CO₂から生活に役立つ物質を 人工光合成が生み出す新しいエコサイクル
2016/05/25 Toshiba Clip編集部
この記事の要点は...
- CO₂を使って生活に役立つ物質を作り出す
- 東芝は世界初の技術を開発
- 2020年代に実用化へ

水とCO₂からできたペットボトルや洋服、そんなものがもうすぐ実現するかもしれない。その答えは”人工光合成”技術。
これまで植物が行ってきた光合成の働きの一部を、人工的に再現できるようになってきている。
植物が行う光合成は太陽光エネルギーを利用し、二酸化炭素(CO₂)と水から酸素と糖類を生成するが、人工光合成は太陽エネルギーを利用し、二酸化炭素(CO₂)と水から、人の生活に役立つ物質を作り出す。
光合成(植物)と人工光合成(本技術)が太陽光エネルギーを利用し生成する物質
地球温暖化の大きな要因であるCO₂を人類にとって有益なものに変えられることから、近年世界中で注目を集めている技術だ。
世界初の技術革新
人工光合成は、各組織・企業によってさまざまな方法で開発が進められている。東芝でも、人工光合成によって、CO₂からペットボトルなどの原料となるエチレングリコールを生成することを目指し、研究開発を進めてきた。
2015年9月には、人工光合成に活用可能な、新たな分子触媒を開発した。
外部電源を用いたモデル実験を行い、世界で初めて、CO₂から80%のファラデー効率(注1)でエチレングリコールを生成することに成功した。これにより、人工光合成で、CO₂からエチレングリコールを生成させることに、大きく近づいたといえる。
分子触媒による二酸化炭素の変換(左)と今回開発した分子触媒(右)
エチレングリコールは、ペットボトルの原料や樹脂の原料、ポリエステルなどの衣服の繊維の原料や、車などのエンジン用の不凍液にも用いられるなど、さまざまなシーンで活用されている。毒性が低く、素材としての扱いやすさの観点から非常に有益な物質として期待されている。
(注1)ファラデー効率:全電流に対する生成物に寄与した部分電流の割合。残り20%の電流は、主に水溶液中の水素イオンを水素に変換するのに消費されていると考えられる。
“高効率”かつ”ワンステップ”で生成を可能にした独自の「多電子還元」
従来の技術では、CO₂に電子2つまでしか反応させることができず、何段階にも分けなければエチレングリコールを生成することができなかった。しかし、東芝が独自に開発した分子触媒を用いると、一度に10の電子(=多電子)に働きかけ、CO₂からエチレングリコールをワンステップで生成できる。これが「多電子還元」。東芝は、この技術により複雑な構造を持つエチレングリコールをワンステップで生成できるようになった。
多電子還元ができる触媒は、銅などこれまでにもいくつか存在していたが、それらの触媒では多くの副生成物が生まれてしまい、有用な物質を取り出しにくいという欠点があった。今回の東芝の技術は、CO₂からエチレングリコールのみ(注2)を生成できる点も大きな強みとなっている。
人工光合成では、いかに変換効率をよくするかがポイントとなるが、同時に直接使いやすい物質を生み出すことも重要である。東芝の開発した新たな分子触媒が、人工光合成の研究を着実に前に進めている。
(注2)水溶液中の水素イオンからは、一部水素が発生する。
2020年代の実用化を目指す
今後の課題としては、コストの問題や変換効率をさらに上げていくことはもちろんだが、原料となるCO₂を大量に集める工夫も必要となってくる。
東芝ではその解決策のひとつとして、火力発電所や工場などのCO₂を大量に排出する施設に「CO₂分離回収システム」を付設していく想定で開発を進めている。工場などのCO₂を活用できれば、CO₂の確保が容易になる。2020年代の実用化を目指し、現在も開発が進行中だ。
人工光合成の実用化が実現しても、温暖化などの課題が一挙に解決するわけではない。しかしこれまでは環境負荷が大きいとされてきたCO₂が、ペットボトルや衣服などに生まれ変わるという新たなエコサイクルが誕生する。
本技術に取り組む東芝研究開発センターの御子柴智氏は人工光合成技術についてこう語る。
「人工光合成は遠い将来の技術だと思われてきましたが、近年急速に開発が加速しており、実現可能な技術となってきました。将来、エネルギーや社会インフラの分野で人工光合成システムが社会に貢献できるよう、開発を進めていきます」
これまで邪魔者扱いだったものから有用なものが生み出される――。そんな次世代の技術の確立へ向け、今も国内外でさまざまな取り組みが進められている。
関連サイト
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https://www.toshiba.co.jp/rdc/detail/1412_01.htm