日本から世界へ、過去から未来へ 東芝の電気機関車が描く軌道

2018/07/18 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 東芝は1923年から電気機関車を手掛ける老舗企業
  • 8軸モーターのハイパワー機関車や日本初のリチウムイオン蓄電池使用のハイブリッド機関車もラインアップ
  • 省エネモーター、IoT、AI…。新技術と並走する次世代の電気機関車とは?
日本から世界へ、過去から未来へ 東芝の電気機関車が描く軌道

私たちの日常を支える物流。海外では配送拠点から各家庭までのいわゆる「ラスト・ワンマイル」におけるドローンの利用が急ピッチで実用化に向かうなど、その姿も変貌しつつある。

 

しかし、いまだに重要な位置を占めるのが鉄道による貨物輸送だ。計画的・効率的に構築されたネットワークで長距離輸送のコストパフォーマンスは他の追随を許さない。トラックなどの輸送手段を鉄道などに転換して環境負荷の低減をねらう「モーダルシフト」も注目されているほどだ。

 

そこで、文字通り鉄道貨物をけん引するのが「電気機関車」である。東芝は1923年(前身の芝浦製作所時代)に初めて電気機関車を製造して以来、国内はもとより、中国、インド、トルコ、ニュージーランド、南アフリカなど各国に電気機関車を送り出してきた。交通インフラの中でも、東芝が長年に渡って注力してきた分野だ。

 

今回、東芝における「ミスター機関車」こと宮崎玲氏と「次世代機関車の設計リーダー」山田真広氏、電気機関車設計・製造を手掛ける両人のコメントを通し、日本から世界に広がる「電気機関車」の軌道を追っていきたい。

東芝インフラシステムズ株式会社 鉄道システム事業部 車両システム技術部 宮崎 玲 氏 東芝インフラシステムズ株式会社 府中事業所 交通システム部 山田 真広 氏

写真左:東芝インフラシステムズ株式会社 鉄道システム事業部 車両システム技術部 宮崎 玲 氏
写真右:東芝インフラシステムズ株式会社 府中事業所 交通システム部 山田 真広 氏

電気機関車製造の拠点で開発・設計の思想を聞いた

EH500形式交直流電気機関車

EH500形式 交直流電気機関車

電気機関車は、電気回路に始まって主変換装置、モーターなどの駆動用機器、ブレーキ、ベアリングなど、実に多様なシステム、パーツから構成される。東芝は電気機関車の車両と電気システムの設計開発をワンストップで手がけ、国内外に納入してきた実績がある。システムや装置、パーツなどを全て盛り込み一両の電気機関車を作り上げるのは大変なノウハウが必要なのだという。

 

「ここ府中事業所は、北海道から首都圏まで一両で運用できるEH500形式、通称『ECO-POWER金太郎』など、皆さんもおなじみの電気機関車を多数送り出してきました。私も入社以来、ハイブリッド機関車のHD300形式、青函トンネルなど新幹線・在来線の双方の車両が走行できる共用走行区間に対応したEH800形式、最近では名古屋鉄道に納入したEL120形などの設計、製造を担当してきました」(山田氏)

 

「私は入社以来、新幹線をはじめとする車両用機器、交通システムに携わってきましたが、電気機関車では海外向けが多いですね。印象に残るところでは南アフリカに納入した10E形など、タフな電気機関車を多く手掛けています」(宮崎氏)

南アフリカ向け10E型電気機関車

南アフリカ向け10E形電気機関車

ハイブリッド、ハイパワー「8軸」、――東芝電気機関車のオリジナルとは

山田氏が手掛けたHD300形式は、ディーゼルエンジン、発電機と蓄電池を動力源とする、リチウムイオン蓄電池を用いた国内初のハイブリッド機関車。動力源が電気かディーゼルの二択だった機関車に新たな分野を切り拓いた。

HD300形式 ハイブリッド機関車

HD300形式 ハイブリッド機関車

「ハイブリッド機関車はCO2の低排出に貢献するなど、時代に即したエコな機関車で、貨物駅構内での入換作業に強みを発揮します。これは自動車で考えていただいたら分かりやすいでしょう。ハイブリッド車は高速道路を飛ばすよりも、発進や停車を繰り返すことが多い街中での利用時にCO2 排出削減や騒音減少といったメリットを発揮しますよね」(山田氏)

 

追求するのはエコだけではない。EH800形式は日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)と東芝が共同で開発した国内初の「在来線と新幹線の双方の車両が走行可能な共用走行区間に対応した車両」。そして、国内では東芝だけが製造している8個のモーターを搭載した「8軸機関車」でもある。

EH800形式 交流電気機関車

EH800形式 交流電気機関車

「例えば、4軸のEL120形は50tクラスですが、8軸のEH800形式は100t超。軸数が多いほどモーターの数が多くなり、その分パワーを出せます。8軸を現在唯一生産しているということは、国内向けで最も馬力のある機関車を作っていることを意味するのです」(山田氏)

 

海外向けの電気機関車はどうか。宮崎氏によると、ハイパワーに加え、日本メーカーならではの特性も注目されるそう。

 

「皆さんもテレビなどでご覧になったことがあると思いますが、南アフリカなどの海外では6重連で長さが2km以上におよぶ貨物列車を引く機関車が珍しくありません。必然的に圧倒的な馬力が求められますが、見逃せないのが稼働率。稼働率は鉄道事業者の収益に直接影響するため、契約時に一定の稼働率を数値として求められることも少なくありません。故障しにくいこと、もし故障してもすぐにフォローし、前線に復帰できるバックアップ体制も評価をいただいています」(宮崎氏)

 

様々な領域でエコへの関心とニーズが高まる中、パワーと稼働率が求められてきた海外でもハイブリッド機関車への関心も高まりつつある。ハイブリッド機関車の納入実績を国内で積んできた東芝の知見は大きな強みになるだろう。そして、さらなるチャレンジもある。

 

「国内ではPMSM(永久磁石同期電動機)という、消費電力を大幅に削減できる高効率なモーターも登場しています。省電力に加えて、全閉構造なので内部清掃が不要、メンテナンスコストも軽減できるので、今後さらなる浸透が期待されます」(山田氏)

PMSM(永久磁石同期電動機)

PMSM(永久磁石同期電動機)

次世代型のモーターだけではない。より「安心・安全」な物流の実現に向けて、コンピューターを活用した動力支援システム、画像処理を活用した監視システムなど、IoTやAIを取り入れた新たなソリューションの開発も進む。電気機関車は、これら新技術との確かな並走を見せ始めているのだ。

 

「『鉄道のIoT化』が今の私たちのキーワードです。今後も最新技術を積極的に取り入れ、お客さまに寄り添って、東芝ならではの電気機関車を送り出していきたい」(山田氏)、「求められる機関車のニーズは国によっても違う。私たちの製品、技術、システムのすべてを組み合わせ、新たなものを提供していければ」(宮崎氏)と、2人は市場、そして顧客のニーズに寄り添う志を語ってくれた。

宮崎 玲 氏 山田 真広 氏

時代の変化と新技術――新たな風を受け止めつつ、知見と技術を集積し、製品を送り出す気概と矜持。疾駆する電気機関車には、府中事業所の伝統と技が脈々と息づいている。

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