1円玉サイズのブロックで、“誰もが” “簡単に”IoTを使いこなす ~IoT民主化を目指すプラットフォーム「Leafony」誕生

2022/04/18 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • IoTブロックを組み立てて、モノのデータを生かしきる!?
  • 小さなIoTブロックに込められた、膨大な技術力!
  • IoTの民主化で世界の課題解決を目指し、より良い未来を拓く
1円玉サイズのブロックで、“誰もが” “簡単に”IoTを使いこなす ~IoT民主化を目指すプラットフォーム「Leafony」誕生

外出先からアプリで自宅のエアコンを操作して、帰宅したら快適な室温になっている──。家電などの「モノ」がインターネットにつながることで様々なことが可能になり、私たちの生活は豊かになっている。これはInternet of Things(IoT:モノのインターネット)と呼ばれ、今後、モノのデータを取る各種センサーが行き渡れば、IoT活用の幅はさらに広がるだろう。

 

しかし、私たちがIoTを“自ら”“気軽に”活用して新しいことを始めるにはまだ程遠く、「それは大学や企業がすること」というのが実態だった。この状況を乗り越え、“誰もが”“簡単に”IoTを使いこなせる「IoTの民主化」を本気で目指すプラットフォームがある。その名を「Leafony(リーフォニー)」と言い、東京大学が提唱し、東芝などの企業とチームを組んで開発された。この記事では、「みんなで創る」を指針にした共創チームに迫る。

IoTブロックを組み立てて、モノのデータを生かしきる!? 

2020年時点で、世界で動くIoT端末は約500億個と推定されており、日々増殖しています。その数は、2030年に1兆個にも及ぶという試算もあります。農業、医療など活用される場面も多様で、そこで求められるIoT端末は小型で軽量、電源コードを必要としないものであり、さらに、それを制御するアプリも必要です」

 

東京大学 名誉教授/トリリオンノード研究会代表 桜井 貴康氏

東京大学 名誉教授/トリリオンノード研究会代表 桜井 貴康氏

こう語るのは、東京大学の桜井名誉教授。IoT端末が到達する1兆個とは、「100万種類×100万個」という組み合わせだ。つまり、求められる端末は「多品種×少量生産」でも「少品種×大量生産」でもない、「多品種×大量生産」なのだ。また、このように幾何級数的に増えていくIoT端末をコントロールするアプリも必要だ。ここまで開発効率の向上が大きなテーマになる取り組みも珍しいだろう。

 

この開発に挑んだのが、東京大学と、東芝、(株)SUSUBOX、ディー・クルー・テクノロジーズ(株)、(株)図研といった企業の組み合わせ。2016年に、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業として、IoT機器を簡単に製作できるオープンプラットフォーム「トリリオンノード・エンジン」の開発プロジェクトが始まった。そして2019年、社会実装に向けて、1つひとつのIoTブロック(端末)の仕様などを策定した「Leafony」が世に送り出された。これは名前の通り、兆単位(トリリオン)の世界の結び目(ノード)を生かすブロックだ。

 

2cm四方(1円玉大)のIoTブロック(端末)を重ね合わせて構成されるLeafony

2cm四方(1円玉大)のIoTブロック(端末)を重ね合わせて構成されるLeafony

Leafonyの特徴は「超小型で簡単に組み立てられる」「IoTブロック自体を容易に製作できる」「ボタン型電池で動く」「ハードウェアもソフトウェアも無償公開されている」こと。IoTブロック1つの大きさは2cm四方で、1円玉とほぼ同じ。それぞれがセンサー、通信、マイク、電池など独立した機能が備わった電子基板であり、ブロックで遊ぶように組み合わせることで求める機能を持った独自のIoT機器を作成できる。たとえば、郵便受けに届く荷物にLeafonyのセンサーを反応させ、Leafonyの通信機能を使って自分のスマートフォンに知らせてもらえば、必要な時だけそこに出向けばいい。

 

まさに“誰もが”“簡単に”IoT機器を開発でき、解決したい課題に合わせてIoTブロックの新しい組み合わせを発見することで、次々と生活に役立つ価値が生まれる。しかし、それは同時に「誰が触っても壊れにくく、安定して動作する」ものでなければ、私たちは安心して使えず、社会に広がり、浸透することもない。この課題を乗り越えるために、どんな技術や工夫が込められているのか。取り組みに携わった東芝デバイス&ストレージの阿川謙一氏に、IoTブロックに込められた技術を教えてもらおう。

 

パチパチと、ブロックで遊ぶようにIoT機器が作れてしまう

パチパチと、ブロックで遊ぶようにIoT機器が作れてしまう

小さなIoTブロックに込められた、膨大な技術力

「IoTブロックを自由に組み立てられるのは、接続部分に電気を通す特殊な『導電性ゴム』を用いているからです。従来の接続部品はサイズが大きいのでIoT機器を小型化できず、利用する場面が限定されてしまいます。さらに、ハンダ付けが必要なので専用の工具も必要でした。ところが、『導電性のゴム』と東京大学の考案したホルダーを使えば、手でパチッとはめるだけで簡単にIoTブロックの組み立てや組み換えが可能になり、接続部を小さくできます。この小型化は、東京大学を中心とした産学協同の成果です」(阿川氏)

 

東芝デバイス&ストレージ株式会社 デバイス&ストレージ研究開発センター 阿川 謙一氏*

東芝デバイス&ストレージ株式会社 デバイス&ストレージ研究開発センター 阿川 謙一氏

この導電性ゴムは、高い温度と湿度環境の試験において、接続時の安定性と信頼性を検証している。そして、東芝が評価した技術は導電性ゴムだけではない。手で簡単に組み立てられるということは、十分な強度が必要ということでもある。組み立てと分解を200回以上繰り返しても、電子基板の抵抗値は変化しない。まさに、どのような使われ方にも耐える実用的なものだ。研究開発プロジェクト「トリリオンノード・エンジン」では、これを実現するために、東芝が蓄積した技術をもとに60種以上のコネクターの案を提供し、検証を重ねて最終化させていった。

 

東芝デバイス&ストレージ株式会社 デバイス&ストレージ研究開発センター 阿川 謙一氏*

導電性ゴム(左側)と、ホルダー、スペーサー、ナット(右側)により、ブロックのように組み立てられる

「Leafonyのチームが作成したIoTブロックに対して、これまでクレームが寄せられていません。落下試験や衝撃試験など様々な試験を徹底的に実施し、実用に耐えうることを確認してきたからです。私が東京大学 桜井研究室の森時彦さんと話し合い、注力したのが氷点下の極低温から灼熱の高温のサイクルを繰り返す温度サイクル試験です。ゴムは温度によって伸縮するため、この試験で接続の安定性を十分にチェックしました。

 

また、試験では東芝グループの実験設備を活用して、半導体の品質分析の知見を生かしました。大学は構想、アイデアを得意としており、東芝などの企業側はデータ解析のスキルがあります。この小さなIoTブロックには、東京大学の電子機器研究、超低消費電力の設計技術や、東芝が培ってきたHDD (ハードディスクドライブ)の実装技術、システムLSI設計における信号接続技術、IoT機器設計技術など、様々な技術と知見が詰め込まれています」(阿川氏)

 

現在、東芝グループでも、この小さなIoTブロックを研究開発に活用する事例が増えてきている。その背景として、LSI設計技術に強みを持つ東芝は、ユーザーに製品を良く知ってもらい、使ってもらうことが重要だと考えている。Leafonyを使えばLSI製品のデモシステムを容易に構築できるので、製品が受け入れられることが期待できる。このようなビジネスツールの研究開発にもつながるのだ。

IoT民主化のプラットフォーム ――世界の課題解決を目指して

Leafonyは、オープンソースのIoTアプリプラットフォームとして確立し、世界に伝播し始めている。仕様書、回路図、パターン図、応用例、ソフトウェアなどすべてオープンであり、無償で使用でき、また1つからでも個人で購入ができる。さらに、数万本のソフトウェアを無料でダウンロードできるArudinoと互換性があり、ソフトウェアの開発のハードルは低い。教育機関ではIoTブロックを使った教育や研究が進み、企業ではIoTブロックを使った新しいサービスが考えられ、実証実験が進む。個人が独自のアプリを自作する動きも活発だ。冒頭に触れた、“誰もが”“簡単に”IoTを使いこなせる「IoTの民主化」を目指すLeafonyは、すでにその世界を実現する入口に立った。

 

東京大学と東芝がトリリオンノード・エンジンのプロジェクトに提供した技術は、電子部品技術に関する国際学会「2021 IEEE Electronic Components and Technology Conference(ECTC 2021)」に採択され、公共の場での発表と論文掲載の機会を得た。アメリカの有力企業、アジアの巨大製造会社、ヨーロッパの研究機関など世界のIoT専門家という外部からの高い評価は、IoTプラットフォームの普及、実装の追い風となった。阿川氏は、この取り組みでの産学連携のメリットを次のように語る。

 

東京大学や他企業と研究や製作の実ワークを共有することで、私たちの技術力を見直すことができました。CADツールや技術者教育に強みを持つ企業や、技術力を磨き続けるスタートアップとの交流、意見交換が大きな刺激になっています。

 

また、一体感のあるチーム規模や体制にもメリットがあります。プロジェクト全体の計画や研究意義の洞察などにも関わることができ、IoTユーザーが求めるニーズと研究開発との関連性を把握しやすかったですね。桜井名誉教授が音頭を取り、多様な企業を巻き込んでプロジェクトの研究開発の議論を進めてきました。この取り組みへの参画は、東芝の技術と人材の基盤を押し上げていくでしょう」(阿川氏)

※Computer Aided Designツール、コンピューターによる設計支援ツール

 

温度サイクル試験の実験装置にサンプルを設置している森氏(東京大学 桜井研究室)と阿川氏

温度サイクル試験の実験装置にサンプルを設置している森氏(東京大学 桜井研究室)と阿川氏

特定の領域に閉じこもった研究開発では俯瞰した視点を持ちにくく、研究者や技術者も幅広いスキル、知見を伸ばせない。企業、大学の長所を確認し合い、大所高所からIoTブロックの社会実装を俯瞰することに大きな意義があるだろう。

 

「6年以上、IoTの民主化を見すえて東芝と走り続けてきました。そこで感じたのは、メーカーとしての総合力と信頼性です。1つのチームとして意見交換しながら進める中で、実用性に耐えられるものにする重要な技術や知見を提供いただき、取り組みが加速しました。Leafonyは、ハード、ソフトの両面で磨き上げなければならない総合技術です。高度かつ広範な実績がある東芝なくして完遂はなかったでしょう」(桜井名誉教授)

 

共創チームを走らせたのは、人と、そして地球の明日をより良いものにしたいという思いだ。少子高齢化で浮き彫りになった労働人口の減少、エネルギー問題の解決や国土の強靭化――課題先進国と言われる日本でLeafonyを開発し、実装を進めたことには大きな意義がある。専門的な知識を持った技術者でなくとも、IoT機器を容易に製作できる。そんなプラットフォームとしてLeafonyへの期待は大きい。

 

「プログラミング教育が大切なのは言うまでもありません。しかし、ものづくりを磨いてきた日本は、リアルな組み立て、実装で課題を解決するのがお家芸。多くの企業、研究機関がつながれば、日本だけではなく世界にも、さらにより良い未来が拓けてくるでしょう。みんなでIoTを開拓する。それがLeafonyの志です」(桜井名誉教授)

 

Leafonyの志を説く桜井名誉教授

Leafonyの志を説く桜井名誉教授
  • トリリオンノード研究会はこちら
  • Leafonyの技術資料はこちら
  • 東芝デバイス&ストレージ テクニカルレビュー『Novel Connector Mechanism Using Anisotropic Conductive Rubber for Trillion-Node Engine as an IoT Edge Platform』(2022年3月) はこちら
  • 東芝デバイス&ストレージ テクニカルレビュー 『IoT エッジプラットフォーム”トリリオンノード・エンジン”プロジェクト』(2019年5月) はこちら

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