見えないものを見るために 非破壊検査装置が迫るナノレベルの世界

2016/03/02 Toshiba Clip編集部

見えないものを見るために 非破壊検査装置が迫るナノレベルの世界

「非破壊検査装置」と聞いても普段あまり耳にすることがないため、ピンと来る人は少ないかもしれない。実は社会の様々なところで活躍している。

 

そもそも非破壊検査装置とは、読んで字のごとく、機械部品や構造物の内部を、対象物を壊さずに覗き見ることができる機械だ。同じような技術を使用している身近な例を挙げれば、空港の手荷物検査や病院のレントゲン検査の装置などがイメージしやすいかもしれない。

 

今回紹介する東芝の非破壊検査装置は、産業用に特化したものだ。例えば、電子部品のように非常に微細なものや、逆にマンモスの化石のように巨大なもの、さらには文化財のように触れることすら注意を要するものなどの中身の構造を検証、解析することができる。

 

今回様々な用途に向けた非破壊検査装置を生産している、東芝ITコントロールシステムの府中技術センターに潜入。実際にオウムガイの貝殻などを使って透視実験をしてみたほか、立体的に対象物の「復製」にも挑戦。2016年1月13日より販売開始した最新の非破壊検査装置「TXLamino」を中心に、モノの中を透視する最新技術の魅力に迫った。

オウムガイの貝殻で透視実験

東芝ITコントロールシステム 検査・メカトロシステム営業技術部長 富沢英行氏
東芝ITコントロールシステム 検査・メカトロシステム営業技術部長 富沢英行氏

「弊社の非破壊装置の検査対象は、人でなければなんでもOKです。今回はこんなものを用意してみました」

 

そう話してくれたのは、東芝ITコントロールシステムの富沢英行氏だ。普段あまり馴染みのない非破壊検査装置の真価を体感できるようにと、富沢氏が用意しておいてくれたのは、オウムガイの貝殻。インタビューの前に、早速、非破壊検査装置で製品を透視するとどのように見えるのか実験してもらった。

非破壊検査装置によるオウムガイの透視の様子
いざオウムガイの貝殻を設置!

 

非破壊検査装置によるオウムガイの透視の様子
一体、内部はどんなふうになっているのだろうか?

 

非破壊検査装置によるオウムガイの透視の様子
あらゆる角度からの解析で、オウムガイの貝殻の内部が丸裸に!

「非破壊検査装置はX線を応用したシステムです。X線が製品を透過できる性質を使って、外から見えない製品の内部を画像化することができるので、このようにオウムガイの貝殻の内部もしっかり画像化することができます。病院にあるレントゲン装置やCTスキャナなどは医療用ですが、私たちがつくっているのは産業用の非破壊検査装置です。対象物は何でもOKです

製品の安全や品質を守る

さまざまモノの内部を把握できる非破壊検査装置だが、どのようなシーンで使われることが多いのだろうか。

 

「一番多いのは自動車関係ですね。例えば、車の部品などは不備があると、人命にかかわることもあります。ですから、車のエンジンやアルミホイール、ハンドルなどは、素材内部に小さな気泡が入っていないかなどをチェックするために、非破壊検査装置で全数検査を行います。その他に、半導体などでも全数検査が行われます。半導体の場合は、回路をつなぐワイヤの結線が切れていないかをチェックしたり、はんだで接合しているところがきちっとつながっているかなどを見ていきます」

富沢部長自らホイールを解析
富沢部長自らホイールを解析!

 

非破壊検査装置による解析例:小型鋳物(アルミニウムダイカスト)

解析例:小型鋳物(アルミニウムダイカスト)

新製品「TXLamino」は、ナノフォーカスのX線発生装置(X線照射寸法は0.25μm)と有効400万画素のカメラを搭載しており、これまでの技術では存在が確認できなかった対象物内部の微細な部分まで確認することができる。従来の非破壊検査装置ではX線照射寸法は1μm、カメラは100万画素であり、どちらも単純に4倍精密さに磨きがかかったことになる。

非破壊検査システム
非破壊検査システム(東芝ITコントロールシステム)
http://www.toshiba-itc.com/cat/index.html

また製品名に冠されている「Lamino(ラミノ)」は、傾斜をすることで様々な角度から製品を捉えることができる「ラミノCT」という技術からきている。ラミノCTを採用することで、特定の角度からだけでは見逃してしまうような位置にある構造物内部の傷などの検出にも対応可能だ。これらの技術により、電子基板や各種電子部品の検査がより高い精度で行えるようになった。

品質が求められる半導体や電子基板。全数検査が必須だ
品質が求められる半導体や電子基板。全数検査が必須だ。

 

基盤を「TXLamino」で透視する様子
今度は半導体を実装した基板を最新機器「TXLamino」へ

 

基盤を「TXLamino」で透視する様子
どのように見えるのだろうか?

 

基板 実装部品の拡大撮影画像
実装部品の拡大撮影画像:微細な内部構造もしっかりと確認できた

 

3次元の解析も可能に

「TXLaminoには、ラミノグラフという指定の断面を連続で検査していく技術が搭載されているのですが、それを使うと3次元データもとることができます。例えば、半導体などを検査するときに、回路の結線がきちんと繋がっているか調べるとき、平面だとわかりづらい場合があります。断面を連続で検査し、層を重ねて立体にしていくことで、正確な検査が可能です。また、3次元データがとれるため、そのデータを使って3Dプリンタで製品を復製することもできるんです。実は先ほどのオウムガイの貝殻も復製してみました」

オウムガイの貝殻を復製
1、オウムガイの貝殻を復製

 

バイクの部品を複製
2、バイクの部品もこの通り

 

複雑な内部構造の部品でも精巧なコピーができる
3、複雑な内部構造の部品でも精巧なコピーができる

 

ご覧のように、本物と寸分たがわぬコピーを簡単につくることができる。③の部品はベアリングで、中にある丸い球の部分は、枠の中で独立して回転する仕様になっているが、複製したものでもどこかに引っかかることなく、しっかりと回転するから驚きだ。いかに元になった3次元データが正確であるかがうかがえる。せっかくなので、まったく関係ない魚の透視画像から骨格だけを取り出して複製をつくってもらった。透視したのは魚丸ごとであり、骨格ではないので念のため補足する。

魚の骨格データのみを取り出して復製
魚の骨格データのみを取り出して復製!

見えるものを「見せる」工夫

非破壊検査装置の進化にはX線の照射や検出などの最先端技術の向上も欠かせないが、実は画像処理の工夫も重要になってくる。対象物が最先端の技術によって見えるようになったとしても、「それをどう見せるか」ということが肝心である。せっかく見えても、画像としてどうにも分かりにくいというのでは、進化とは言えない。

 

TXLaminoでは、液晶テレビなどでも最近使われている高画質4Kモニターを採用したほか、ソフトウェアでも画像の補正処理や対象物のセンタリング機能の性能が向上しており、検査をするための利便性は格段にあがった。3Dデータを任意の断面で動かし、動画で表示することもできる。検査対象の断面のどの層のどの部分に欠陥があるかを感覚的に捉えることも可能だ。

オウムガイの貝殻内部の様子
この動画は2016年3月2日に公開されたものです。

純粋に技術を追い求める

東芝ITコントロールシステム社長 橋本隆氏
東芝ITコントロールシステム社長 橋本隆氏

一般的には馴染みのない非破壊検査装置だが、弊社に入社してくる若い技術者の中には、このシステムをやりたいといって入ってくる人も多いと、社長の橋本隆氏は言う。

 

「意欲を持って入社する若い人は、技術を追求するような人が多いですね。今まで見えなかったものがどこまで見えるか、そういう技術を追求するということは、純粋に技術への挑戦のしがいがあります。特に弊社で扱っている製品は、モノを対象としており(人体を対象としない)透過力の強いX線をあてることもできる。見えないものを見るということを追求できるんです。そこがただの測定器や計測器との一番の違いですね。何も見えていないところから、何かを見えるようにする。そして、さらにそれを肉眼で見ていかに分かりやすくするか。これは技術屋としてのこだわりですね」

 

これまでも大きな事故の際の原因解析や、精密機器のトラブルの評価など、非破壊検査装置の”見えないものを見る技術”が私たちの生活の安全性を向上させてきた。今後は事故の検証や製品の検査だけでなく、エネルギー分野や医療分野での活躍も期待されると、富沢氏は語る。

 

「エネルギーの分野では、一例としてメタンハイドレードの分析などでの活用が見込まれ、人類の課題でもある新エネルギーの研究や開発で役立つことが期待されます。また医療分野でも薬剤の検査などへの適用が期待されています。現在、乾電池の生産ラインに検査装置が組み込まれています。これと同様に、高速で薬剤が流れる生産ラインに組み込んで検査をできるように薬剤メーカーさんと共同で開発を進めています。薬というのはやはり体内に取り込むものなので、異物の混入は避けなければいけません」

電池の電極に不備があるかどうか、生産ラインに組み込んだ装置で高速に判別する技術が普及している
電池の電極に不備があるかどうか、生産ラインに組み込んだ装置で高速に判別する技術が普及している。薬剤への応用が期待される。

見えないものが見えるようになることで、私たちの生活の安全は大幅に向上するだろう。今までは中を見る手立てがないという理由で、勘や経験でなんとかしてきたような製品の世界でも、これからは正確に検査をすることがもっと一般化してくるだろう。

私たちの住む世界には、表からは見えないが内部まで調べなければならない物質や製品が多数存在している。非破壊検査装置の進化は、これからさらに未知のものとの新たな出会いを生み出しくれることだろう。

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