日本人に最適化したゲノム解析ツール 『ジャポニカアレイ®』が拓く未来とは!?

2017/08/02 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 従来のゲノム解析は高いコストと長い作業時間を要していたが…
  • 解析ツール「ジャポニカアレイ®」が登場!
  • 高齢化社会を支えるヘルスケア社会基盤「日常人間ドック」とは?
日本人に最適化したゲノム解析ツール 『ジャポニカアレイ®』が拓く未来とは!?

遺伝情報を解析することで、かかりやすい疾病を予測したり、あるいは効果的なダイエット法を知ったり、我々の生活においてゲノム解析は着実に身近なものになりつつある。

 

そのような中、大学などの研究機関や病院、製薬企業などから高い注目を集めているのが、日本人に見られるSNP(※1)を解析し、高い精度で解析データを取得できるツール「ジャポニカアレイ®(※2)」である
※1 SNP:一塩基多型。ヒトのゲノムDNAの、約30億個の塩基はすべて同じ並びではなく、一塩基だけが異なり、多様性が生じることがある。これをSNP(スニップ)という。
※2 ジャポニカアレイ®は国立大学法人東北大学の登録商標です。

日本人ゲノム解析ツール「ジャポニカアレイ®」

日本人ゲノム解析ツール「ジャポニカアレイ®

日本人のゲノム情報に最適化することで、リーズナブルかつ短期間での解析を実現したこの「ジャポニカアレイ®」。このツールの普及により、日本人の健康を取り巻く事情が今後、飛躍的に改善される可能性がある。開発の背景と展望について、追っていこう。

ゲノム解析ツールの常識を打ち破る低価格を実現

「すべての生物の設計図であるゲノムは、およそ30億の塩基対からなっています。これを従来は次世代シークエンサーで読み込み、解析していましたが、高いコストと所要時間を要することがネックとなっていました。1人あたりの解析に、50万円ほどのコストと、1カ月以上の期間がかかっていたのです。これをより安価に、1~2万円程度に抑えられないかというのが、『ジャポニカアレイ®』開発の根底にある考え方でした」

 

そう語るのは、工学博士の高山卓三氏(東芝・技術統括部ソリューション開発センター)だ。

東芝・技術統括部ソリューション開発センター 高山卓三氏

東芝・技術統括部ソリューション開発センター 高山卓三氏

「ジャポニカアレイ®」はもともと、東北大学東北メディカル・メガバンク機構ゲノム解析部門との共同プロジェクトによって誕生したもの。COIプログラム(※3)の1つとして開発された。
※3 センター・オブ・イノベーション プログラムの略。実用化の期待が大きい異分野融合・連携型の基盤的テーマに対し、集中的な支援を行う、文部科学省のプログラム。

 

「病気というのは、遺伝因子・環境因子・生活因子が複雑に絡み合って発症するものです。これまでは、環境因子や生体因子に関する研究は積極的に行われてきたものの、遺伝因子の解析にはコストがかかるため、思うように研究が進められずにいました。これを加速する意味で、短期間で、かつ1人あたりの費用が約2万円という『ジャポニカアレイ®』の登場は、非常に有意義であるといえるでしょう」(同・高山氏)

ジャポニカアレイ® ジェノタイピングサービス3つの特長

実際、2014年12月の発売以来、「ジャポニカアレイ®」は今日までにおよそ5万人を解析してきたというから、その反響がうかがえる。

「ジャポニカアレイ®」は高齢化社会の健康に寄与するか!?

では、「ジャポニカアレイ®」はどのようにして、これほどの低コスト化を実現したのか?

 

「人間が持つ30億の塩基対のうち、個人差が認められるのは実は約2,400万箇所のみ。さらにこの約2,400万カ所の情報に関して、東北大が日本人1,000人分のデータを検証して研究を進めたところ、64万のグループに分類できることがわかりました。『ジャポニカアレイ®』ではこの特性に着目し、ごく限られたデータ量から、約2,400万箇所分に近いデータを採取する手法を採っています

ジャポニカアレイ®によるインピュテーションの概要

これはいわば、圧縮ファイルを解凍するイメージに近いのだと高山氏は解説する。日本人1,000人分のデータをベースにしていることから、日本人に固有な体質・疾患の関連遺伝子を大規模に探索研究するための基盤解析ツールとして研究が広がっているが、最近は日本だけでなく、韓国や台湾など生物学的に近しい国の研究機関からも、「ジャポニカアレイ®」の引き合いが後を絶たないという。

 

こうしてゲノム解析の大幅な効率化が実現されたことは、各機関の研究を劇的に飛躍させる。自ずと、高齢化にあえぐこれからの日本社会を支える礎となることが期待されている。

 

「実のところ、生活習慣病がどのようにして発症するのか、確定的な原因はまだ分かっていません。ただ、遺伝因子に関する情報と食生活や運動量などの生活因子や環境因子に関する情報を複合的に多層解析させることで、疾病の発症リスクや発症予測に用いることができるようになります。例えば、高血圧や糖尿病は、遺伝情報をもとに生活環境を改善することで発症を遅らせたり、防いだりすることが可能だと思っています。将来的には『日常人間ドック』を実現し、高齢化社会で機能するヘルスケア社会の基盤を構築することを目指していきたいですね」

東芝・技術統括部ソリューション開発センター 高山卓三氏

ウェアラブルセンサなどで日常生活からさりげなく環境因子・生活因子を把握し、遺伝因子と結び付けて、各個人に最適化した医療を行う――こうした「日常人間ドック」ともいうべき取り組みが、一人ひとりの将来的な健康リスクの認識やライフスタイルの見直しに結び付いていく。

 

つまり遺伝の関与度をあらかじめ知り、疾病を予防するのは非常に大切なことなのだ。発症の可能性を早めに知っておけば、早期診断・治療につなげることも可能となる。

 

先進国の中でも特に高齢化が進んでいる日本。「ジャポニカアレイ®」の登場で、今後、個別化予防・個別化医療の実現が加速し、この分野における日本の国際競争力がますます向上していくことになるだろう。

東芝・技術統括部ソリューション開発センター 高山卓三氏

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