世界潮流は“標準化” 東芝の戦い方とは? ~欧米で活用が進む、産業向けIoT基盤に乗り遅れるな!
2023/05/10 Toshiba Clip編集部
この記事の要点は...
- 「製造業の東芝」の誇りをかけ、産業向けIoTでの価値創造へ挑め!
- TIRA※1 は、東芝の産業向けIoT戦略に不可欠な、共創の見取り図!
- ハードウェアのラスト1マイルをもつ、東芝だからできるサービスとは?
「今回、『製造業として、東芝が目指すあり方とは?』という質問を受け、東芝IoTリファレンスアーキテクチャ(Toshiba IoT Reference Architecture、以下TIRA) が鍵を握ると思いました。この10年、東芝の最大の変化は、インフラやエネルギーといったBtoB事業へ舵を切ったこと。家電などのBtoC事業を行っていた頃は見えていたエンドユーザーに対し、BtoBの製品やサービスを通してどういう価値を届けているかが見えにくくなったと感じます」と、もどかしさを吐露するのは、東芝全体のデジタルサービス基盤の開発と提供を担う、デジタル・イノベーション・テクノロジー・センターの片岡欣夫氏だ。
デジタル化の進展や激変する社会情勢……。東芝に限らず、企業の存在意義が問われる時代に突入した。TIRAとは何か?片岡氏たち東芝は、どういう世界・価値を思い描いているのか?複雑化し混沌とする時代に、社会へ強い意志を持って投げかける「東芝の構想、価値観」が鮮やかに描き出された。
「製造業の東芝」という誇りをかけ、産業向けIoTへ挑め!
SDGsの9番目に掲げられる「産業と技術革新の基盤をつくろう」の実現に向け、国、企業、大学があらゆる技術を結集させ、イノベーションを起こそうとしている。なかでもIoT(Internet of Things)※2 を活用して、モノのデータを生かすことは社会課題の解決に有効とされ、欧米ではIIoT(Industrial IoT:産業向けIoT)への取り組みが熱を帯びる。ドイツは国家プロジェクトのインダストリー4.0を推進し、米国は「産業のインターネット」を提唱するIIC(Industrial Internet Consortium)を設立した。
「こうした世界の潮流に日本は出遅れている」と危機感を募らせる片岡氏。
「東芝の根底には、『人と地球が持続可能であるために価値を届ける』という思いがあります。その際、IIoT活用は不可欠です。厳しく言えば、IIoTを活用し、データの力を生かせなければ、価値のある企業として存続できません」(片岡氏)
株式会社 東芝 デジタル・イノベーション・テクノロジー・センター 企画室
ゼネラルマネジャー 片岡 欣夫氏
データの生かし方は様々だ。先ほど触れた、産業機器や設備からデータを取得する「IoT」、知識や行動など人に関わるデータを取得する「IoP(Internet of People)」、そしてサービスやシステムの稼働からデータを取得する「IoS(Internet of Service)」がある。それらデータをサイバー空間に集めて分析し、私たちにとって意味のある情報としてフィードバックすることで新たな価値が生まれる。
「BtoB事業では、東芝がやり取りをするお客様は企業です。その先のエンドユーザーと接する機会はほとんどありません。しかし、エンドユーザーがどういう価値を求めているかを理解し、お客様の製品・サービスへ迅速に反映させるために、東芝はもう一歩踏み込んだ提案をしなくてはいけない。
そのために重要なのがIIoTであり、データによって東芝が提供する価値を可視化できます。我々は、ハードウェアを持つ製造業だからこそ、価値がエンドユーザーに届く所まで気配りし、その誇りを大事にしたい。そういう意気込みで進めています」
このように片岡氏が熱を込めて語る、東芝のIIoT戦略とはどのような構想なのか。それを紐解くには、彼が開発・運用を推進する「東芝IoTリファレンスアーキテクチャ(TIRA)」、そしてTIRAに基づくサービス「TOSHIBA SPINEX」を理解することが必要だ。
TIRAは、東芝の産業向けIoT戦略に不可欠な共創のための見取り図である
TIRAは、「社内外の関係者が、IIoTの製品・サービスを開発し、実装する際の共通言語であり、見取り図でもある」とのこと。片岡氏と共に、TIRAの活用を推進する吉井大吾氏は、「知恵を集めて価値ある提案を創り出そうとする時、IIoTの様々な概念、技術などに対して同じ意味の言葉ないし見取り図を用いて、見方や世界観を共有する事がとても大切です。TIRAは、まさにIIoTの製品・サービスを共創する時の言葉であり、見取り図なのです」と説明する。そして次のように続けた。
株式会社 東芝 デジタル・イノベーション・テクノロジー・センター 企画室 戦略企画部
エキスパート 吉井 大吾氏
「物理的に目に見えるモノと違って、どのようにデータが収集され、管理され、分析・処理されるのか、その仕組みを共有し、納得するのは簡単ではありません。さらにデータ分析をもとに、どんなサービスを開発し、運用するかも重要な論点です。このような様々な論点に対して、皆で力をあわせてIIoTを推進する時、同じ見取り図を持つことがとても効果的です。
例えば、2つの部署AとBが一緒にIIoTサービスを開発するとします。Aの強みであるデータベース構築と、Bの強みであるデータ分析技術が、サービスの中でどういう位置づけになるかを示す『見取り図=TIRA』と考えてください。皆が同じ見方で議論するので、目に見えないものを話すときに必要となる『お互いの言葉を合わせるという大変な作業』を効率化し、より早く本題に入れます」(吉井氏)
TIRAの概要図
TIRAの概要は、上図を参照すると分かりやすくなる。TIRAは、「エッジ(モノ)」「プラットフォーム」「サービス」という3つの層と、セキュリティなど全体を支える「共通」で構成される。そこにモノ、データ、サービスなど7種の項目が割り当てられ、それぞれの関係が示されている。各層をつなぐ「バス」と呼ばれる接続口も用意されており、東芝社内はもちろん他社のハードウェアやサービスとも標準的な方法により繋げられる。
TIRAについて吉井氏は、「世の中がデータでどんどん繋がり、それが深く太く、密になっています。こうした、自社だけでなく他社の製品、技術、サービスと共創する戦略もTIRAという見取り図があるからこそ可能になります。私たちはこの見取り図のもと、 モノを工場で作るように、高い価値と品質を持つソフトウェアやサービスを効率的かつ継続的に作れる仕組みを構築中です」と解説する。
もう1つ、TIRAには大きな特徴がある。それは、製造業の東芝が持つハードウェアの強みだ。片岡氏は「ハードウェアを生かすべき」と語り、こう続けた。
「東芝は、製造業として約150年の実績、知見を持ち、ハードウェアの開発、実装、運営が得意としています。集めたデータをサイバー空間で分析し、フィードバックされた結果を現実世界で実現していくのはハードウェアです。いわばハードウェアは、データの力を生かしきるラスト1マイル。これが他社と東芝の違いであり、こだわりでもあります」(片岡氏)
現実世界におけるハードウェアの知見が、データの力を生かしきる事に繋がる
見据えるのは国際標準化だ。すでに、冒頭で触れた米国IIC※3では標準として反映されている。片岡氏は、「国際標準化によって、TIRAと簡単に相互接続できる企業が増えれば、指数関数的に新たな価値を生み出せます。また我々の知見を共有することで世の中に貢献し、東芝の存在感を高められる。その結果として、東芝が価値のある製品、サービスを届ける大きな追い風になります」(片岡氏)
ハードウェアのラスト1マイルをもつ東芝のサービス「TOSHIBA SPINEX」
このTIRAによって生まれたサービスは、すでに社会に価値を提供しつつある。それが「TOSHIBA SPINEX」だ。TOSHIBA SPINEXには様々なIIoTサービスが含まれ、その領域はエネルギー、製造、インフラ、物流である。設備・機器からデータを収集、蓄積し、見える化、分析と活用までを行える。
TOSHIBA SPINEXは、現在、エネルギー、製造、インフラ、物流を中心にサービスを提供
「SPINEとは脊椎のこと。社会を支えて価値を提供する存在になりたいという思いを込めました。脊椎から神経が伸びるように、様々なサービスや製品とつながることも意識しています」と片岡氏。現在、4分野24種類でサービスを展開するTOSHIBA SPINEX。典型的な事例を吉井氏が紹介してくれた。
「自動車業界で活用される、シミュレーション・プラットフォームがあります。これは、サイバー空間でバーチャル試作車を作るものです。それぞれの企業が独自に作成した部品のモデルが、バス(接続口)を通じて標準的な方法で連携されます。物理的に車を作る前にシミュレーションすることで、品質改善や生産性の大幅な向上が期待できます」(吉井氏)
TOSHIBA SPINEXによって、サイバー空間でバーチャル試作車を作れる
様々な業種・業態に広がるTOSHIBA SPINEXだが、吉井氏は「TIRAそしてTOSHIBA SPINEXは、まだまだ世界から認識されていません。そもそも東芝は、グローバルマーケットにおいてIIoTプレーヤーとしてほとんど認識されておらず、この分野をリードする同業他社と同じ土俵にいることも認知されていませんでした」と率直に語る。しかし、「そこに、TIRAとTOSHIBA SPINEXという形で、東芝が一丸となって目指すIIoTのあり方を示すことで、初めて競争の場に立ち、そして彼らに追いつき、勝ちに行く準備ができました」と力強く続けた。
片岡氏は、自動車メーカーに例えて東芝の現状を話した。
「あらゆる車種を揃える自動車メーカーは、市場で確固たる地位を築いている強者です。これに対して、特徴的なエンジンやデザイン、運転の楽しさを謳い、全く異なる戦略で攻める自動車メーカーも存在します。
そのメーカー名を聞けば、はっきりと車両が想起される。我々も同じで、巨人に真っ向から挑むのではなく、東芝ならではの視点、強みをはっきりとさせていきます。その視点と強みから生まれたのが、TIRAそしてTOSHIBA SPINEXです」(片岡氏)
最後に、吉井氏と片岡氏は、TIRAとTOSHIBA SPINEXが見据える未来をこのように語ってくれた。
「TIRAやTOSHIBA SPINEXによって東芝内外にある様々な共創の壁を突き抜いて、価値創造力のさらなる高みを目指していきます。もちろん、これまでのやり方にも理があり、多くのノウハウも蓄積されていて、ある範囲では最も合理的です。その範囲を大きく広げる新しいやり方は、ノウハウもなく先行きは不透明で、これまでにない負担も発生すると思います。しかし、競合他社に追いつき勝つ可能性は、新しいやり方が高いと信じて活動しています。『壁を突き抜けば、なんと東芝はこんなに強いんだ!』という世界を皆で見たいという思いです」(吉井氏)
「どのような世の中になっても、東芝は、最後の最後はエンドユーザーに価値を届ける部分を、変わらず大事にします。データの力を生かしたサービスの価値を現実世界に返していくために、ハードウェアを持っている我々がやるべきことはまだまだ多い。そのためにも、社内外の様々な技術を、オープンに議論できる場を確保していきます」(片岡氏)
※1 Toshiba IoT Reference Architecture
※2 従来インターネットに接続されていなかったモノが、サーバーやクラウドサービスに接続され情報交換をする仕組み
※3 Industrial Internet Consortium:産業用インターネットの実装と、標準化を目的に、2014年に設立された国際団体
—
世界潮流である“標準化”を踏まえ、TIRAやTOSHIBA SPINEXを業界アナリストや業界団体など主要インフルエンサーに紹介するソートリーダーシップ活動については、「グローバルでの社内外共創を促す、ソートリーダーシップによる認知向上 ~サステナビリティへ、技術標準化の取り組み」を参照。