理論上絶対に破られない! 光の粒子を使った暗号鍵とは?

2016/10/14 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 理論上絶対破られない暗号技術が実用化へ近づく
  • 2020年の実用化を目指す
  • 重要な個人情報の安全な運用が可能に
理論上絶対に破られない! 光の粒子を使った暗号鍵とは?

ネットワーク化された社会は、我々に大きな利便性を与えているが、一方で、相次ぐ個人情報の流出問題を見るにつけ、不安と隣り合わせであるのもまた事実。

 

そんな中、“絶対に破られない暗号”とまで表現され、長らく研究が進められてきた「量子暗号技術」に、いよいよ実用化の目処が見えてきた。この技術における配信速度で世界最高記録を保持する東芝では、2020年までの実用化を視野に入れているという。

 

この次世代型セキュリティ技術の導入は、我々の生活にどのような変化をもたらすのか。その最新事情に迫った。

量子暗号技術を用いた通信システム

量子暗号技術を用いた通信システム

量子の特性を応用し、完璧な秘匿性を実現

なぜこの量子暗号技術を用いれば、絶対に安全な通信が可能になるのか? そのロジックを簡単に説明すると、量子暗号技術では、暗号鍵を運ぶ際に単一の光子(光の粒子)を活用している点に理由がある。

 

光子は、第三者がアクセスを試みた瞬間にその符号を変形させる特性を持っている。これを生かし、不正な侵入を即座に察知、ユーザーへの警告を発することができる。盗聴された時点で盗聴を検出、暗号鍵を変更することができるので、理論上絶対に盗聴されないというわけだ。機密情報やパスワードなど、インターネットを介してさまざまな情報が飛び交うこの時代において、セキュリティ上、これほど重要な技術はない

量子暗号技術 安全な暗号鍵配信
量子暗号技術 安全な暗号鍵配信

この研究拠点は今年設立25周年を迎えた、イギリスの東芝欧州研究所ケンブリッジ研究所だ。開発の指揮を執るアンドリュー・シールズ氏によれば、具体的に量子暗号技術に取り組み始めたのは、2003年頃だという。

 

「データ通信のますますの増大により、今後いっそう情報セキュリティが重要視されるであろうことは、当時から予見されていました。そこで我々は、量子物理学を広く情報システムに応用することで、高速かつ安全な通信方法の確立を目指したのです」(シールズ氏)

 

2020年の実用化を目指して

これまでの東芝の成果と実績は、まさに近い将来の実用化を期待させるものだ。例えば、2010年に、50kmの光ファイバーを伝い毎秒1Mbitの暗号鍵配信を実現したことは、今なお破られていない世界最速記録。また、大手町・小金井間の既設光ファイバー(45km)を使って暗号鍵を共有する実験では、34日間の安定稼働を達成。これにより、世界最高の鍵配信量を記録している。

 

また同社は、医療分野を対象とした実証実験をスタートしている。究極の個人情報とも言えるゲノム解析データを、この量子暗号通信システムで、東芝ライフサイエンス解析センターから東北大学東北メディカル・メガバンク機構まで、7kmの距離を送信するものだ。2年間の長期運用における通信速度の安定性、天候や温度といった環境条件の影響度などが検証される。着々と実用化に邁進する量子暗号技術。東芝では2020年を目処に、金融取引、官公庁や医療分野への導入を視野に、さらなる研究開発を進めている。

 

「量子暗号はとくに、長期に渡ってブロックされるべきデータを守ることに長けています。たとえば、医療の現場においては今後、個人のゲノム配列といった重要な個人情報が管理されることになるでしょう。個人や会社のファイナンシャルデータなども同様です。我々の想定通りに実用化が果たされれば、ユーザーの皆さんは今まで以上に安心してネットワークやクラウドサービスを活用できるようになるはずです」(シールズ氏)

 

同研究所ではさらに、イギリスBTとの共同研究も展開中で、2014年にはBTの商用光ファイバーを使ってデータと暗号鍵を1本の光ファイバーで送信する実験にも成功している。

 

また、これとは別に東芝のシステムによる量子暗号通信のデモ展示が9月からアダストラルパーク内で開始される予定。具体的には、銀行の支店とデータセンターとの間で、量子暗号がどのように機密情報を運ぶのかを紹介する展示が予定されている。

 

遠い未来の技術と思われた”絶対に破られない”暗号技術は、今まさに実現の一歩手前にと迫っている。今後の展開に、ぜひご注目いただきたい。

※本研究の一部は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の委託研究「セキュアフォトニックネットワーク技術の研究開発」により得られたものです。

【プロフィール】
アンドリュー・シールズ氏
Andrew J.Shields,Ph.D.

東芝欧州研究所 ケンブリッジ研究所 量子情報グループリーダー、理学博士。
量子情報半導体デバイス、量子暗号通信の研究・開発に従事。

アンドリュー・シールズ氏 Andrew J.Shields,Ph.D.

 

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