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消せる印刷機と消せるペン モノづくり企業の魂の共鳴


消せる印刷機と消せるペン モノづくり企業の魂の共鳴

この記事の要点は…

モノづくり企業を説得させたモノづくり企業ならではの熱き想いとは?

消色温度と定着温度の差を埋める!

日本企業でCOP19に出展できたのはLoopsのみ!

印刷した文字をまっさらに――一日に幾度もの印刷と紙の廃棄を繰り返す店舗やオフィスなどで働く方であれば、紙の無駄をなくしたいと一度は願うのではないだろうか。それを叶える印刷機。それは、消えるトナー(※)を用いて印刷し、再びその紙を入れると、印刷前のような白紙に戻すことができる複合機「Loops」だ。
※トナー:複写機で使用する帯電性粉末インクのこと。

書いた文字が消えるといえば、オフィスや家庭でおなじみの「フリクションボール」を思い出すだろう。実は、このLoops、東芝テック株式会社と株式会社パイロットコーポレーションの二人三脚で生まれた製品だ。

もちろん、フリクションボールの技術はパイロット社が技術の粋を凝らした秘中の秘。東芝テックが初めてLoopsのトナーの共同開発を持ちかけたとき、その提案は断られたという。この開発が実現した背景には、モノづくり企業同士の魂の共鳴があった。

相手の心を動かした試作品

エコを意識したプロジェクトとしてLoopsの開発がスタートしたのは2007年。プロジェクトチームは、折しも世間に登場し始めた、ボディ後部のラバーでこすると文字が消えるフリクションボールの技術に注目した。

フリクションボール

フリクションボール

パイロット社に共同開発を打診するも、そうやすやすとは受け入れてもらえない。だが、開発チームはめげなかった。開発責任者の中村鐵也氏は、当時のことを次のように明かす。

「開発チームはフリクションボールを数百本単位で購入。一本一本の芯からインクを抽出し、トナーを試作しました。冷静な今なら『無謀だ』と思うかもしれません。というのも、通常のトナーに入れる色材粒子に比べ、フリクションボールのインクの粒子の方がはるかに大きいからです」

東芝テック株式会社 商品・技術戦略企画部リサーチ&デベロップメントセンター センター長 中村鐵也(てつや)氏

東芝テック株式会社 商品・技術戦略企画部リサーチ&デベロップメントセンター センター長 中村鐵也(てつや)氏

トナーは、色材をプラスチック樹脂のカプセルにくるむ構造となっている。印刷の際は、定着器で熱と圧力を加えることで、プラスチック樹脂を溶かし、色材を紙に定着させている

フリクションペンの消えるインクの粒子の直径は、トナーの色材の10倍以上。だが、プラスチック樹脂のカプセルの中に消えるインクを入れ込むという至難の技をトナー開発部隊はやってのけた

トナーの構造。通常のトナーの色材(赤)より消えるインクの色材(濃い青)の方がはるかに大きい。

トナーの構造。通常のトナーの色材(赤)より消えるインクの色材(濃い青)の方がはるかに大きい。

「実は印刷も一苦労だったのです。というのは、消えるインクはラバーによる摩擦熱で消色する仕組みなので、トナーの定着で摩擦熱以上の高温をかけると、インクが消えてしまうから。紙を定着器には通さずに、トナーの色が消えないように少しずつ低温で温めて定着させたこともありました。絶妙な温度にするための調節がとても難しかったのです」(中村氏)

巧みなプレゼンでも、美辞麗句が散りばめられた企画書でもない、まだ見ぬ製品への熱き想い。これが相手の技術者の心を動かしたのだった。

パイロット社との共同開発が正式に決まったものの、本格的な実験を開始しようと思うと、ここからが問題。どうやって消色しないようにトナーを定着させるか。東芝テックとパイロット社の二人三脚は始まったばかりだった。

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