ソフトウェア・ディファインドで、信頼のハードを生かす【前編】 ~価値のつくり方を再定義し、製品づくりを変革する!

2022/11/08 Toshiba Corporation

この記事の要点は...

  • 東芝が取り入れる「ソフトウェア・ディファインド」とは?
  • CEOが見据える、経営戦略における2つの課題とは?
  • 信頼のハードが実現するソフトウェア・ディファインド!
ソフトウェア・ディファインドで、信頼のハードを生かす【前編】 ~価値のつくり方を再定義し、製品づくりを変革する!

時価総額が1兆ドルを超え、自動車業界でトップを走るテスラ。ハードとしての自動車の信頼性はもちろんだが、スマートフォンのように自動車が備えるソフトを更新でき、新機能の追加や、航続距離などの性能向上が可能になる。このようにハードとソフトの価値が継続的に向上する時代において、「ソフトウェア・ディファインド(Software Defined)」という考え方が再び注目を浴びているのは、ご存じだろうか?

 

東芝もこの構想のもと、これまでの動きを加速する。そこでは、約150年の製造業で培ったハードの技術、50年以上のAI開発などのソフトの技術が生かされる。このとき、CEOを務める島田氏は、こうした変革に向け2つの超える壁があると語る。2つの課題とは何を指すのか。そしてどのように乗り越えていくのか、ソフト開発の責任者とともに真相に迫る。

 

 

「ソフトウェア・ディファインド(Software Defined)」は、ハードの機能をソフトで実現する考え方だが、そこまで新しい概念ではない。もともとは、インターネットのネットワークをどう適切に接続するかが重視された頃、普及した考え方だ。

 

ではなぜ今注目されているのか、簡単に説明しよう。ネットワークが複雑化すると、いかに効率よく管理するかに関心が向かう。そして、テスラの例のようにソフトがハードを管理するようになると、次なるビジョンが語られるようになる。そこで登場したのが、ソフトウェア・ディファインドだ。これは、実現したい価値や目的に対し、ソフトの柔軟性やハードの信頼性などの特性を最大限生かすために、機能分担を見直して将来に備えるコンセプトだ。この考えに基づいてソフトウェア・ディファインド化されると、多様なアプリがつながり新しい付加価値を生むことが可能となる。

 

近年、ソフトウェア・ディファインドが取り沙汰される背景には、この概念によって実現する価値が拡がり、新たな取り組みが出てきたからだ。自動車業界では早くからこの潮流が見られ、マイクロソフトを始めとする先進企業でも開発が進む。例えば「ソフトウェア・ディファインド・ビークル」と呼ばれる概念では、ハード(自動車)の価値は、走る、止まる、曲がるだけではなくなる。走行データの収集や、機能のアップデートなどをソフトが実現し、付加価値を与えるサービスはアプリで──。このような展開を視野に入れた、壮大で巨大な市場を見越した構想が生まれつつある。

 

東芝におけるソフトウェア・ディファインドの概念図

東芝におけるソフトウェア・ディファインドの概念図

ソフトウェア・ディファインドは、製品づくりに変革を起こす!

東芝が担う、エネルギーなどの社会インフラも例外ではない。前述のように、この構想を実現させるためには信頼のおけるハードが必須になる。こうした時代のニーズに対して、東芝は創業から培ってきた製造業のノウハウ、業界内でも随一の高い品質で応える。すぐにでも行動に移して、業界をリード……とはいかない、東芝が見据える課題がある。

 

「社会は変化し続けます。その変化を瞬時に取り入れて組織を変革し、社会にコミットできる製品・サービスをどう作り続けるのか。これが、今我々が考えるべきことだと感じています」

 

こう危機感を募らせるのは、東芝でソフトウェア技術センターを率いる所長、小林良岳氏だ。再び続ける。

 

株式会社 東芝 ソフトウェア技術センター 所長 小林 良岳氏

株式会社 東芝 ソフトウェア技術センター 所長 小林 良岳氏

「ソフトウェア・ディファインドで価値を生むのに、製品(ハード)の『どこは厳密さ、信頼性、高品質を重視するか』、『どの部分は柔軟性を持たせて、ソフトで社会に価値を生み出すか』、さらに『価値につながるデータはどう収集するか』という設計が必要になります。

 

『ハードとしての信頼性・品質』と『ソフトに乗るサービス』

 

これらが顧客の受け取る価値なので、ソフトウェア・ディファインドとして、全体像を描くことが求められます。つまり、『価値のつくり方を再定義する』と言えます。だからこそ、『このデータを取って、この機能を更新する』といったソフトやアプリを踏まえたハードの設計、製造など、今までとは違うあり方が求められています」(小林氏)

ハードの高い信頼性あってこそのソフトウェア・ディファインド

東芝の「バーチャルパワープラント(VPP:仮想発電所)」を例として、社会インフラでのソフトウェア・ディファインドを考えてみよう。VPPでは、太陽光発電、風力発電をはじめとする再生可能エネルギー(再エネ)などの「電源」、蓄電池などの「ストレージ」をIoT機器によって遠隔制御して、1つの発電所のように機能させる。そして、エネルギー需要家の状況もデータで把握することで、需要と供給を整える。

 

カーボンニュートラルの実現には再エネの導入拡大が必要だが、その発電量は日照時間など天候に左右される。再エネの安定供給という「価値」を実現するには、発電量を予測し、需要に合わせて供給し、不足した時と余った時にストレージから出し入れする必要がある。このとき、安定稼働を前提に、ソフトの制御をうけて柔軟に運用されるハードが前提になる。その上で、データをやり取りするIoT技術、電力需要量・発電量を正確に予測するAI技術、ストレージ電力を出し入れする制御技術が必要だ。これらが揃うことで、再エネを安定供給できる。すなわち、ソフトウェア・ディファインドで考えることで、従来の電力インフラに付加価値が生まれるのだ。これを実現する上で絶対に譲れないのは、「ハードに対する高い信頼」を提供し続けることだと小林氏は語る。

 

ソフトウェア・ディファインドで付加価値を生むバーチャルパワープラント

ソフトウェア・ディファインドで付加価値を生むバーチャルパワープラント

「どんなにソフトがバーチャルに運用や管理をしても、作用する基盤はハードです。ハードがあるから各種のデータが生まれますし、私たちの生活も成り立ちます。つまり、ソフトやアプリは、ハードの価値を最大化するために存在すると言えます。

 

ハードは東芝の強みであり、約150年の実績と顧客との信頼関係があります。いいハードを持っているので、様々なデータを取れれば、それをソフトで料理・加工して外に出せます。しかし、新しいハードを生み出しても、その活用法が変わらなければ世の中の拡張性が途切れてしまいます。そこでハードの進化に合わせて周りのソフトやアプリも進化させ、社会を進化させるという考え方が重要になります」(小林氏)

東芝が向き合う「2つの課題」にどう対応するのか?

ソフトウェア・ディファインドで変革を進める東芝。その経営戦略について、CEOの島田氏は、2022年6月2日の説明会で2つの課題に言及した。デジタル社会の進展を受け、社会インフラを担う企業として社会貢献するため、乗り越えるべき壁。つまり、「内部硬直性」と「外部硬直性」だ。

 

株式会社 東芝 代表執行役社長 CEO 島田 太郎氏

株式会社 東芝 代表執行役社長 CEO 島田 太郎氏

「東芝のベンチャースピリットは、次々と新しい領域に挑戦し、数多くの成功を生んできました。だが、成功した事業の中には、縦割りで改善活動を推進する場合も出てきました。事業を始めた時には事業単位が正しくても、デジタル化、サービス化する時代には合わないこともあります。これを『内部硬直性』と呼んでいます。

 

もう1つ、東芝の魅力は社会にまだない技術を開発できることです。東芝発の世界初は多く存在します。多くのことができると自社でやろうとしがちですが、現代はエコシステムの時代。自社技術のみで事業を進めるよりも、エコシステムを活用して早期に立ち上げることで、大きな価値を提供できます。これを『外部硬直性』と呼び、打破したいと思っています」(島田氏)

 

東芝が向き合う2つの課題

東芝が向き合う2つの課題

オープン・ソースが、硬直性の打破に貢献!

ここで再び、小林氏に登場していただこう。東芝が2つの硬直性を打破するために、ソフトウェア技術センターは何ができるだろうか?詳細については【後編】にて詳述するが、大きな方向性を次のように答えてくれた。

 

「製品開発が縦割りになると、ソフトはハードの中に一体として組み込まれ、システムとして提供されます。まず、このソフトとハードを分離することが大事です。これにより様々なアプリを追加でき、新たなサービスを生み出せます。

 

このとき大切になるのが、『誰でもソフトを改良できる』オープン・ソースやオープン化の考え方です。つまり、オープンな場で多くのエンジニアが共同でソフトを開発することで、いくつかのハードに共通の課題を解いたり、ソフトのバグを修正したりできます。社内でも社外でも必然的に協力関係が生まれ、硬直性を破れます。

 

同じソフトに様々なハードやアプリがつながればサービスは大幅に拡大し、指数関数的な成長や、大きな価値が生まれます。硬直性の打破、さらなる価値提供に向け、ソフトウェア技術センターは社内外でのオープン・ソース活用を進めています」(小林氏)

 

誰でもソフトを改良できるオープン・ソースによるソフト開発が、硬直性を打破する

誰でもソフトを改良できるオープン・ソースによるソフト開発が、硬直性を打破する

 

ソフトとハードの分離、オープン・ソースの活用──。賢明な読者は既にお気づきかもしれないが、これはソフトウェア・ディファインドを促進する重要要素だ。つまり、オープン・ソースやオープン化の推進が、製品や事業部それぞれでハードと一体のソフトやアプリを開発せず、複数のハードで利用できることにつながる。このとき「ソフトに集まるデータをどう料理するか」が大事になるが、そこには東芝以外のハードから収集したデータも含まれるという。

 

開発速度も向上し、ソフトの柔軟性や効率性も追求できる。結果、経営戦略の課題である硬直性を打破し、ソフトウェア・ディファインドも加速することになる。【後編】では、オープン・ソースを推進してソフトウェア・ディファインドを加速し、データの力を生かすために、小林氏たちソフトウェア技術センターがどのような戦略を描いているのか、具体的な手法も含めて解明していく。

 

関連サイト

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