社会を支えるリチウムイオン電池 ある日本人の貢献

2015/11/04 Toshiba Clip編集部

社会を支えるリチウムイオン電池 ある日本人の貢献

先月発表された2015年のノーベル賞は、昨年に続き今年も日本人が受賞を果たした。世界屈指の科学大国として画期的な研究が進められてきた日本の科学技術は、今後も評価され、数々の研究が脚光を浴びることになるだろう。

 

その一つとして挙げられるのが、電池の性能を飛躍的に上げることに成功したリチウムイオン電池の開発だ。小さくて高電圧、さらに軽いという、充電池は重くて大きいというそれまでの概念を覆した新しい電池は、パソコンやスマートフォン、ハイブリット車などの電源などに使用され、現代の生活には欠かせない存在となっている。

 

今回は、かつてリチウムイオン電池の研究に携わった水島公一氏のインタビューを通して、世界的な発明であるリチウムイオン電池の開発の秘密に迫った。水島氏は東芝研究開発センター( http://www.toshiba.co.jp/rdc/ )で研究員を務め、現在は東芝リサーチ・コンサルティング株式会社で氏の功績をたたえ、特別に設けられたエグゼクティブフェローの職にある。

リチウムイオン電池のしくみ

SCiB
参考:東芝製リチウムイオン二次電池SCiB™(高出力タイプ 3Ah)

リチウムイオン電池の最大の特徴は、小さくて軽いにも関わらず、容量が大きく、高い電圧も得られるという点だ。そのため、様々な製品を充電池で長時間動かすことが可能になった。

 

そもそもリチウムイオン電池は、正極(電池のプラスの電極)と負極(マイナスの電極)の間をイオンが移動することで電気が起こる仕組みで、スイッチを入れると負極からリチウムイオンと電子が抜け出し正極へ向かう。その過程で電子は製品の中で動力として働く。この仕組みをうまく再現するには、電極にどんな材料を使用するかが大きなポイントとなる。

 

物理学の博士課程を修了後、大学で助手を務めていた水島氏は、1978年オックスフォード大学で電池の正極材料の探索を始めた。この頃はまだ、どの材料が最適かわかっておらず、未知の材料を試していくことになった。しかし、この材料選びが想像以上に難航することになる。

実験中に爆発!

リチウムを使用した電池は、実は当時から存在していた。負極には金属単体のリチウムを、正極には硫化物を使う「リチウム電池」と呼ばれるものだ。硫化物電極は、それまでの正極に比べはるかに優れた特性があったため、水島氏らもそれにならい、隣の研究室の炉を借りて、硫化物の合成から研究をはじめた。しかし、ある日、実験中に爆発を起こしてしまう。それを受けて、以降の材料選びは安全に合成できる酸化物の中から探索することとした。

 

その後水島氏は、鉄やマンガンの酸化物など様々な材料を試していく中で、ついに最善の材料を発見する。それが『コバルト酸リチウム』だった。 水島氏の材料探索の考え方は、他の研究者と一線を画しており、当時オーソドックスだった「リチウムイオンを挿入できる材料の探索」から始めるのではなく、「リチウムを抜き取れる材料の探索」に注目するという逆転の発想であった。そのうえコバルトは、幸運にもリチウムを抜き取れるだけでなく、これまでの2倍近い4Vの高電圧な放電によって再び挿入することもできた。

この発見により、リチウムイオン電池の研究は一気に加速していくことになる。

コバルト

 

実用電池に不可欠だったもの

しかし実用電池にまで高めるためには、電流密度をさらにあげる必要があった。これにはずいぶんと苦戦を強いられたものの、電極の厚さを100ミクロン程度に薄くすることで課題を克服。

 

この工夫により、従来の電池と同程度の電流を流すことが可能になった。さらに電圧・エネルギーは従来の2倍となり、それまでの電池の性能を完全に追い越すこととなる。この高い電圧を発生させる正極は、性能の向上だけでなく、同時に安全性の確保にもつながった。安全な材料を負極に用いても十分なエネルギーを持つ電池が構成できることで、常に危険と隣り合わせだった金属リチウムを使用する必要がなくなった。

 

こうして、金属リチウムを全く用いない「リチウムイオン電池」が誕生したのである。

水島公一

2010年11月 英化学会会長(左端)、オックスフォード大学長(左3番目)、他は同僚とプラークを持つ水島氏(右3番目)。

日本の電機産業の未来へ

水島氏らの研究の成果を元に、リチウムイオン電池はその後、様々な企業によって改良が加えられていった。日常生活に不可欠な存在となった今でも進化は続いており、宇宙空間で充電や通電ができる仕組みも開発されている。

 

一方で、大容量の充電池では、リチウムイオン電池を使う限界も見えてきている。ガソリン車に匹敵する電気自動車を開発するには、さらに大容量で高速充電ができる電池が不可欠だ。

 

しかし、次世代の充電池は、亜鉛空気電池を始め複数の候補はあるものの、どれも決め手とはなっていない。リチウムイオン電池を超えようとすればするほど、いかにリチウムイオン電池の完成度が高いかが浮き彫りとなってくる。

 

また近年、諸外国に押され、日本の電機産業の衰退が目立ってきた。今後、日本の電機メーカーはどのような未来を歩めばよいのだろうか。

 

「改めて30年前のことを思い返してみると、なぜ私より先に、この簡単な構造の正極材料(コバルト酸リチウム)を見つけた人がいなかったのか不思議に思えてきます。当時、既に多くの酸化物が正極材料として試されていました。同じ物質に目をつけた研究者も、大勢居たのではないかと思われます。たかだか数ヶ月程度の、タッチの差だったのではないでしょうか」

 

水島氏がそう振り返るように、正極材料の探索は多くの研究者が行っていた。しかし前出のように、リチウムイオンを挿入できる材料を探していくのが正着となるため、他の研究者は放電しきった材料を試すことは後回しにしたのかもしれない。周りとは違った着眼点を持ったことで、研究が実を結ぶことにつながったのだ。

 

水島氏の功績の裏には、日本という科学大国を次のステップへと導いてくれるヒントがあるのかもしれない。次世代へ誇れるような、さらなる高みを目指し、日本の科学技術の挑戦は続いていく。

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東芝 研究開発センター

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