私たちはAIの介入を無意識に受け入れている

2021/11/25 Edelman and Gary Grossman

私たちはAIの介入を無意識に受け入れている

Toshiba Clip編集部からのコメント

AIにできること、任せられることが増えていることを、誰もが実感し始めています。「自分の仕事がAIに取って代わられることについて」少なからず恐怖を抱いている方も多いでしょう。しかし、本当にAIは労働者の立場を揺るがすだけの恐怖の存在なのでしょうか。最先端のAI研究から見る見通しから、AI時代に生きる私たちはどう考えればいいのか、一つの視点になると思います。

 

New York Timesに掲載された記事では、CodexなどのAIを利用したソフトウェア開発者向けの新しい自動化ツールによって仕事がなくなることはなく、こうしたツールはプログラマーの生産性を高める歓迎すべき支援ツールになると結論付けている。この結論は、人とAIにはそれぞれ異なる強みがあり、それぞれに適した役割がある、という私たちが最近よく耳にするテーマだ。

 

Harvard Business Reviewの記事で説明されている通り、「AIベースの機械は高速で、より正確で、一貫して合理的だが、直感や感情に乏しく、文化的要素を敏感に感知することもない」。言わんとすることは、「AI+人間」はケンタウロスのようなものであり、どちらかが単独で動作するよりも優れているということである。

 

「AI+人間」がより良い成果を生み出すというこの考えは、テクノロジーへの信頼を高める一因となりつつある。AIが人間の能力を解放して高レベルの機能を実行できるようになる…といった話はそこかしこで聞かれるが、その高レベルの機能とはそもそもどのようなものなのか、そうした機能が実際の作業にどのようにつながるのか、またはその機能を実行するために必要な人数については、誰も知らないだろう。

 

労働力への影響について語られる際には、AIが仕事に介入することよって人間がより高レベルの抽象的思考を追求できるようになるだけでなく、一部の人たちの意見ではあるものの、社会全体が引き上げられて生活水準がさらに高くなるだろう…と当然のように結論付けられる。これは確かに楽観的なビジョンであり、こうした将来を期待してもいいだろう。しかし、これは思い込みが染み込んだ筋書きである可能性もあり、この筋書きにおける最終局面は作業の完全な自動化である。

検証結果が私たちに語ること

誤解を恐れずに言うのだが、AIは私たちの仕事を引き受けるのではなく、仕事を助けるものとなるという見解を裏付ける検証結果がある。例えば、AIラボのDeepMindは新たなチェスシステムを設計しているが、このシステムでは2つの知能が人間と対戦するのではなく、人間と協力して機能する。

 

さらに、Oracle of AIことKai-fu Lee(李開復)氏もこの展望に賛成している。同氏は著書AI 2041: Ten Visions for our Future』の中で、棚の整理やデータ処理といった反復的なタスクは機械が行うようになり、従業員はより創造的なタスクに集中できるようになると主張している。Forrester Researchも同様に、AIが導入されることで人々はクリエイティブなスキルをさらに有効活用できるようになると明示している。

 

しかし当然のことながら、クリエイティビティは人によって差異がある。つまり、AIが仕事に入り込むことで受ける恩恵の程度は人によって異なる。このことは逆に、AIが作業能力に影響を与えたとしても、AIによる自動化が既存の所得格差をさらに広げる可能性があるという懸念を強めることとなる。

 

AIが将来労働力に影響することで問題となっているのが、AIは私たちがやりたくない反復的な仕事だけを引き受けるということである。しかし、AIに請け負わせる作業のすべてが定型的だったり退屈だったりするわけではない。

 

これを最も端的に示すのが、半導体チップアーキテクトという任務だ。半導体チップアーキテクトは洗練された専門的職業であり、おそらく最も複雑な産業の1つである電気工学を高度に応用する。仮にAIの影響を受けないと考えられる仕事があるとすれば、この職業が真っ先に挙がるだろう。しかし(とりわけ強化学習ニューラルネットワークソフトウェアを使用した)GoogleやSynopsysの最近の進歩により、エンジニアのチームが完了するまでに通常は数か月かかることを数時間で実行できることが明らかになっている。

 

本音を語るテクノロジー研究家ですら、アルゴリズムが「設計プロセスにおける時間のかかる部分を最適化し加速するため、設計者はより高レベルの意思決定を必要とする重要な要求に注力できるようになる」と主張している。

より完全な自動化を目指す途上

AIの仕事への介入に対する見方はテクノロジーの現在の状態を反映したものであり、将来オートメーションがはるかに高度になる時点での正確な見方と同じだとは、おそらく言えない。例えば、ニューラルネットワークに最初に可能性を見出したのは約10年前のことだが、この技術が消費者やビジネスに実用的な利点をもたらすレベルまで発展するまでには数年かかった。パンデミックも火付け役となり、AI技術は現在広く利用されている。ロボットマッサージ師が深部組織マッサージを提供できるようになった現在、この技術の動向にはマッサージ療法士でさえ注視せざるを得ない。それでも、こうした事例はまだAIの初期段階にすぎない。


AiTreatEMMA(人工知能を使用してマッサージを行うロボット)出典: CNN

AIは、ハードウェアでもソフトウェアでも改良が施され日々進歩している。ハードウェアでは、ほぼ同等の性能と電力効率の向上をもたらすトランジスターの数を、半導体が約2年ごとに約2倍向上させる(性能と同様にコンピューティングのコストを削減する)というアイデアであるムーアの法則によって進展している。この原理は、この数十年にわたってエレクトロニクス分野のあらゆる進歩において信憑性が高いとされてきた。IEEE Spectrumの記事でもこう述べられている。「ムーアの法則が現代の生活に与えてきた影響を誇張することはできない。飛行機に乗るときも、電話をかけるときも、食洗機のスイッチ入れるときも、この法則の影響に出くわす。この法則がなければ、ヒッグス粒子の発見やインターネットの構築は不可能だっただろうもっというと、ハンドバッグやポケットにスーパーコンピューターを入れることもできなかっただろう」

 

コンピューティングにおいてムーアの法則が改良を進める時代は終わりに近づいていると考える根拠はある。しかし、「チップレット」や3Dチップパッケージングといった高度なエンジニアリングは、少なくとももうしばらく発展を続けることは確実である。これらの技術やその他の半導体設計の向上により、あるチップメーカーでは2025年までに1000倍の性能向上を約束しているのだ。

 

AIソフトウェアにおいても同様に目を見張るような改良が期待されているといえる。OpenAIのGenerative Pre-trained Transformerの3回目のアジャイル開発であるGPT-3は、1,750億個のパラメーターで構成されるニューラルネットワークモデルだ。このシステムは、1個のテキストの並びから筋の通った散文を生成できることが証明されている。このシステムは元々散文の生成を行う目的で設計されたものだが、コンピューターコードを含む他の形式のテキストも生成でき、さらには画像も生成できることがわかっている。AIは人々のクリエイティビティを高めるのに役立つと考えられているが、もっと言うとAIはすでにそれ自体でクリエイティビティを発揮できるのかもしれない。

 

2020年5月の発表当時、GPT-3は最大のニューラルネットワークであり、中国のWu Dao 2.0に抜かれたものの、今なお最大級の高密度ニューラルネットである。(1.75兆個のパラメーターを持つWu Dao 2.0はGPTに似た別の言語モデルであり、おそらくこれまでに構築された中で最も強力なニューラルネットワークである)

GPT-4も同様の成長を遂げて最大1兆個のパラメーターが含まれることを期待する声もある。しかし、OpenAIのCEOであるSam Altman氏の発言によると、GPT-3よりも大きくなることはないが、データアルゴリズムを強化して微調整することによって、はるかに効率的になると言う。Altman氏はまた、将来的にGPT-5も誕生すると示唆している。重要なのは、ニューラルネットワークにおけるサイズと精巧さの追求にはまだ長い道のりがあるということだ。私たちがAIアクセラレーション時代の真っ只中にいることは確実だ。

 

Martin Ford氏は著書Rule of the Robots: How Artificial Intelligence Will Transform Everything』の中で次のように記している。「現在、ほぼすべてのテクノロジースタートアップ企業が多かれ少なかれAIに投資しており、規模を問わず他の業界の企業もAIテクノロジーの導入を始めている資本がAI開発に注ぎ込まれ続ける限り、イノベーションのペースは加速していく一方だろう。確かに、AIが仕事を引き受けるのではなく仕事に役立つという考え方を含め、AIを活用した自動化の方法に私たちが現在見出しているあらゆることが、これから出現するあらゆることの初期段階にすぎない。今後どのようなことが出現するかは、現実離れした推測の域を出ない。

 

Burn In: A Novel of the Real Robotic Revolution』には、会社が法務スタッフの80%を機械学習ソフトウェアに置き換えたことによって影響を受けたスタッフの1人に、エール大学卒の弁護士がいるという話が出てくる。こうしたことは近い将来に起こる可能性がある。残った20%は確かにAIによって仕事の能率が上がったが、80%は他の仕事を見つけなければならない。この弁護士の場合、裕福な人のオンラインパーソナルアシスタントという単発の仕事をすることになる。現在、スタートアップ企業のYohanaは、このビジョンを様々な形で実現させる取り組みをしている。同社は初期の頃から人間とAIのサービスを融合させたビジネスを展開しているが、まずは生きている人間のアシスタントがデータを利用して加入者のto-doリストを扱う。このアシスタントは昔の秘書のようであるが、AIを利用するようになれば、コグニティブワーカー(AIスタッフ)その座を奪われることになるのは明白だ。

 

大部分がAIによって自動化された世界へ移行するまでには、おそらく数十年かかるだろう。この移行により多くの変化がもたらされ、中には非常に破壊的な変化も起こるだろう。調整も簡単ではない。最終的にこれが人間の生活の質を豊かにするだろうと考えずにはいられない。結局のところ、アリストテレスが言ったように、「織機が自分たちで織るとき、人間の奴隷制は終わる」のだ。しかし、AIが仕事に介入するという概念を現在明示されているような形で受け入れると、失業の潜在的なリスクが見えなくなるだろう。テクノロジーの社会的および政治的影響を研究している学者であるKate Crawford氏は、AIは現代における最も奥深い物語であり、「多くの人々が夢遊状態でAIを受け入れている」と、確信を持って述べている。

 

私たちは皆、破壊的な変化の可能性が高まっていることを明確に理解し、次の時代に必要となると思われるスキルを習得するなどして、できる限り備えておかなければならない。企業はスキルトレーニングを提供する必要があり、テクノロジーの変化が加速していくにつれて、再トレーニングは今後ますます、ほぼ継続的に進行させていく必要があるだろう。政府は、例えば最低所得保障などの社会的セーフティネットの拡大に備えながらも、自動化を推進する市場の力がすべての人に良い結果をもたらすような公共政策を策定するべきである。

 

Gary GrossmanEdelmanのテクノロジープラクティス担当シニアバイスプレジデントであり、Edelman AI Center of Excellenceのグローバルリーダーである。

 

 

この記事はVentureBeatのEdelmanおよびGary Grossmanが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comにお願い致します。

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