ビジネスをデザインするために、人と地球を中心としたサービスデザインが未来を紡ぐ!

2023/05/15 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 技術が急速に発展し、不確実性も増す時代、サービスデザインが注目される!?
  • 東芝が、日独の大学生と共創プロジェクトを進め、デザイン手法を研究!
  • 人と地球を中心に設計した製品、サービスこそ、持続可能な未来を創る!
ビジネスをデザインするために、人と地球を中心としたサービスデザインが未来を紡ぐ!

今、技術が加速度的に発展し、社会や経営といった環境は複雑さを増す一方だ。こうした中で、製品やサービスの高機能化、多機能化だけで抜きん出ることはできず、人と地球が持続可能な未来を描くことも難しい。社会に選ばれる製品、サービスは、どのような課題を解決すべきなのか。いや、課題はそもそも何か――「問いを見つけること」が必要なのではないか。ここで「サービスデザイン」という方法が注目されている。

 

製品やサービスを通して企業と顧客が関わる中で「包括的」に「共創」し、新たな価値を生み出していく。この過程そのものがサービスデザインである。このサービスデザインについて、東芝は、千葉大学、ケルン応用科学大学と産学共同プロジェクトに取り組んだ。推進したのは、東芝で共創活動を加速させるCPSxデザイン部の緒方啓史氏、小川晃志氏。ここに、TOSHIBA EUROPE GmbH(取材時)の櫻井勇志氏が、ドイツに駐在する物流機器の海外営業という立場から支援。プロジェクトから若者の自由な発想、未来を思い描く視座を獲得した。

いま、共創によるサービスデザインが求められている

製造業は、以前からデザインを重視し、製品の高機能化、洗練化を進めてきた。当然のことながら、意匠やユーザーインタフェースだけでなく、ユーザー体験に対する配慮も欠かせない。さらに、多様化する社会の課題解決法として「デザイン思考」「システム思考」が登場し、近年になって注目を集めているのが「サービスデザイン」だ。

 

緒方氏、小川氏は、東芝のデザイナーとしてサービスデザインに携わってきた。だがサービスデザインの定義を問うと、「国際学会の権威でも、その質問にすっきりした回答を返すのは難しいもしれません」という答えが、緒方氏から返ってきた。

 

株式会社 東芝 CPSxデザイン部 デザイン開発部 共創推進担当 エキスパート 緒方 啓史氏

株式会社 東芝 CPSxデザイン部 デザイン開発部 共創推進担当 エキスパート 緒方 啓史氏

「サービスデザインを明確に定義するため、他の手法との差異を見ていくと却って理解できなくなります。サービスデザインは、実践の立場で、より包括的に、そして学問領域を横断して学際的に取り組むものです。つまり、学問体系にこだわらずデザイン思考や人間工学などの多様な知見をはじめ、手が届くすべての方法を検討し、最善の製品、サービスを送り出すことに寄与する。それがサービスデザインです」(緒方氏)

 

製品やサービスがしっかり機能し、利用者が満足するためには、企業の視点で「使ってもらう」意識では立ち行かない。利用者の視点を大切にしながら開発されるべきだ。その思想を原点として製造業だけでなく、あらゆる産業でサービスデザインの深掘り、実践が進む。そこには幅広く共創を目指すという思いがある。

 

東芝は、共創センター『Creative Circuit®という『場』を創ると同時に、共創のための手法を開発しています。事業開発やDXなどを推進するには、様々な分野、部署の連携が求められます。サービスデザインでは、デザイン思考やシステム思考など幅広い領域の知見を活用するので、その手法は多様です。だからこそ共創が加速するだけでなく、応用が利きやすいのです」(緒方氏)

 

東芝の共創センター「Creative Circuit®」

東芝の共創センター「Creative Circuit®

ドイツ、日本の大学生と共創し「未来の物流」を思い描く

今後の製造業、そして持続可能な社会を思い描く上で、サービスデザインは重要な方法だと分かった。また、社会を生き、活動するすべての人にとって身近になり得る概念だ。

 

製品デザインだけでなく、顧客対応なども含めたサービスの事業全体をデザインするという発想で考え、改善を進めていく必要があります。それには、デザイナーだけでなく、すべての関係者がサービスデザインの基本的な考え方を共有し、同じ感覚で事業に臨む。例えるなら、サービスデザインの『土地勘』を持つ、ということです」(緒方氏)

 

こうした考えで始まったのが、東芝が、ドイツのケルン応用科学大学(以下、KISD)、千葉大学と進める産学共同研究だ。2017年よりサービスデザインの共同研究が進む。

 

株式会社 東芝 CPSxデザイン部 デザイン開発部 共創推進担当 小川 晃志氏

株式会社 東芝 CPSxデザイン部 デザイン開発部 共創推進担当 小川 晃志氏

共同研究の目的は3つあります。まず一つ目が世界で初めてサービスデザインの学位を取得されたBirgit Mager教授が教鞭を取るKISDと、サービスデザインを長年研究してきた千葉大学の知見を吸収し、ビジネスで実践できるデザイン手法を開発することです。二つ目は東芝がお客様とグローバルで価値を創造するために、新たな学びを得ることです。そして三つ目が学生を支援し、将来を担う人材の育成に貢献することです」(小川氏)

 

Birgit Mager教授の紹介

Birgit Mager教授の紹介

緒方氏、小川氏というデザイナーの取り組みに、ドイツに駐在する櫻井氏の支援を得て、KISD、千葉大学との円滑な連携が進んだ。焦点は「未来洞察を行う手法の創出」であり、具体的なテーマは「物流/郵便の未来」である。このテーマに合致する事業に携わる人材として、櫻井氏に白羽の矢が立ったわけだ。

 

TOSHIBA EUROPE GmbH スペシャリスト 櫻井 勇志氏 ※取材時の所属

TOSHIBA EUROPE GmbH スペシャリスト 櫻井 勇志氏 ※取材時の所属

「コロナ禍で、物流量は世界的に増加の一途です。物流現場では、届け先ごとの荷物の仕分け作業における自動化のニーズが増えています。そこで重視されているのが、サステナビリティを意識すること。特に、人と地球が持続可能であることへの配慮が求められ、多くの企業が取り組み、様々なスタートアップも生まれています。この意識は欧州の物流・郵便業界で大変強く、ドイツと日本の学生の視点は将来を洞察する上で刺激になるのでは、という期待がありました」(櫻井氏)

 

学生は、欧州開催の物流展示会の視察や、企業の取材を進め、最前線を把握。その後、ワークショップで分析し、未来の物流/郵便を「未来洞察」としてまとめた。情報収集を経て、拡散的に発想を膨らませ、ビジョンとして収束する。こうした活動の中にイノベーションの萌芽がある、これがデザイン思考とも共通した、東芝版のサービスデザインの手法であるカスタマーバリューデザイン®だ。

 

カスタマーバリューデザイン® プロセス(プロジェクトではビジョン共有のプロセスを踏んだ)

カスタマーバリューデザイン® プロセス(プロジェクトではビジョン共有のプロセスを踏んだ)

「私たちは、事業として物流の最先端を常に考えています。すると、どうしても高度に自動化が進み、利便性も向上した未来を想像するわけです。ただ、学生たちの発想は、そうした前提を軽々と飛び越えます。たとえば、何らかの理由で世界が荒廃し、人々が分断されたとしたら、という着眼には唸らされました。

 

インフラが寸断された中でコミュニティがつながり、物資を流通させるならどんな手段があるのか? この視点、展開は私たちにはないものです。近未来の想像を膨らませ、東芝の技術をそこでどのように生かしていくのか。あらゆる選択肢を排除せず、私たちも考え続けていかなければなりません」(櫻井氏)

 

千葉大学大学院 融合理工学府 田中 美昴子氏

千葉大学大学院 融合理工学府 田中 美昴子氏

出身国が異なることで生まれる価値観の違いや、ワークショップを進めるスピードが速いことに大きな学びを得ました。物流/郵便という大きなテーマを多様な価値観で捉え、ありたい未来について発散と収束を素早く繰り返しながら検討したことにより、今までの自分には無かった新しい視点でビジョンを思い描くことができました。」(田中氏)

人と地球の明日をデザインしていくために

高揚感を交え、日独の大学生との共創プロジェクトを振り返るデザイナーの緒方氏、小川氏。若き志との交流から得た気づきを総括し、今後のサービスデザインのあり方を見つめていく。

 

「KISDの学生の約半数はベジタリアンで、学食ではベジタリアン向けの食事が必ず提供されています。また、祖父母の服をファッションに取り入れることが『かっこいい』と言う学生もいました。一方、サステナビリティを形だけ主張する『グリーンウォッシュ』への抵抗は根強い。息をするようにサステナビリティを考え、実践している学生の姿勢を知ることができたのはひとつの学びでした」(小川氏)

 

「デザイン手法について大きな発見がありました。学生はデジタルネイティブであり、たとえば友人の位置情報を見ながら『彼は今ここにいるから、ちょっと意見を聞いてみよう』と、プライバシーに関して私たちとは違った線引きをしていました。この世代が社会の主流になる中、製品やサービスも時代に即してデザインしていかなければなりません」(緒方氏)

 

事業部門からプロジェクトに伴走した櫻井氏は、サービスデザインに触れる中、SDGsや多様性をはじめ、ビジネスに欠かせない視点、発想の新しい視点が得られた、と語る。

 

「東芝も出展したフランクフルトでの郵便システムの展示会に、日独の学生が訪れてくださいました。その際、様々な単語が書かれたカードの中から、最も大事にする単語を選ぶよう依頼されました。私は考えた結果、『環境』『アクセシビリティ』を優先的に選び、最後に選んだのが『技術革新』でした。

 

東芝は、先進技術の企業として事業を進めています。この時、人と地球を中心に考えて価値を創るなら、最初に技術から発想する必要はないかもしれない。ついつい技術や製品に目が行きがちですが、人の明日、地球の明日をどう考えるか――サービスデザインではその前提が大事であり、その後に技術開発が来るのではないでしょうか」(櫻井氏)

 

地球視点で考え、デザインしていく。その先には、東芝の経営理念である『人と、地球の、明日のために。』が視野に入ってくる。激動の社会情勢に向き合いながら、私たちは求められる新しい価値を実装すべく進んでいく。そこには、ものづくり企業が真摯に手がける製品、サービスの未来がある。

 

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