モノづくり現場の「技」の伝承 若きホープと匠の絆

2017/12/20 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 若手技能者が技能レベルを競う「技能五輪全国大会」が開催された
  • 「俺の背中を見て学べ」は通用しない? 「技能」継承の難しさと課題
  • 若手技能者が見据える、モノづくりの未来とは?
モノづくり現場の「技」の伝承 若きホープと匠の絆

日本経済をけん引してきたモノづくり産業。日本のモノづくりを支えてきた「柱」の一つは、高い品質と信頼性を確保してきた製造現場の高い「技能」だ。特に長期間の使用と耐久性が求められる重電分野において、技能のレベルは製品の品質を大きく左右する。

 

しかし、今、モノづくりの現場を取り巻く環境は激しく変化している。経済のグローバル化に伴う生産拠点の海外移転によって、国内のモノづくり人材の不足が大きな問題として顕在化。さらに、少子高齢化によって、生産年齢人口も減少の一途をたどっている。豊富なノウハウを有する熟練技能者の「技」を、いかに若い世代に継承していくかが、モノづくりの現場では喫緊の課題なのだ。

モノづくりの現場の様子

2017年11月に技能五輪全国大会が開催された。これは、23歳以下の青年技能者が技能レベルの日本一を競う、年に一度の大会。「電気溶接」や「機械組立て」などの金属・機械系、「ウェブデザイン」などの情報通信系から、「フラワー装飾」、「洋菓子」などのサービス・ファッション系など、幅広い職種にわたって競技が行われる。

 

技能五輪全国大会に出場する選手と指導員の間では、どのように技能継承が行われているのか。今年度の大会に東芝から出場する代表選手の一人、江頭雄大選手と、彼の指導員で、東芝の技能五輪統括指導員を務める東芝総合人材開発(株)の三重(みしげ)修二氏に話を聞いた。

「技能」伝承と「技術」伝承はどう違う?

江頭選手が出場したのは、工作機械の代表格といわれる「旋盤」を使った種目。
「『旋盤』という種目は、高速で回転する鉄製の丸棒に刃物を押し当て、鉄の不要な部分を薄く削り取り、形状が複雑できれいなものを作っていく競技です。リンゴの皮むきをイメージしていただくと分かりやすいかもしれません」(江頭選手)

旋盤

旋盤は機械加工で最もよく使われる工作機械の一つ。技能者の技術によって、円柱型の金属材料が、美しい光沢のある高精度の部品に生まれ変わるところがこの競技の魅力である。一つの鉄の塊から、多種多様な形状が加工でき、技能を磨けば0.01mm以下の精密加工も実現できるという。弱冠20歳、入社3年目の江頭選手が見せる作業のスピードと繊細さは、見ている者を圧倒するほど。

 

こうした場で痛感するのが「技能」継承の難しさ。これはモノづくりにおける「技術」伝承とは大きく異なる。「技術」は属人的なノウハウを文字や数式などで形式知化しやすく、標準化や自動化など全体作業レベルを底上げするものだ。主にノウハウをマニュアル化したり、集合教育が行われたりすることで、「技術」は伝承される。

 

一方、「技能」は、人間が行う動作などの主観的かつ感覚的なもので、人間を介在することのみで継承されるもの。このような暗黙知は標準化が難しいため、「技能」においては伝承者と継承者とのマンツーマンによるOJT(On the Job Training)を通じて、熟練ノウハウが伝承されていく。

東芝総合人材開発(株)の三重修二氏

東芝総合人材開発(株)の三重修二氏

「私たちの世代は、『俺たちを見て技能を盗め』と先輩方に言われながら育ちました」と語る三重氏。先輩を見ながら、必死に自分のものにする従来の方法は、時代に伴い改められつつある。しかし、教育法の変化の理由はそれだけではない。江頭選手によると、現在、技能大会の様相が変わってきたというのだ。

「俺の背中を見て学べ」は通用しない?!変化する技能伝承の形

「使用する道具が発展した分、年々大会で求められる課題の難易度が上がってきています。指導員の方から教えてもらったことを自分なりに解釈しながら、今の課題に合わせた作り方を考えていかないといけません」(江頭選手)

 

指導員たちの言葉に耳を傾けながら、現在求められる技能レベルに照準を合わせていく。従来の伝承方式では現状の技能レベルとスピードに追い付けないという意識の表れだろう。

 

「東芝グループのみならず、技能伝承は他の企業でも大きな課題となっています。我々ができることは、技能五輪全国大会のような機会を活用し、後輩の指導を通じて、次世代に技能を受け継いでいくことだと思っています。指導した選手たちが大会で結果を出すことも大事ですが、各々が職場で活躍し、技能だけでなく、人間的にも成長してもらうことも指導員としての願いです。そういう人材を輩出していくことが我々の役目だと思っています」(三重氏)

 

まさに、組織を挙げて人材育成に取り組むことがカギとなってくるのだ。1963年に開催された第一回技能五輪全国大会に出場した東芝の選手は、現在60歳を超え、世代交代が不可避だ。

 

「江頭選手や若手技能者たちには、その先輩たちから可能な限り学び取ってもらい、モノづくりの飽くなき探求心と情熱をもって社会に貢献していくという東芝のDNAを受け継いでもらいたい。そして、いつか今の選手たちには技能五輪の指導員として将来活躍してほしいと思っています」(三重氏)

 

時代の波の影響を受けるのは技能継承の方法だけではないだろう。ICTやAIなどテクノロジーの進化により、さまざまな仕事がロボットに置き換わり、人の仕事が奪われていくという議論もある。

 

「ロボットなどの機械はモノをつくることはできても、壊れたものを直していけるのは人間だけだと思うんです。特に、美しさを追求する場合や、唯一無二の部品が求められる場合には技能者の力が不可欠だと思います」(江頭選手)

技能五輪全国大会に出場した江頭雄大選手

技能五輪全国大会に出場した江頭雄大選手

現場での人材不足が顕在化しつつある中、今後はITやロボットなどを活用した合理化や省力化に重点が移ると見込まれるものの、製造プロセスにおける最終的な調整や品質管理には必ず人の手が必要となる。特に大型の重電システムやインフラ設備を製造し、維持していくためには、壊れたものを再生させる技能が今後も必ず必要となる。そのためにも、教育法を進化させ続け、技能を継承していくことは欠かせない。

 

江頭選手が初めて大会に挑戦した1年前は2次予選落ちを経験し、今回、彼はそのどん底から這い上がってきたのだという。練習は一日9時間、週5日。それが2年間続いた。一方の三重氏は25年以上、製造現場で技能者としての経験を積み、その後5年間、指導員として若手技能者の育成に携わってきた。現場では安全第一であるため、三重氏は、作業中は厳しく指導を行うものの、時には“おやじギャグ”を挟んで、選手にはゆとりと余裕を与えているという。そのおかげか、年齢が35歳離れている指導員と選手の関係は実の親子のようだという。

2017年11月の技能五輪全国大会に挑んだ選手と指導員たち

2017年11月の技能五輪全国大会に挑んだ選手と指導員たち

自らの頭で考え、手を動かしてモノを作れる技能者を育てるための組織的な「人づくり」による、日本のモノづくり産業の未来が垣間見える。今後のモノづくり産業を盛り上げていくためにも現場の若い力に期待したい。

 

技能五輪全国大会の結果はこちら!
http://www.javada.or.jp/jigyou/gino/zenkoku/saishin_taikai.html

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