青年技能者の日本一を競う技能五輪 挑戦する若者たちと見守る先輩たち

2019/10/30 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 42種の職業技能を競う、技能五輪全国大会
  • 若者の孤独な戦いを見守る先輩たち
  • 技能五輪の先にある人生が本番
青年技能者の日本一を競う技能五輪 挑戦する若者たちと見守る先輩たち

年に一度、23歳以下の技能者が全国の同世代を相手に技能を競い合う。それが技能五輪全国大会だ。長年の修練によってしか獲得しえないイメージのある技能だが、そこに集う青年たちの戦いは、想像をはるかに超える。
競技種目は、機械組立てや旋盤といった工業技能をはじめ、タイル張り、建築大工などの建設技能のほか、料理、洋裁、ウェブデザインなど様々な職種の42種の技能にわたる。
どの種目も「彼らが次世代の日本を背負う技能者である」と胸を張りたくなるほど、すばらしい戦いが繰り広げられる。
令和元年、東芝から5名の若い技能者が技能五輪全国大会の3種目に参加する。そんな彼らは技能大会に何を思うのか。また、指導者は彼らに何を求めるのか。さらに、東芝は企業として彼らをどんな人材に育てたいのか。三者それぞれの技能五輪を通じた技能者育成にかける思いに迫る。

東芝の若手技能者育成プロセスが生み出した輝く卵

高卒入社の技能社員の1年目は、配属先の事業所から出向する形で東芝テクニカルスクール(TTS)での1年間に及ぶ技能訓練に参加する。そこでは、「機械組立て」「旋盤・フライス盤」「電子機器組立て」「塑性加工」に分かれて東芝の技能者としての職業訓練を受ける。この1年間の課程の参加者から、技能五輪の選手が選抜され、高度技能開発課程で最大2年間、技能五輪に特化した訓練を受けることになるのだ。

東芝エネルギーシステムズ株式会社 苫米地颯人氏

東芝エネルギーシステムズ株式会社 苫米地颯人氏

「小さい頃から、段ボールを使った工作が好きでした。だから、モノ作りができる工業高校に進学しました。就職活動で、東芝の京浜事業所を見学する機会があり、本物の工場の迫力に圧倒されて『ここで働きたい』と考えるようになりました
そう語るのは、技能五輪機械組立て職種東芝代表選手の苫米地 颯人(とまべち はやと)氏だ。現在入社3年目で、高校時代は野球部のキャッチャーを務めていたという。

 

苫米地氏は、今年で技能五輪の代表選手として2年目となり、今年が最後の挑戦だ。

 

「昨年は、基礎ができておらずに失敗をしてしまいました。今年は、徹底した基礎固めと、苦手パートの克服を目標に取り組んできました」(苫米地氏)

東芝総合人材開発株式会社 松井辰雄氏

東芝総合人材開発株式会社 松井辰雄氏

苦手な分野は、やっていても楽しくありません。楽しくなければ、成果はでません
そう語るのは、苫米地氏を指導する松井辰雄指導員だ。松井氏自身も50年近く前に日本代表として国際大会に出場し、金メダルを獲得した実績を持つ。だからこそ、彼ら選手の気持ちが理解できるのだろう。

 

苦手の克服には、反復練習しかない。簡単なことではありませんが克服できれば、それは得意分野になる。得意になれば、楽しくなる。これが結果につながることを知ってほしいですね」(松井氏)

指導の様子

松井氏は、苫米地氏の技能者としての才能を高く評価する。
「図面に対する理解力、そして計算力が非常に高い。三角関数の捉え方にも非凡なところを感じます」(松井氏)
技能五輪のレベルでは、かなり複雑な計算を瞬時に暗算できる能力が必要となる。これは、金属を削る繊細な感覚や集中力とともに、高度な技能者としての欠かせない資質だと松井氏は語る。

 

苫米地氏が出場する種目の「機械組立て」は、競技時間6時間20分(第57回競技規定)の間に、課題に示された寸法および精度に従って部品を加工し組立てを行う競技だ。

第57回競技の課題「インデックス加工装置」は、加工部品数が8素材9部品、加工面数が129面ある

第57回競技の課題「インデックス加工装置」は、加工部品数が8素材9部品、加工面数が129面ある

ヤスリを使った手作業による金属加工で、100分の1ミリ以下の精度で仕上げていく。図面を読み取る力だけでなく、多くの部品を手作業で加工する体力と、わずかな差を指先で感じ取る繊細な感覚、そして6時間以上にわたり、たった独りで課題となる機械の組立てを行う、非常に高い集中力が求められる種目なのだ。

異能の講師が磨く世界観とメンタル

高い集中力が要求される彼ら技能五輪出場選手を、メンタルの面からサポートするのが、東芝総合人材開発株式会社の冨岡鉄平氏だ。冨岡氏は、東芝ラグビー部の主将として、トップリーグ、日本選手権などのタイトル獲得に貢献した人物である。

東芝総合人材開発株式会社 冨岡鉄平氏

東芝総合人材開発株式会社 冨岡鉄平氏

冨岡氏は、技能五輪はあくまで通過点と言い切る。
「私は技能五輪の選手たちに、競技の先にある人生でも活躍して欲しいと思っています。人生の終わりに『俺はこれだけがんばった』と言えるような人生を送ってほしいですね」(冨岡氏)

 

東芝ラグビー部での活躍にフォーカスされることが多い冨岡氏であるが、自らの指導方針はラグビーだけに基づくものではないという。
「一人ひとりの強い個性のかけ算がラグビーの魅力であり、強いチームの力です。これは企業でも同じです。自分の世界観を持ち、それを企業人として生かすことの大切さを、若い技能者たちにも伝えたいと思っています」(冨岡氏)

 

「冨岡先生の授業は、とても熱くて楽しいんです。先生と生徒という感じじゃなく、先輩ですね」
指導を受ける側の苫米地氏は、冨岡氏の授業を、そう評した。

どんな状況でもいつもの能力を発揮するために、メンタルトレーニングが大切になる

どんな状況でもいつもの能力を発揮するために、メンタルトレーニングが大切になる

「私は教えているという感覚でやっていません。みんなと共有したい。そう思ってやっていますから。それに、楽しむことが一番だと思っています。楽しんで笑顔になる。そんな笑顔がみんなに伝わって全員が笑顔になり、一人ひとりが実力を発揮できればいい。笑いの源泉になりたいですね」(冨岡氏)

キャリアを切り拓くチャンスを平等に

冨岡氏と同様に、技能五輪は通過点であると言うのが、技能五輪参加者をバックアップする、株式会社東芝 生産推進部 生産戦略室の伊藤由仁氏である。

株式会社東芝 生産推進部 生産戦略室 伊藤由仁氏

株式会社東芝 生産推進部 生産戦略室 伊藤由仁氏

「技能者として東芝に入社した全員に、様々なチャンスを平等に与えたいと思っています。技能五輪に参加するチャンスをもらった人、現場で努力している人、みんなにいろんなキャリアパスがあり、がんばれば、誰もが望むチャンスをつかめる会社、それが東芝なんです」(伊藤氏)

 

現在、本社で生産変革を担当する伊藤氏は、工業高校出身の技能職採用だったという。
「最初の配属先は、カラーテレビ工場の生産ラインでした。思い返せば、私にもいくつかのチャンスが巡ってきました。そして、すべてに条件反射のように手を挙げ、がむしゃらに努力しました。結果として、入社時には想像していなかったキャリアパスを現在、描けているんじゃないかと思います。努力すれば誰にでもチャンスがきて、誰でも手を挙げられる。東芝ってそんな会社なんです。これからもそれを守っていきたいし、若い人たちにどんどんチャンスを提供していきたい」(伊藤氏)

作業現場改善に向けた気づきを選手と共有する伊藤氏

作業現場改善に向けた気づきを選手と共有する伊藤氏

もちろん、技能者としての技を極めたいという者もいるだろうし、違うジャンルの仕事にどんどん挑戦していきたいと思う者もいるだろうと伊藤氏は言う。大事なことは、自分のキャリアをどう積み上げていくか、努力次第で自分で切り拓いていける風土が東芝にはある。そして、そんなチャンスのひとつが、技能五輪なのだという。

 

伊藤氏は、現状では満足していない。今後は、技能五輪参加者だけでなく、すべての若手技能者が平等にスキルアップ、キャリアアップを図れるように、今以上に教育体制を整備していきたいと考えている。

苫米地氏

「たまに事業所に戻ると、みんなが『がんばってるか!』って声をかけてくれます。みんなが気に掛けてくれていると思うと、力がわいてきます。貴重な機会を与えてくれた事業部の皆さんや、多くのことを教えてくれた、TTSの先生方の恩に報いるためにも、自分の3年間の集大成としても、一緒にがんばってきた後輩のためにも、持てる力のすべてを発揮できるよう努力してきます!」
苫米地氏は、ちょっとはにかんだ笑顔で、決意を語ってくれた。その笑顔には、まだ幼さが残るものの、瞳の奥は一人前の技能者であるという自負によって輝いているように見えた。

 

工作が大好きだった少年少女たちが、これから東芝でどんなキャリアを築いていくのか、どんな技能者になっていくのか、どんな夢を叶えるのか。そして、彼・彼女らが何を作り、どう世界を変えていくのか。これからが楽しみだ。

左から、東芝総合人材開発株式会社 三重修二氏、技能五輪1年目の株式会社ニューフレアテクノロジー 福原知弥氏、苫米地氏、松井氏

左から、東芝総合人材開発株式会社 技能五輪監督 三重修二氏、技能五輪1年目の株式会社ニューフレアテクノロジー 福原知弥氏、苫米地氏、松井氏

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