東寺五重塔が金色に輝く京都の夜 綿密に設計されたライトアップ
2016/11/07 Toshiba Clip編集部
この記事の要点は...
- 「金色に輝く五重塔」をLEDで再現
- LEDで約51%の消費電力削減を実現
- 6万時間の寿命まで同じ明るさ、色味を保つ
京都に残る平安京の遺構、東寺。正式名称を教王護国寺というこの寺院は、創建から1,200年という歴史を誇り、世界遺産にも登録されている。日本初の密教寺院であるという側面よりも、一般的には京都の象徴的な風景のひとつである五重塔がなじみ深いのではないか。
五重塔は年間を通してライトアップされているが、桜や紅葉の時期には夜間に特別公開される。期間限定ではあるが、美しく整備された庭園の樹木がライトアップされ、その中に浮かび上がる五重塔の近景をひと目見ようと、毎年、多くの観光客が訪れる。
実はそんな美景に、LEDを駆使した最新のライトアップ技術が生きている。従来の「金色に輝く五重塔」のイメージを継承しつつ、消費電力の削減に努めた、知られざる背景を追ってみよう。
光の量と色の最適化
「東寺五重塔のライトアップには従来、HIDランプ(※)が使用されてきましたが、より消費電力の少ないLED器具への更新が検討されはじめたのが、2012年のことです。しかし、当時のLEDでは既設のHIDランプと同等に置き換えらえるレベルの光量・光色を有するものがなかったため、最適な光の量と色で、いかに東寺五重塔の”金色に輝く”イメージを表現できるかが、大きな課題でした」(照明電材事業本部 大谷明日花氏)
※HIDランプ
高輝度放電ランプ。水銀ランプ、メタルハライドランプ、高圧ナトリウムランプなどが含まれる。
ライトアップLED化について相談を受けた東芝ライテックでは、すぐに最新鋭の投光器を現地に持ち込み、照射実験をスタート。数え切れないくらい東寺に足を運び、閉門する夕刻から夜にかけての限られた時間の中で調整を重ねた。
最初の照射実験では、当時の最大光出力のLED投光器で試験点灯し、光量は増灯で対応できることは確認したが、色温度の高い青白い光でライトアップされ、求められるイメージとは程遠いことが判明した。電力コストを抑えることができても、「金色に輝く五重塔」を演出できる光色が得られなければ意味がない。
最適な明るさと最適な色を実現させるため、特注サンプル品を試作した
「そこで、4種類の試作器具をそれぞれ3台ずつ用意し、その組み合わせ点灯パターンについて、近景、遠景の見え方を入念にチェック。試行錯誤を重ねた結果、電球色(3000K)のLED投光器と、濃オレンジ色(2000K)のLED投光器を1:2の割合でブレンドする手法によって、”金色に輝く五重塔”のイメージを表現しました」(同・児玉朋子氏)
現地ではいくつものパターンについて点灯実験が行われた。
寺院としての正面は南大門のある南側であるが、観光資源としては北側、つまり京都駅方面からの視線方向の景観がメイン。そのため、北東・北西に15灯ずつ、南東・南西に6灯ずつ投光器を設置し、北面と南面のバランスにも配慮している。今日、夜の京都を彩る金色に輝く五重塔の姿は、最新技術と綿密な設計の賜物なのだ。
南西から見た五重塔
LEDでますます広がるイルミネーションの可能性
「LED化により、従来のライトアップと比較して約51%の消費電力を削減しています。また、従来のライトアップでは、ランプが切れて交換した際に色味のバランスが崩れることがありましたが、LEDは長寿命で交換の必要性がなく、安定した光色を長期間にわたり得ることができます」(児玉氏)
設置したLED投光器は寿命6万時間(既設器具の約5倍)
こうした五重塔のライトアップが話題を呼び、桜や紅葉のライトアップや、寺院内部の仏像のライトアップなど、東芝ライテックの技術はさまざまなシーンに活躍の場を広げている。
消費電力が抑えられるLEDで、既存光源以上の演出効果を実現できるようになり、今後ますますLEDによるライトアップ事例は増えていくだろう。観光施設や商業施設はもちろん、ライトアップによる自治体の活性化など、そのノウハウは私たちの生活に多くの彩りを与えてくれるに違いない。
ライトアップ設置までではなく、ライトアップ後も調整のため何度も東寺へ訪れたという東芝ライテック 照明電材事業本部 大谷明日花氏(左)と同・児玉朋子氏(右)。今でも夜、新幹線に乗る時は、東寺北側が見えるA席を確保して確認してしまうそうだ。
関連サイト
※ 関連サイトには、(株)東芝以外の企業・団体が運営するウェブサイトへのリンクが含まれています。
東寺 – 世界遺産 真言宗総本山 教王護国寺
東寺 五重塔でLED照明(LED投光器)によるライトアップ開始 | 東芝ライテック(株)