東芝 技能の人 明日へのメッセージ

2017/05/24 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 研究者と製作現場をブリッジする技能者
  • 高精度な部品加工は機械と技能者の経験値の融合
  • 限られた世界にとどまらず、たくさんの知識・経験を吸収すべき
東芝 技能の人 明日へのメッセージ

不断の努力で腕を磨き、卓越したスキルを培ってきた技能者がいる。社内外で数多くの技能表彰を受けてきた生産技術センターの葉山憲二氏に登場いただき、生産活動を支えてきた高精度な技術の一端を聞いていこう。

生産技術センター メカトロソリューション推進部 製造課 技能主査 葉山憲二氏

生産技術センター メカトロソリューション推進部 製造課 技能主査 葉山憲二氏

研究者と製造現場をブリッジする――フレキシブルな技能者のあり方とは

葉山氏は、東芝グループのものづくりを支える生産技術センターに在籍。研究試験機や製品の試作品など「先行要素開発」、生産に必要な「製造ライン・設備開発」を担当するメカトロソリューション推進部製造課で腕をふるっている。

 

さっそく、葉山氏が注力する「研究部品加工」のフローを通し、技能の人のいまに迫ってみよう。ポジションは、研究者と製造現場の間。研究者の依頼を数値化、図面化して、製作の現場に具体化して落とし込むのが役割だ。

 

「研究者の要望をそのまま現場に落としても伝わりません。こういうものを作りたいというニーズやイメージを丁寧にくみ取り、寸法などに数値化したり、図面化したりして現場との間を取り持ちます。研究者というお客さまにとって最適なものを、ベストな状態で届ける。それが私たちの仕事なのです」

 

特殊放電ユニットを例にとって説明いただこう。これは半導体デバイスの製造に欠かせない主要設備の心臓部。半導体の超微細な集積回路の大量生産を可能にするためのキーパーツ。ユニットを構成している部品の加工精度がユニットの性能を左右する。ユニットの性能が安定しないと放電出力がぶれるため、最終製品の品質が不安定となり、生産性のダウンを招きかねない。部品の加工精度に高いレベルが要求される。

生産技術センター メカトロソリューション推進部 製造課 技能主査 葉山憲二氏

「部品の精度をどうやったら高められるか。どうやったらスピーディーに作れるか。製造工程を考え、現場にフィードバックしていきます。私たちがテストするような整った環境ではなく、実際の製造現場でフルに力を発揮できるよう、どうやってチューニングしていくかが課題ですね」

 

メカトロニクスがいかに発達しても、機械を使いこなすのは人間だ。振動、温度、湿度など、製造環境にはさまざまなファクターがある。葉山氏のような技能者が経験をフルに投入して初めて、加工機のポテンシャルを生かした精度が安定して出せるようになる。

 

要求精度、コスト、スピード。技能者にはさまざまな評価がある。「自分が満足するもの、そして研究者と現場が受け取って、満足できるものを納めたい」と葉山氏は静かに語った。作り手の満足とお客さまの満足が一致する――そこにこそ技能者が目指すべきゴールがある。

造船の街から東芝へ――「技能の人」ができるまで

匠としてうたわれる名技能者も、一介の新入社員だった過去がある。どのような視座、目標を持って技を磨いてきたのか。

 

葉山氏は長崎県で生まれ育った。自動車産業、精密機器関連産業の集積地としても知られる長崎だが、明治時代から世界トップクラスの評価を受けてきた造船業も名高い。

 

「子供の頃から木を削って工作をしたり、プラモデルを作ったりするのが大好きでしたね。機械いじりに憧れ、工業高校の機械科に入学しました。そこでは溶接、旋盤を学ぶ機会がありましたが、幼い頃から工作に没頭してきたからでしょうか。前のめりになって技術を習得していましたね」

 

1982年、東芝の堀川町工場に入社した葉山氏は、「東芝技能訓練生」として本格的な技の研鑽に入る。学んだのは旋盤、フライス盤など材料を切削する工作機械の扱いだ。ものづくりの基盤になる工作機械を集中的にマスターしたことが、メカトロニクスという現在の主業務に直結している。だが、葉山氏がキャリアのターニングポイントとして振り返るのは、「技能教育センター」への配属だ。時に入社14年目。指導員という立場になり、葉山氏のキャリアは新たなフェーズに入る。

生産技術センター メカトロソリューション推進部 製造課 技能主査 葉山憲二氏

「旋盤の指導員として後輩の育成を担当した3年間でした。それまでは目の前の金属を削ることに没頭していましたが、人を教えることに専念するのは初めてのことです。これまで先輩や同僚とは技術用語を駆使して阿吽の呼吸でやりとりできましたが、新入社員にそれでは通じません。何といっても、工業科だけではなく普通科、中には商業科出身の若手もいたんですから。技術、知識のレベルもバラバラなのに、指導過程を終える段階では横並びに持っていかなければならない。一体どうやって指導したらいいのか……頭を抱えたことを思い出します」

 

試行錯誤の末、葉山氏は「目」と「手」をフル活用する柔軟な指導スタイルに行き着いた。職人らしく緻密な観察眼で若手のバックボーンや属性、スキルの成長度合いをチェック。個々のレベルに合わせた教え方、メッセージを工夫する。そして、「手」。まずは指導者がやってみせることで、「要件から導き出される作業フロー」「一つ一つの作業の意味」を確認してもらうのだ。

 

「1から10まで手に手を取って逐一教えていくという意味ではありません。やってみせるのは、あくまで本人にうまくやらせてあげる、道筋を考えてもらうため。指導者は教えることで満足してはいけない。自身がやってみなければ成長につながらないんです。指導員の経験は、今の私の原点になっていますね」

 

「見て覚えろ」「技は盗め」といった昭和の職人的指導は過去のもの。個々のレベルを見極めながら、きめ細かく指導していく。そんな柔軟なスタイルこそ、現代の匠の姿なのかもしれない。

工場にこもっていては向上なし。外部の刺激を受け、自分を知ることが大切

2007年度「神奈川県優秀技能者」などの社外表彰をはじめ、東芝社内でも「社長賞(技能賞)」、さまざまな事業部が技能を競う「テクニカルコンテスト」の優秀賞など表彰実績は多数。

 

精度の高い部品を作ってきたこと、そして後進技能者の育成に貢献してきたこと。技能者・葉山氏はこの2ポイントで高く評価されている。近年は技能五輪の指導にも携わるなど、外への競技会に打って出る後進選手の指導員としても活躍してきた。

 

外部に出ることで自分たちの技術力、立ち位置が明確に分かることもあります。他社の高い技術力に触れるのもいい機会でしょう。ただ、受賞や表彰は喜ばしいことですが、それが目的になっては本末転倒です。

 

私は、技能五輪に出る選手には『失敗を恐れるな』といつも言ってきました。そこで得た知見、技術を得ていくプロセスでの学びが重要です。さらに、学びを次の現場でどう生かしていくのか。これが技能者として最も大事なことではないでしょうか」

 

クローズドな工場にこもって技能を研鑽することだけが技能者ではない。フラットなスタンスで、幅広く情報を吸収していくオープンな姿勢を重んじている。

 

「金型や工作機械に関する展示会、セミナーがあれば積極的に足を運びますし、ネットやメールを通して工具メーカーの情報配信もチェックしています。世の中の変化に敏感になり、自分たちに足りないところを知る。そうやって常にレベルアップしていくのが技能者だと思います」

 

技能を磨きながら、視野は広く。「東芝 技能の人」の意識、目線は、あくまで「ソト」に向けられていた。

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