意外と知らない半導体 IoT時代にディスクリートが秘める可能性とは?

2018/04/04 Toshiba Clip編集部

この記事の要点は...

  • 私たちの身近にある製品に使われている半導体は、実は細かく種類を分類できる。
  • 演算を担うシステムLSI、データを蓄積するメモリのほか、単一機能を担うものをディスクリートと呼ぶ。
  • 1台のスマホに数十個も搭載されることもあるディスクリート。その知られざる全容を探る。
意外と知らない半導体 IoT時代にディスクリートが秘める可能性とは?

物質は大きく、電気を通すものと通さないものに分類される。電気を通すものを「導体」と呼び、電気を通さないものを「絶縁体」と呼ぶが、その中間の性質を持つ物質がある。つまり、条件を変えることで電気を通したり通さなくもなる物質、それが「半導体」だ。

 

「半導体」という言葉は本来、シリコンなどの物質そのものを表すものだが、一般的には半導体の性質を利用して作られる電子部品や、回路の総称として使われている。たとえば、演算装置である「システムLSI」や記憶装置である「メモリ」、単一機能を担う「ディスクリート(個別半導体)」などである。

 

私たちの暮らしは今や、エレクトロニクスと無縁ではいられない。つまり、半導体は誰にとっても身近なものである。しかしながら、それらがどのようなものかを説明できる読者は少ないのではないだろうか。そこでここでは、半導体の中でもディスクリートに注目し、その詳細を追っていきたい。

様々な電気製品に組み込まれている半導体

様々な電気製品に組み込まれている半導体

身の回りで活躍しているディスクリート

半導体は機能の集積度によって、いくつかの種類に分かれている。単一の機能を担うディスクリートは、最も集積度が低いものに分類され、代表的なものでは、電流をコントロールする機能を持つトランジスタや、電流を一方通行にする機能を持つダイオードなどがある。

 

「ディスクリートは私たちの生活の様々な場面で活用されています。たとえば、スマートフォンやパソコン、エアコンなどには、1台あたり数十個のディスクリートが搭載されているケースが珍しくありませんし、自動車に至っては数百という数にのぼります」

 

そう語るのは、東芝デバイス&ストレージ株式会社・ディスクリート半導体事業部の河野明弘氏だ。

東芝デバイス&ストレージ株式会社・ディスクリート半導体事業部の河野明弘氏

東芝デバイス&ストレージ株式会社・ディスクリート半導体事業部の河野明弘氏

「たとえばパソコンの電源アダプターは、10~20年前に比べると著しく小型化しています。これはそこに組み込まれている、ディスクリートを含む電子部品の小型軽量化によるものです。こうした機器の進化は、誰もが身近で感じられるディスクリートの進化の一端と言えるでしょう」

 

単一の機能を担うディスクリートに対し、トランジスタなどの複数の素子を1つに集積させたものが「IC」(※1)や「LSI」(※2)だが、その根底を支えているのは一つひとつのディスクリートだ。

 

※1:IC:Integrated Circuit(集積回路)の略称。
※2:LSI:Large Scale Integration(大規模集積回路)の略称。ICよりさらに集積度を増した回路のこと。

しかし、これほど重要な存在でありながら、ディスクリートという言葉は一般的にあまり馴染みがない。これはなぜか。

 

「信号処理のスピードを上げる必要性から、世の中のさまざまな機器のデジタル化が進められてきましたが、そこで活用されたのがICです。ICの進化なくして、スマートフォンのデータ通信や高精細のデジタルテレビは実現できませんでした。つまり、デジタル機器向けのICや、それらの記憶装置としてのメモリの方が、注目を集めやすかったのがその理由でしょう」

米粒より小さな半導体も?

米粒より小さな半導体も

米粒より小さな半導体も

ディスクリートはいくつかの種類に分類できる。そのうち東芝が手掛けているのは、「パワーデバイス」、「小信号デバイス」、「オプトデバイス」の3分野だ。

 

まず、パワーデバイスとは、簡単にいえばスイッチのこと。主に電気を直流から交流、あるいは交流から直流に変えたり、電圧を上げたり下げたりして、電力を効率良くコントロールする役割を果たすものだ。電力制御や温度調節機能など、家電から発電所まで幅広く使用され、東芝では定格1W以上のものをパワーデバイスと呼んでいる(※一部例外あり)。

 

これに対し、1W未満のものが小信号デバイスだ。最小パッケージサイズは、なんと0.4mm×0.2mm×0.1mm。米粒よりもはるかに小さいこの半導体は、スマホから自動車まで幅広く使われている。

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オプトデバイスは光半導体とも呼ばれるもので、この中でも東芝は、光の点滅を信号として伝える「フォトカプラ」の分野で、世界シェアNo.1(※3)を誇っている。フォトカプラは、高電圧のシステムと低電圧のシステムの間で、電気的に絶縁しながら信号を伝達する機能を果たすものだ。

 

※3:2018年3月、東芝調べ

これらのディスクリート3分野で、東芝は特にパワーデバイスに注力しており、性能アップのための微細加工が目下の重要テーマだという。

 

「半導体の内部には抵抗があり、流れた電気の一定割合はこの抵抗のために損失として熱などに変換されてしまいます。つまり、抵抗が大きいほど効率は悪化します。これを改善するために、微細加工によって実効面積を増やし、抵抗を小さくする必要があるのです」

ディスクリートが持つこれからの可能性

今後、こうしたディスクリートの市場は、どのように変化していくのだろうか。

 

河野氏によれば、ディスクリートの中で需要がますます増える分野として期待できるものの1つが、データセンターだという。データセンターの設備には多くの電源が必要で、それを24時間365日稼働するために、省エネが大きな課題となっている。そこでパワーデバイスが電力の高効率化の実現に貢献するのだ。

 

「スマートフォンの通信速度は右肩上がりにアップしており、現在の4Gから5Gに移行するのも間近。通信速度が上がれば当然、通信量が増大しますから、データセンターの増設は不可欠です。そのため、電源の省エネや省スペースに寄与するディスクリートの、さらなる需要増に期待できるでしょう」

MOSFETS

また、身近な家電やIT機器だけでなく、これからさらなる普及が見込まれる電気自動車なども、ディスクリートにとって大きな市場として期待される分野だ。すでに電車や新幹線などの鉄道車両には、たくさんのディスクリートが組み込まれている。

 

人々の生活や産業を、縁の下で支えているディスクリート。IoT全盛の今だからこそ、改めてその働きに注目してほしい。

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