ペロブスカイト太陽電池が切り拓く、太陽光発電の未来

2022/07/22 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • CO₂排出がない太陽光発電は、地球温暖化による異常気象を抑制する有力な選択肢!
  • 世界最高効率のペロブスカイト太陽電池は、薄く、軽く、曲げられ、これまでにない活用が可能!
  • クリーンで安全で持続可能な、循環型経済社会にペロブスカイト太陽電池が貢献!
ペロブスカイト太陽電池が切り拓く、太陽光発電の未来

地球温暖化による異常気象の抑制には、温室効果ガスの排出削減は必須であり、太陽光発電は有効かつ重要な解決策の1つだ。その中でも、薄く、軽く、曲げられるペロブスカイト太陽電池は、注目の選択肢といえる。東芝が開発した世界最高効率のペロブスカイト太陽電池は、どのように人々が豊かに暮らすクリーンで、安全で持続可能な社会に貢献するのか。その技術と重要性の詳細に迫る。

地球温暖化、異常気象という人類の社会課題

世界中の国や企業などが、持続可能な開発目標を意欲的に掲げ、炭素排出量を削減することでその達成に向けて懸命に努力している。グラスゴーで開催された国連気候変動サミット(COP26)では、今後数ヶ月から数年の単位で、社会が持続可能であるために取り組みを強化し続けることが極めて重要だということが再認識された。それは、地政学的にも、社会や企業のレベルでも、いずれにおいてもだ。

 

脱炭素の取り組みが進むにつれ、炭素を排出するエネルギー源から再生可能エネルギー(再エネ)への移行が重要になってくる。2020年の世界の発電量に占める再エネの割合は、国際エネルギー機関(IEA)によると29%であり、着実にその割合を増やしている。現在、再エネの多くは水力が占めるが、これからも利用が拡大する風力と太陽光が、再エネの成長の3分の2を占めると予測されている。ただし、懸念されるのは、依然として発電量の70%以上が非再エネ由来であるため、再エネによる発電への移行を飛躍的に早める必要がある点だ。

太陽光発電の台頭

太陽光の活用は大きな可能性を秘めているが、未だに最大限に活用されていない再エネの1つである。太陽光を使った発電方法には、集光型太陽エネルギー発電や熱エネルギー利用などいくつかあるが、主流は太陽の光エネルギーによる発電だ。この太陽光発電による発電量は急速に増加しており、IEAによると2022年には世界で新規導入容量が前年比で25%近く増加すると予想されている。

 

このように太陽光発電は大きく前進してはいるものの、さらなる進歩が必要とされている。「2020年は、多くの国で再エネ導入政策の達成期限にあたるため、太陽光発電の導入ブームが起きた。しかし、2030年に炭素排出の『ネットゼロ目標』に到達するには、さらなる努力が必要である」とIEAは述べている。これらのことから考えると、カーボンニュートラルの実現には、太陽光発電の利用拡大が不可欠だと言える。

用途に応じた太陽電池モジュールの活用

現在、最も多く使われている太陽電池モジュールは結晶シリコン製だ。しかし、この結晶シリコンは重くて硬いため、設置場所が限られてしまう。例えば、現在のメガソーラー発電所は遊休地や山間部に設置されることが一般的。その為に、従来型のシリコン系メガソーラー発電所を設置できる場所は、少なくなってしまうのだ。そのような状況のなか、太陽光発電を加速させるために、都市部での大規模発電が注目されている。今後の鍵は、エネルギーを使う場所のそばでエネルギーを生産する、いわゆる「地産地消」となる。

 

素材による太陽電池の分類

素材による太陽電池の分類

その点において、ポリマーフィルム型のペロブスカイト太陽電池は、広く使われている結晶シリコン製に比べて多くの利点がある為、次世代の魅力的な選択肢と考えられている。より薄く、より軽く、より柔軟なポリマーフィルム型のペロブスカイト太陽電池は、重いものを乗せられない屋根やオフィスの窓など、シリコン型の使用が困難な場所にも設置できる。特に土地が貴重な都市部では、これは太陽電池を設置できる場所を大幅に増やす画期的なソリューションになる。すなわち、地上に降り注ぐ太陽光という限りある資源をフルに活用できることを意味する。ガラス張りのビルが立ち並ぶ金融街やビジネス街を想像するだけで、この技術の可能性が容易に想像できるのではないだろうか。

 

このように、ポリマーフィルム型のペロブスカイト太陽電池は、カーボンニュートラル達成に向けて発電のあり方を変える可能性を秘めるが、課題もある。それは、シリコン型モジュールに比べて電力変換効率が高くない点だ。言い換えると、一定量の太陽光から得られるエネルギーの量が、シリコン型モジュールと比べて「まだ」少ないのだ。

イノベーションが切り開く、変革と普及への道

直前の文の、「まだ」という言葉には重要な意味がある。なぜなら、東芝のペロブスカイト太陽電池は、シリコン型と同等の電力変換効率を実現する可能性をもっているからだ。従来の大面積のペロブスカイト太陽電池は、2ステップ方式という素材の塗布法で作られることが多いが、この方法だと塗布に時間がかかり、またペロブスカイト層に未反応部分が生じやすい。その結果、電力変換効率が低下してしまうというわけだ。これに対して、東芝は、1ステップメニスカス塗布法という革新的な方法を開発し、電力変換効率の向上に向けて大きく前進させたのだ。

 

この画期的な1ステップメニスカス塗布法を採用することにより、ポリマーフィルム型のペロブスカイト太陽電池として世界最高値*の15.1%まで電力変換効率が向上した(703cm2 サイズ)。具体的には、改良したインクを使用し、フィルムの乾燥プロセスや製造装置を改善することにより、全体的に均一なペロブスカイト層を形成できた。

 

さらに、塗布速度が従来の2ステップ方式に比べて25倍と高速化(東芝での従来比)されたこと、1層のみの塗布で済むことの相乗効果で、塗布速度は従来の50倍にまで高速化できた。これは、ペロブスカイト太陽電池をより効率的に量産できる製造方法であることを意味し、ペロブスカイト太陽電池の実用化に向け、技術的に大きな前進といえる。

*: 東芝調査。100cm2以上のフィルム型ペロブスカイト太陽電池のプラスチック基板使用(2021年9月10日現在)

 

東芝 研究開発センターでペロブスカイト太陽電池の開発を率いる高須氏は、次のように革新的な技術の開発を振り返る。

 

「ペロブスカイト太陽電池の特性は、材料やデバイス構造など、様々な条件によって左右されます。だからこそ、開発メンバー一人ひとりの知見の積み重ねが、この特性の向上に貢献していると思います。

 

また、大面積のペロブスカイト太陽電池では2ステッププロセスで成膜するのが一般的である中で、難しいと思われた1ステッププロセスを実現した開発メンバーの創造性と努力は誇らしく、頭が下がる思いです。

 

株式会社東芝 研究開発センター ナノ材料・フロンティア研究所 トランスデューサ技術ラボラトリー フェロー 高須 勲氏

株式会社東芝 研究開発センター ナノ材料・フロンティア研究所 トランスデューサ技術ラボラトリー フェロー 高須 勲氏

この技術の進展には目を見張るものがあるが、この技術が商用化されるまでには、乗り越えなければならない課題がある。それは、変換効率と耐久性のさらなる向上だ。東芝は、2025年度のペロブスカイト太陽電池の市場投入を目指しているため、市場投入までの3年間にこの課題を解決していく。また、市場に受け入れられるためには、よりコストパフォーマンスの高い素材を使用し、製造コストを下げることも重要になってくる。

都市部だけでなく地方での適用も

先に述べたペロブスカイト太陽電池の利点と相まって、東芝の技術は、太陽電池の大規模な導入に道を開くものと考えられる。例えば、ペロブスカイト太陽電池を東京都内のビルの屋根面積に相当する164.9km2に設置した場合、東京都内の一般家庭が一年間に消費する電力の約3分の2をまかなえる電力が得られると試算されている。さらに、この技術は、太陽電池の設置場所が限られている都市部だけでなく、製造業や農業など様々な分野での活用も期待できる。

 

都市部から地方への応用

 

農業を例に考えてみる。ペロブスカイト太陽電池は、ペロブスカイト層を薄くすることで透明度をコントロールできるため、温室のカバーとして使用すれば、農作物の育成に必要な太陽光を適度に取り込みながら、農業に必要な発電も可能となる。気候変動に関する政府間パネルによると、農業は2019年の温室効果ガスのうち8.5%を排出している。このことから、カーボンニュートラルや循環型経済への取り組みに拡大の余地がある産業分野がこうした技術を取り入れれば、カーボンニュートラルに向けて加速する可能性があるのは明らだ。さらに、ビルや建設も同様で、IEAの報告によると、「この分野は、世界の最終エネルギー消費の3分の1以上を占め、直接的または間接的にCO₂排出の40%近くに関わっている」とされている。

ネットゼロに向けたグローバルな取り組み

気候変動やエネルギー資源の枯渇など、社会が直面する数多くの課題を解決し、持続可能な未来を築くために、太陽光発電をはじめとする再エネが重要なことを確認してきた。東芝では、この動きに呼応し、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」と歩調を合わせ、2030年までに自社のバリューチェーン全体で温室効果ガスを70%削減することを目指している。

 

そのため、東芝は、フィルム型ペロブスカイト太陽電池のような革新的技術の開発に積極的に取り組んでいる。更なる技術革新を行い、前進することが、循環型経済に貢献する上で最も重要であると考えているからだ。そして、多くの国や組織が太陽光発電に注目する中、この潮流に貢献できるようにペロブスカイト太陽電池の性能向上を目指しているのは前述の通りだ。東芝は、このような努力の積み重ねによって、人々が快適に暮らせるクリーンで安全で持続可能な社会、そして循環型経済につながると信じている。

 

今回開発した塗布技術とそれを用いたペロブスカイト太陽電池は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクト「太陽光発電主力電源化推進技術開発」の研究成果である。

 

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