安全運転のさらに先へ 完全自動運転につながる小さな頭脳

2016/01/06 Toshiba Clip編集部

安全運転のさらに先へ 完全自動運転につながる小さな頭脳

全国の交通事故の発生件数は年々減少しており、警察庁交通局の調べによると、2014年の交通事故死者の数は4113人となり、2013年の4388人から6.3%減少した。2001年以来14年連続の減少となっており、過去最悪だった「第一次交通戦争」とも呼ばれた1970年の1万6765人の1/4以下にまで低下している。

 

これは自動車がまだ普及していない1949年以来の低水準であり、行政や自動車メーカーの努力が着実に実をむすんでいる形だ。特に自動車の衝突防止技術の進歩は目覚ましく、いまや高級車から軽自動車まで幅広く採用されている。事故が起きそうになっても「ぶつからない」「自動で止まる」ことで事故の発生や死傷者数を減らすことができるこの技術には、高度な画像認識を行うプロセッサの存在が欠かせない。

 

東芝では、カメラからの入力映像を画像処理した後に人・顔・手・車両などの対象物とその動きを検出して、検出結果を出力する画像認識プロセッサ「Visconti™」を開発。すでに本システムを搭載した車両が市場に展開されている。今回は安全運転を陰で支える最新技術の秘密から自動運転の発展を探った。

小さなチップに詰まった高度な画像認識能力

そもそも衝突防止技術というのは、カメラの画像やレーダーの反射波などから障害物を検知し、危険と判断したらブレーキをかけるというものだ。一見単純な仕組みに思える機能だが、常に状況が変化していく車の走行時に、これらの処理を瞬時に実行するのは非常に難しい技術が求められる。Visconti™では車載カメラから送られる画像情報を使用し、歩行者や車、障害物の検出を一つのチップでこなすというから驚きだ。

 

加えて「前方障害物」の他に「歩行者」「信号」「標識」「車線」などを、それぞれ検知し、別々の対象物として判断することができる。それにより、ドライバーが認識すべき情報を見落とさないように運転をサポートすることが可能になった。まさに次世代の技術ともいえるVisconti™だが、どのようにしてそれだけ多くのものを認識するのだろうか。

 

画像を認識するには、まず画像の中の物体が何であるかを把握する必要がある。例えば、歩行者を認識したい場合、カメラに映った画像のうちどれが歩行者に相当するのかを判別しなければならない。

 

Visconti™には、どんな形状の物体が歩行者なのかをデータにした辞書が備えられており、大量の画像データの特徴を辞書と照合する。それに適合したものだけが歩行者とみなされるわけだが、その際に重要となる特徴の抽出は、東芝独自の高度な検出技術が活かされている。

 

運転時にドライバーが必要な情報をくまなく認識し、車やドライバーへと送ることは、事故の発生を未然に防ぐことにつながる。独自の技術により、歩行者との距離や動く方向なども認識できるほか、複数のカメラから異なる画像を取り込み、それらを同時に認識することも可能なVisconti™には、運転時の更なる安全性の向上への重要なピースとして、大きな期待が寄せられている。

 

夜間や土砂崩れなどにも対応

Visconti™ 歩行者識別画面(夜間)

また最新のVisconti™では、その性能がさらに向上している。従来から使用していた明暗の差で物体を識別する「輝度勾配方向共起ヒストグラム」だけではなく、色情報による識別を行う「色勾配方向共起ヒストグラム」など、4種類の処理方法を追加することで、夜間など、背景と対象物の明暗の差が少ない画像に対しても高い認識性能を実現。その歩行者認識能力は、日没後の暗闇でも昼間の歩行者認識と同等のレベルにまで高まっている。夜間の運転は視界が悪いこともあり、小さな油断が事故につながるケースも多い。肉眼をはるかにしのぐ認識性能を誇るVisconti™の搭載は、暗闇での事故を大きく減らすことにつながるだろう。

三次元再構築技術を用いた路上障害物の検出結果

そのほか、単眼カメラ映像から三次元の立体情報を推定する、三次元再構築技術も実現した。三次元再構築技術とは一台のカメラの時系列画像情報を元に、距離、高さ、幅を再構成するという技術で、事前学習のない落下物・落石・土砂崩れなどの予期せぬ不特定の障害物の検知を可能にする。落下物や落石などによる事故は、十分に注意をしていても防ぎきれないことも多い。機械によるサポートがあれば、危険な道を通る際にも安心して運転をすることができるようになる。

 

これらの新しい技術は、これまで人間の能力だけでは防ぎにくかった事故を減らしていくだけでなく、自動車なしでは生活が不便な地方の生活にも大きく貢献するはずだ。

三次元再構成技術を用いた障害物の検知

画像認識プロセッサが創る未来

近年では様々な分野で高い技術力が発揮され、徐々に機械が人に代わって仕事をするという流れができつつある。自動車の世界でも2020年代の後半にはドライバーの操作を必要としない完全自動運転の実現へ向け、その動きが加速している。技術研究はもちろんのこと、各国で安全運転支援への法的取り組みも始まっており、自動運転の実現はもはや夢物語ではなくなってきた。画像認識プロセッサにも、より高度な技術が求められていくだろう。

この動画は2019年5月30日に公開されたものです。

関連サイト

※ 関連サイトには、(株)東芝以外の企業・団体が運営するウェブサイトへのリンクが含まれています。

http://toshiba.semicon-storage.com/jp/semiconductor/product/image-recognition-processors-visconti.html

Related Contents