なぜ漢字は正しく変換できる? 今日に生きる日本語入力技術のルーツ

2016/09/21 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 約40年前の9月26日、初の日本語ワープロを発表
  • 日本語変換技術は今日のスマホにも活用
  • 不可能といわれた予測変換を実現
なぜ漢字は正しく変換できる? 今日に生きる日本語入力技術のルーツ

今や生活必需品となっているスマートフォンやパソコン。我々がLINEやメールなどで一日に打つ文章量も相当なものだろう。
そのなかで、「返信します」と打ったつもりが「変身します」と変換されてしまったり、「会議」と打ったつもりが「懐疑」になってしまうミスは、いかにもありがち。日本語の変換とは、なかなか難しいものだ。

 

その困難な日本語入力を世界で初めて実現したのが、東芝の日本語ワードプロセッサ、『JW-10』であった。
来る9月26日は、「ワープロの日」に設定されている。これは1978年の同日、この世界初の日本語ワープロが誕生したことにちなんだものだ(初出荷は1979年2月)。

 

およそ40年を経た現在、ワープロ端末自体は市場から姿を消しつつあるが、代わりに我々の生活では、パソコン上で稼働するワープロソフトが不可欠なものとなっている。また、日常的に使用する携帯電話やスマートフォンにも、元祖日本語ワープロの技術が生かされている。

世界初の日本語ワードプロセッサ

世界初の日本語ワードプロセッサ『JW-10』

世界初の日本語ワードプロセッサ『JW-10』

ワープロといってもこの端末、まだまだ今日我々がイメージするそれとはかけ離れたものだった。事務机をそのまま筐体としたようなサイズで、重量220kg。大卒初任給が約10万円という時代において、価格は実に630万円。もちろん文書の伝送機能などはなく、内蔵ハードディスク利用で200ページ分(40字×40行設定)、8インチ・フロッピーディスクを使用した場合で60ページ分の保存を可能とした。今日の記憶媒体からすれば隔世の感があるが、『JW-10』は当時、革新的な発明だったのである。

 

漢字とかなという複数種類の文字を併用するのは、英語にはない日本語独自の文化。日本語の文章を入力するには独自の技術が必要になる。しかし、当時これを機械に認識させることは、技術的に困難を極めた。漢字を1文字ずつ単体で認識することはできても、同音異義語を判別して適切な変換を行うことは難しく、文脈から言い回しや熟語を判断することなど、遠い夢だった。

 

『JW-10』は「かな漢字変換」方式でこの問題を解決し、世界初の日本語ワープロとなった。これは前後の文字との関連性を理解し、単語として解釈する「意味理解」を実現させた、まさしく予測変換技術の源流というべき機能である。

日本語の語彙・文法をワープロに教えこむことで日本語の入力を実現

『JW-10』ではまず、日本語独特の構文解析、文節の形態素解析を機能に取り込んだ。いわば、ワープロに日本語の文法を教え込んだのだ。

 

これに加え、辞書機能を拡充。普通単語5万4,000語、固有名詞8,000語をあらかじめ辞書機能に登録したほか、ユーザー辞書に普通単語1万語、固有名詞8,000語の登録を可能にすることで、変換精度を飛躍的に向上させた。ワープロに大量の日本語の語彙も教え込んだということだ。

 

それによって、文章の前後関係から適切な変換語を自動的に判断させることに成功したのだ。今日、我々がパソコンやスマートフォンでの日本語入力をスムーズに行えるのは、まさにこの技術が誕生したおかげである。

 

なお、1980年7月には後継機である『JW-10モデル2』が登場。編集機能や表示モニターを拡大し、価格も340万円に抑えられた。これ以降、ワープロは目覚ましい進化を遂げていく。80年代中盤に全盛期を迎えた東芝のパーソナルワープロ「Rupo」シリーズも、当然『JW-10』の系譜に連なるモデルである。

東芝パーソナルワープロ「Rupo」シリーズ

東芝パーソナルワープロ「Rupo」シリーズ

特筆すべきは、初代『JW-10』発表の時点ですでに、日本語ワープロ開発を手がけた総合研究所(当時)の森健一氏が、近い将来の伝送対応と小型軽量化を主張していた点だ。今日のパソコンやスマートフォンを見れば、その慧眼に恐れ入るばかり。

現在のパソコンやスマートフォンにも初代日本語ワープロの技術と思想が生きている

現在のパソコンやスマートフォンにも初代日本語ワープロの技術と思想が生きている

そもそも日本語ワープロ開発時に課されたミッションは、「場所を問わずに手書きより迅速な入力を実現する」ことであったという。これは今日、我々が享受している利便性そのものだ。日頃、何気なく利用しているパソコンやスマートフォンだが、「ワープロの日」に合わせて、先達の尽力に思いをはせてみてはいかがだろうか。

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