風船のヘリウムガスが内部に? クラウド時代を支えるHDD大容量化技術

2018/03/14 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • ポイント1 クラウド時代を支える大容量HDD
  • ポイント2 ヘリウム充填によりHDDのさらなる大容量化が可能に
  • ポイント3 東芝が従来型記録方式で世界最大容量のHDDを開発
風船のヘリウムガスが内部に? クラウド時代を支えるHDD大容量化技術

スマホで撮った写真をクラウド上に保存する。会社で使う資料をクラウド上に保存し、同僚と共有する。私たちは生活のさまざまなものをデータ化し、クラウド上に保存することが当たり前の時代になった。その結果、世界中で生成・蓄積されるデータ量が加速度的に増加し、データの保存先となるデータセンターはより多くの情報を保管することを求められている。

 

多くの場合、データの保存はハードディスクドライブ(HDD)が用いられる。HDDは、データを記憶するノートの役割をする円盤状の磁気ディスクが高速で回転しながら、ペンの役割をする磁気ヘッドを使ってデータの書き込みと読み出しを行う。

3.5型大容量HDD

3.5型大容量HDD

クラウドサービス用の大規模データセンターを運営する企業が求めるHDDは、ニアラインHDDと呼ばれる大容量HDDだ。

 

理論上、磁気ディスクの枚数が増えれば、記録できるデータも多くなる。しかし、毎分7,200回転という高速回転をさせながらデータの読み書きをするニアラインHDDにおいて、多くの磁気ディスクを入れると耐久性の悪化や消費電力増加などの問題に加え、業界標準サイズの筐体内に搭載できる磁気ディスクの枚数の増加には物理的な制約があった。

 

そのような中、2017年12月、東芝は従来型磁気記録(CMR)方式で世界初、世界最大容量(※1)の14TB(テラバイト)を実現したニアラインHDDを開発した。HDDの中に搭載される磁気ディスクを、それまで業界最大だった8枚から9枚に増やすことに成功したのである。その立役者が、HDDの中の空気をヘリウムガスに変更することであった。空気よりも軽いヘリウムガスを充填したことで搭載枚数を増やし、磁気ディスクそのものの高記録密度化にも成功した。さらに、世界最大容量を実現しただけでなく、消費電力も一世代前の10TBモデルよりも40%以上向上し、平均故障時間(MTTF)は250万時間という高信頼性を実現したのである。

 

(※1) 3.5型・高さ26.1mmのフォームファクタとして。2017年12月8日時点。当社調べ。詳細については、2017年12月8日東芝デバイス&ストレージ(株)の報道発表文を参照。

大容量化と低消費電力を実現した新しいHDD製品化の開発ストーリーを、HDDを知り尽くした東芝デバイス&ストレージ株式会社で営業を担当する藤森将文氏と設計を担当する佐藤巧氏に聞いた。

大容量化を可能にした取り組みとは?

―14TB(テラバイト) HDDのすごさを教えてください。

 

藤森氏:今回開発した14TB HDDには、2つの非常に画期的な「初」があります。まず、世界で初めて9枚の磁気ディスクを搭載したことです。これにより世界最大容量となるCMR(従来型磁気記録方式)で14TBを実現しました。もう一つは、東芝として初めてヘリウムガスを充填したことです。

多数のディスクを搭載する

多数のディスクを搭載する

―世間や周囲の反響はいかがでしたか?

 

藤森氏:世界の著名なテクノロジー系のアナリストから大きな反響がありました。既に大手顧客にサンプル出荷を開始し、性能を評価頂いています。

営業を担当する藤森将文氏

営業を担当する藤森将文氏

―ディスクが9枚入るというのはそんなにすごいことなのですか?

 

佐藤氏:はい。当然ですが、それにより大容量化が実現されます。我々の場合、10TB品(7枚ディスク)が最大でしたし、他社でも8枚までしかありません。同じ大きさの筐体にディスクを9枚入れるには、細かいところの寸法を少しずつ縮めたり、部品のばらつきを抑えたりする工夫が重要です。また、耐衝撃性、耐振動性などの厳しい信頼性基準もクリアしなければなりません。我々は過去に0.85型や1.8型といった小型HDDを世に送り出しており、そこで培ったノウハウを生かしてこれらの課題を解決しました。

設計を担当する佐藤巧氏

設計を担当する佐藤巧氏

―ヘリウムガスを充填した、とはどういうことですか?

 

佐藤氏:ヘリウムガスとは、皆さんご存じの風船やボイスチェンジャーに使われている空気よりも軽いガスです。今までのHDDの内部には空気が入っていて、その中でディスクが回転していました。今回、抵抗が空気の7分の1しかないヘリウムガスを充填することに成功しました。

 

―ヘリウムガスを充填すると、どのようなメリットがありますか?

 

佐藤氏:ヘリウムガスは抵抗が非常に小さいため、気流摩擦やディスク振動が減り、モーターの消費電力を減らすことができます。我々の10TB品と比べると、ディスクが2枚増えたのに消費電力は約3Wも削減することができました。また、データの読み書きを行うペンの役割を担うヘッドの位置決め精度や、音が静かになるという面でもメリットが出ています。

 

―消費電力の削減はそんなに重要なことなのですか?

 

佐藤氏:はい。今回の14TB品のような大容量HDDはデータセンター向けを主な市場としているのですが、データセンターは膨大なデータを保管するために非常に多くのHDDを使います。しかも基本的に24時間365日連続稼動です。データセンターにとっていかに消費電力を下げるかは非常に大きな課題となっています。

 

―他にはどのようなメリットが期待できますか?

 

佐藤氏:消費電力の削減と同様、今回ディスク枚数が増えているのに重さは従来品よりも軽くなっています。データセンターの建物は構造上何トンまで、という制約があるので、軽いこともお客様から評価を頂いています。

 

―では、なぜ今までヘリウムガスが使われなかったのですか。

 

佐藤氏:高い信頼性を持った空気ベースの製品を作り、市場で実績を作ることを最優先としてきたからです。また、ヘリウムを用いるとコスト的にどうしても割高になりますので、総合的に判断した上で、10TBまでは空気を使う戦略をとってきました。しかし、さすがに14TBは空気では難しく、今回ヘリウムを用いたHDDの投入に踏みきりました。

 

―ヘリウムガスの充填は難しいのですか?

 

佐藤 :はい。ディスクを9枚搭載するだけでも難しいのに、今回初めてヘリウムガスを充填することに関して、競合だけではなく一部のお客様からも「ヘリウムをうまく扱えるはずがない」と言われていました。ヘリウムの原子は空気に比べて非常に小さいため、少しでもすき間があると漏れ出してしまいます。そこで、東芝製リチウムイオン電池で実績があるレーザー溶接技術を活用しました。バッテリーでは品質的に高い溶接技術が要求されるため、先端レーザー技術が東芝グループ内で確立されていたのです。その技術を今回活用することで、ヘリウムが漏れ出ない、信頼性の非常に高い製品を作ることが出来ました。

 

―今回の製品で競合他社を技術的に追い抜いたと言えるのでしょうか?

 

佐藤氏:これからも熾烈な開発競争が続くと思います。社内で開発を頑張っていくことはもちろんですが、主要部品であるヘッドとディスクのサプライヤーとがっちり組んでいくことも重要です。

 

―ターゲットとしている市場について教えてください。

 

藤森氏:データセンターのお客様となります。北米大規模データセンターはもちろんのこと、中小データセンターや中国市場も開拓していきます。データセンター市場では、ビッグデータの進展により扱う情報量が爆発的に増えており、その時々の最大容量製品を必要とする傾向が強いため、今後もさらなる大容量製品の開発を目指して努力していきます。

 

40年前、HDDメーカーは約100社あったが、いまでは東芝を含めたったの3社となった。さらに、東芝は業界で唯一の日本メーカーである。今後も、東芝の技術がクラウド化社会を支えていくことに期待したい。

藤森氏と佐藤氏

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