半導体が拓く自動車の未来 ~車載半導体最前線~

2018/08/22 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 半導体市場のトレンドは「車載半導体」!?
  • 自動運転の要になるのは周囲認識用の半導体
  • 自動運転の実現に向けた挑戦とは?
半導体が拓く自動車の未来 ~車載半導体最前線~

スマートフォンやタブレット、パソコンをはじめ、テレビやエアコンなどデジタル家電に欠かせない部品である半導体。だが、半導体はこれらのモバイル機器や家電だけでなく、自動車にも「車載半導体」として多く搭載されており、その存在感が年々大きくなっていることはご存じだろうか。車載半導体の世界市場は2016年から2024年の8年間で約200億ドル拡大するという調査結果もある。(注1)

 

自動運転をはじめ、電子化されたメーターなどの表示機器や電気自動車(EV)の普及なども背景に、自動車1台あたりの半導体製品の使用数は増加。その用途も、カーオーディオやドアミラーの開閉などの周辺機能から、自動車の走行や安全支援のフィールドにも拡大している。ここでは、日々着実な進化を遂げている自動運転を切り口に、車載半導体の今後を展望していこう。

 

(注1)出典:Strategy Analytics

自動運転の要。歩行者を認識する半導体

一般に、自動運転の実現には、センシング、認識、判断、制御の4つの要素が必要とされている。東芝が開発・販売を行っている画像認識プロセッサ「Visconti™」は、カメラからの映像を処理して、自分が運転する車周辺の車両や歩行者、道路標識などを検知する「認識」の役割を担っている。

自動運転を構成する4要素

自動運転を構成する4要素

「認識」は、その後の車両操作の前提となる情報を提供する非常に重要なものであり、認識の精度が自動運転車の安全性能を左右する大きな要因といっても過言ではない。その分、高いレベルでの認識性能が求められる。

 

「車載向けの画像認識では、周囲が暗いなどの悪条件下でも認識性能が高いこと、低消費電力で処理できることが求められています」

 

そう語るのは、東芝デバイス&ストレージ株式会社の惠谷文彦(えや・ふみひこ)氏だ。

東芝デバイス&ストレージ株式会社 ミックスドシグナルIC事業部 惠谷文彦氏

東芝デバイス&ストレージ株式会社 ミックスドシグナルIC事業部 惠谷文彦氏

Viscontiは、歩行者や障害物などの認識対象を撮影した膨大な画像データから抽出した対象物の特徴をもとに、これらを識別するためのパラメータ(注2)をあらかじめ作成しておき、カメラの映像とそれらをマッチングすることで対象物を識別する。しかし私たちが自動車を運転するのは、明るい昼間だけではない。非常に暗い夜道を運転する場合もある。その場合、人間の目では暗い状態で歩行者を見つけることは難しく、時には危険を伴う。このような環境下でも人や障害物を瞬時に認識することで運転者をサポートするViscontiには、過去から培ってきた様々な技術が蓄積されている。

 

(注2)パラメータ:プログラムを実施する際に設定する指示内容

 

Viscontiは、東芝の長年の画像認識技術や半導体の研究開発の成果を形にしたものだと言えます。例えば、郵便区分機における文字認識技術の知見や、テレビやゲーム機向けに開発した画像処理エンジンの技術が生かされています。次世代品の開発においても、東芝グループの研究開発部門と連携して進めています」(惠谷氏)

車載半導体に省エネが求められる理由とは?

一方、スマートフォンやタブレットよりも遥かに大きな自動車向けの製品において、低消費電力であることはなぜ重要なのだろうか。

 

「電気を多く使う半導体は、その分動作の際に熱を発します。画像認識用の半導体は、自動車の中でもフロントガラスの上部付近に設置されることが大半ですが、この場所は日光によって特に温度が上がりやすく、発熱を抑えないと半導体が動作を停止してしまいます。カーナビなど、車(ボディ)の中に設置されるものはファンや放熱器をつけても良いのですが、フロントガラス付近はそうはいきません。そのため、電力消費を抑えることが必要なのです」(惠谷氏)

 

これら高度な画像認識性能と低消費電力といった強みが評価され、「Viscontiファミリー」は、複数の車載機器ベンダーに採用され、量産車にも搭載されている。

画像認識プロセッサ 「Visconti™」

画像認識プロセッサ 「Visconti」

より高度な自動運転実現への挑戦

現在は緊急ブレーキなど、主にADAS(先進運転支援システム)に搭載されているViscontiだが、完全な自動運転の実現に向けては、まだたくさんの課題が残されている

 

これから自動運転技術が進化していく中では、AI(人工知能)を活用した機能も求められてくるでしょう。」(惠谷氏)

 

現在、より高度な自動運転の実現に向け、世界中で技術開発が加速しており、東芝も株式会社デンソーと共同で、人間の脳の神経回路をモデルにしたAI技術であるDNN-IP(Deep Neural Network-Intellectual Property)を開発している。

 

また、AIの活用に留まらず、次世代のさらに先を見据えた構想も始まっている。

 

「自動車の安全を考えたとき、通常のAIでは人間の脳が歩行者や障害物を認識するのと似たプロセスで画像を認識しています。しかしその方法では、究極的には人間が起こし得る事故は防げないこともあるはずです。人間が起こす事故も防ぐには、不測の事態の起こりやすさやその可能性を予測・計算しなくてはならないので、これまでに無いほど、非常に高速で複雑な情報処理を求められることになります。」(惠谷氏)

 

より安全で便利なモビリティーの実現に向けて、進化を続ける車載半導体の世界。技術者たちの挑戦は終わらない。

 

「かつてはテレビ、最近ではパソコンやスマートフォンが最先端の半導体を必要としていましたが、現在、技術的に世界をリードしているのは車載向けの半導体だと思います。自動車市場が、一番難しいアルゴリズムや一番高速なコンピューティングを求める時代になりつつあり、世界中の半導体メーカーがしのぎを削っています。求められるハードルは高いですが、その分、非常にやりがいがあります。自動車分野に携わる技術者として、世界最先端の技術を取り入れたより良い製品を開発していきたいと思っています」(惠谷氏)

東芝デバイス&ストレージ株式会社 ミックスドシグナルIC事業部 惠谷文彦氏

Related Contents