐに加速するだろうと述べている。

 

これらの事例や傾向から、パンデミックによる景気後退から抜け出すのと同時に、AIが上昇モードに入っていると考えられる。そして、景気後退から抜け出すために省力化テクノロジーを取り入れることは、多くの企業にとって標準的なビジネスの進め方となる。しかし今回は、労働力不足と賃金上昇が重なっていることで自動化の必要性が特に差し迫ったものとなっている。成熟した省力化テクノロジーの浸透によって、この1年半の間に、企業がより少ない人員でより多くのことを実行できるようになった。

 

これまで、AIは雇用に大きな影響を与えてはいなかった。しかし、Vohra氏とBrynjolfsson教授が正しければ、その状況は変わり始めている。このタイミングは、PwCコンサルティングによる研究では2030年代までの間に起こる自動化に関する3つの波、すなわち「アルゴリズムの波」「オーグメンテーション(拡張)の波」「オートノミー(自律)の波」と重なっており、それぞれが雇用に及ぼす影響の度合いが異なると示唆している。PwCのレポートによると、アルゴリズムの波による自動化が進むリスクが高い職種は、2020年代前半ではわずか3%程度だが、オーグメンテーションの波によって2020年代後半には20%近く、2030年代半ばには30%程度にまで上昇するとしている。

 

COVID‑19のパンデミックにより、恐ろしいロボットによる黙示録が急に始まったのだろうか。当然のことながら、AIによる自動化で仕事がなくなることは懸念される。とはいえ、テクノロジーの進歩に抗うことは成功しそうにない。特に、容赦ない競争圧力が更なる自動化をもたらすことは避けられない。Broadcom社のLaureen Knudsen氏によれば、「今後も考えうる限りの多くの仕事や組織の一部が自動化されるのは間違いない」とのことである。また最近の調査では、オフィスワーカーの68%が実際に日常業務で更なるAI支援を望んでいるという結果が出ていることからわかるように、AIに対する考え方が変わる可能性もある。

 

ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校のNoah Smith助教授(金融学)が論説で主張しているように、AIへの懸念を払拭し、さらなるテクノロジーの進歩を可能にする最善の方法は、公共政策の領域にあると考えられる。具体的には、国民健康保険や就職支援、所得の均等などにおいての必要性を挙げている。明らかに、AIの導入とそれに伴って自動化が加速されることで、公共政策の意思決定者にはより大きな圧力がかかる。私たちは皆、時代に適応することを学ばなければならない。Kennedy大統領が1963年にフランクフルトの聖パウロ教会のアッセンブリーホールで行った演説で述べたように、「変化は人生の法則です。そして、過去や現在だけを見ている人は、確実に未来を見逃すことになります」。

 

Gary Grossmanは、Edelmanテクノロジープラクティス担当シニアバイスプレジデントであり、エデルマンAIセンター・オブ・エクセレンス(the Edelman AI Center of Excellenceのグローバルリーダ―でもある。

 

この記事はVentureBeatのEdelman社とGary Grossmanが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comにお願い致します。

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